新型コロナウイルスのディスプレイ産業への影響

新型コロナウイルスの感染拡大(COVID-19)が大型ディスプレイパネルの生産に及ぼす影響としては、高度に自動化されたフロントエンドの製造よりも、人手を必要とするバックエンドモジュールの製造・出荷の方に影響が出ている。

一般的にオープンセル形式で出荷されるテレビ向けパネルは2020年2月の出荷実績を見ると、実際の出荷と予測されていた出荷のギャップは9.8%程度であったが、モジュール形式で出荷されるPCモニターやノートPC向けモニターの同月の実際の出荷量と予測された出荷量の差は、それぞれ25.5%と29.9%と大きく乖離する結果となった。一方、中国では新型コロナウイルスの感染拡大が収束に向かっており、パネルの供給そのものは徐々に増加しつつあるという。

また、テレビ向けパネルの価格が回復傾向にあることから、中国のパネルメーカーの出荷意欲が高まる一方、韓国のパネルメーカーは競争を避ける方針として生産能力の縮小を続けており、パネル生産を終了させる方向に向かっている。そのため、2020年のグローバルなテレビ向けパネルの出荷額は前年比4%減と落ち込むことが予想されるという。

一方のPCモニター向けやノートPC向けなどIT機器のパネル供給が徐々に回復していくことで、2020年第2四半期ならびに第3四半期の業界サプライチェーンは、2020年第1四半期に生じた出荷のギャップを補うことが予想され、最終的にはモニター向けが前年比3.4%増、ノートPC向けが同0.4%増とプラス成長に落ち着くとの予測をTrendForceではしている。

5Gを中心とした通信インフラへの新型コロナの影響

世界の通信環境を支える光ファイバーと光ファイバーケーブルの研究開発拠点ならびにサプライヤの半数以上が中国の武漢に集中している。

光ファイバーに関連する製品には、光通信コンポーネント、光トランシーバー、5Gコンポーネントなどがあるが、5G基地局の主要コンポーネントサプライヤのほとんどは中国の湖北省(省都は武漢)にあるため、光通信業界への新型コロナウイルスの感染拡大の影響は、5Gインフラストラクチャの開発と2020年上半期での5Gサービスの展開に深刻な影響を与える可能性があるとTrendForceではみている。

5G基地局の建設には高品質の光ファイバーケーブルが従来の4Gよりも多く必要となっているが、こうした大量接続かつ高速通信の実現は、新たなビジネスチャンスをもたらすことが期待されるという。そのため、中国の通信関連機器のベンダであるFiberhome NetworksやYangtze Optical FC(YOFC)、Hengtong(HTGD)などは、新型コロナウイルス感染の収束に伴う作業や製造を積極的に再開しているとするが、多くの省間道路と都市間道路が依然として遮断され、国際便も減少しているため、業界全体での物流量が減少しており、出荷そのものは減少しているとする。

2020年第2四半期中に世界で新型コロナウイルスの収束ができなければ、グローバル5Gネットワークとデータセンターのインフラ構築に影響を及ぼす可能性が高いほか、世界経済についても、5Gインフラ整備の遅延と、消費者のスマートフォン(スマホ)の購入意欲の減退により、5Gスマホの売り上げが鈍化するものとTrendForceでは見ている。

在庫が十分にあるLEDへの影響は軽微

世界のLEDチップ生産の多くを占める中国メーカー各社は、旧正月休暇(春節)中であっても全面的な操業停止を行わず、一部の従業員が工場に残り生産を継続していたこともあり、新型コロナウイルスが収束する中、全面的な生産再開は比較的スムーズに行われているという。

ただし、上流の原材料、特にサファイア基板の不足が懸念されるため、基板製造業者は3月のLEDエピタキシープロセスの稼働率を70%以上に引き上げ、価格上昇の対応に向けて在庫を増やしたという。対照的に、現在の主なLEDチップの在庫レベルは高く、クライアントからの需要も大幅に増加となっていないため、LEDチップ製造の作業再開率は比較的低くなっている。そのため、一部の高品質品や特殊用途品を除いて、在庫も十分にあるため、価格もローエンド品がわずかに上昇してはいるものの、大部分の価格は以前のままだという。

太陽光発電システム市場への新型コロナの影響

太陽光発電システムのサプライチェーンの混乱と不足に関する当初の懸念は、中国での新型コロナウイルスの感染者数の減少とともに、製造工場に戻る従業員数が増加しており、次第に和らいでいる。サプライチェーン全体の業務再開率も、2月の30%から3月は50%に上昇し順調に推移しているといえるが、物流が改善はしているものの、正常に戻っていない点がネックとなっているようだ。

一方、中国以外の市場は、都市もしくは国家規模で封鎖が実施されているところも多く、そうした取り組みが太陽光発電システムの電力グリッドへの接続申し込み期限がある市場に影響を与えている。そのため、台湾を含む一部の市場では、電力グリッド接続への申し込み期限の延長を発表している。ただし、2020年前半に出現するはずであった太陽光発電システムの設置需要は、年後半以降にずれ込む見込みである。そのため2020年の総需要は前年とそれほど変わらず110〜130GW程度とTrendForceは予測している。