――念願かなってドラマに異動されましたが、現在も特番で放送されている『1周回って知らない話』では引き続き演出を担当されています。
40歳を超えてから希望していたドラマ班に行っていいということになったんですけど、その時点では『1周回って知らない話』と『ヒルナンデス!』(月曜日)の演出をやっていました。異動の際、「『1周回って知らない話』はこれからも続くからできるよな?」と言われて、僕はもうドラマに行けることに喜んでいたので、「できます!」と即答してしまいました(笑)
――『1周回って知らない話』について、前回の林田さんが「ゲストをどういう角度で掘っていくかの感覚が、ドラマを始めてから鋭くなっていると思う」とおっしゃっていたのですが、ご自身としてはいかがですか?
「鋭くなった」という表現が正しいかどうかは分からないんですけど、僕自身で言えるのはバラエティをメインでやっていた時に比べると、いい意味で肩の力が抜けた感じがあります。ゲスト1人選ぶにしても、バラエティメインでやってた頃は「ゲストに誰を呼べば、たくさんの視聴者に見てもらえるか」というのを、様々な情報データを参考にし多角的に熟考して決めていたんですけど、今はそういうことをほとんどしていないんです。素直に「今だったら、この人の話聞きたいな」という方をブッキングするようになったのは、ドラマを始めてからですね。
それと、高嶋ちさ子さんと、そのお父さん・お姉さんに密着する企画が人気なんですが、その企画を最初にやった時に、自分の中ですごい発見があったんです。VTRでは家族3人に密着しているだけなんですけど、今までにないくらい笑い転げたのを覚えています。なぜ、あのご家族が面白いのかというのを自分なりに分析してみると…今のテレビではちょっと躊躇(ちゅうちょ)してしまうような表現がどんどん出てくるんです。時に悪口を言い合うし、ちさ子さんとお父さんがそろって、ダウン症のお姉さんに文句を言ったりするのですが、そこに年齢差とか障がいとか一切関係なく、家族の愛があるからこそ許されていて。
こういうありのままを見せることで面白さが伝わるものは、世の中にまだまだたくさんあるんだろうなと気付かされたんです。だから小手先の技術を駆使するよりも、自分の感覚が本当にシンプルに「今知りたい」という直感的な興味に変わったのかなと思います。そういう意味で、高嶋ちさ子さんファミリーの密着は、自分の作るものにすごく変化を与えてくれた、転機になった企画です。
――その発見は、ドラマでも生かされているのでしょうか。
そうですね。最初にチーフ演出を任された『恋です! ~ヤンキー君と白杖ガール~』という連ドラで、杉咲花さんに弱視の障がいのある高校生役を演じてもらったんですが、このドラマの世界にも“高嶋ちさ子さんファミリー”に通じる部分があって。このドラマの“伝えたいこと”の一つが「障がいのある人たちだって、健常者と同じように日常に“爆笑あるある”がたくさんあって楽しく過ごしている」というものだったんです。「健常者が何の知識も持たずに障がいのある方に対し、“かわいそう”と思うのってそもそもどうなの?」っていう。だからこそ、弱視の人たちにとって当たり前に笑える世界をありのままに描いて、大いに笑ってもらおう!と演出しました。『1周回って――』の経験が生きたのかもしれません。
全員に配慮しながらガンガン聞いていく東野幸治
――バラエティでお仕事をしてきた中で、特に印象に残る方はどなたになりますか?
くりぃむしちゅーさんには、本当に密度の濃い番組制作の中でいろいろ教えてもらいました。それとやっぱり『1周回って――』の東野幸治さんが素晴らしいですね。ああ見えてとても気をつかう方なので(笑)、メインゲスト、パネラーゲスト、観覧のお客さんも含めて、スタジオの全ての人に配慮しながら、一番聞きたいことをガンガン聞いていってくれるし、メインゲストの方も自然といろいろ話してしまう空気づくりが、ものすごい技術だと思っていて。
メインゲストの方の背景とかも、事前に勉強されているのか分からないんですけど、入念に調べているはずの僕らスタッフより情報を持っていたりもします。一見何事にも興味がなさそうに見えるのに(笑)、実はいろいろなことにアンテナを張り続けている方なので。だからこそ、あの番組は東野さん以外ではできないと思っています。
――ドラマの世界に来て、興味を持って深く掘っていきたいと思って『1周回って――』にオファーした方もいらっしゃるのですか?
小泉孝太郎さんですね。ここに至るまでの役者の道のりや、どんな幼少期を過ごされたのかということにすごく興味があり、弟の進次郎さんとそろって出ていただきました。