総務省の覆面調査で、携帯大手のいわゆる「キャリアショップ」で、非回線契約者に端末購入プログラムを用いたスマートフォンの単体販売を拒否する事例が少なからず起きていることが明らかにされている。お店が顧客に商品を販売しないというのは考えにくいことだが、そこにはキャリアショップのビジネスモデルが大きく影響している。改善には何が求められるのだろうか。
非回線契約者への端末購入プログラム提供拒否店舗が続出
携帯電話会社が全国に整備し、携帯電話の契約やサポートなどができる、いわゆる「キャリアショップ」と呼ばれる店舗は、携帯各社の重要な販売拠点として多くの人に知られる存在だ。だが最近総務省の有識者会議において、そのキャリアショップを巡るある問題が指摘されている。
それは高額なスマートフォンを安く利用できるようにする、いわゆる端末購入プログラムに関するものだ。2019年の電気通信事業法改正により、回線契約を条件としたスマートフォンの値引きは上限が2万円に規制されることとなったが、現在3社が提供する端末購入プログラムは、回線契約者でのなくとも契約できる仕組みとなっているため、電気通信事業法の規制にかかることなく2万円を超える利益提供を実現している。
それゆえ各社の端末購入プログラムは、自社の回線契約者だけでなく、非回線契約者に対しても同じ条件で提供しなければ改正電気通信事業法に抵触し、違法となってしまう。にもかかわらず、総務省が実施した大手3社のキャリアショップへの覆面調査では、非回線契約者への販売を拒否する店舗が少なからず存在したとのこと。その数は最も多いKDDIで29.9%、最も少ないソフトバンクでも9.3%となっており、各社が報告した比率よりも明らかに多いという。
さらに総務省は携帯3社が、非回線契約者でも端末購入プログラムが利用できることを積極的に告知していないとも指摘。公正取引委員会が実施したアンケートでは、非回線契約者が端末購入プログラムを利用できることを「知らない」と答えた人が87.1%と、9割近くに上っている事が示されている。
一般的なビジネスの常識からすれば、顧客に販売を拒否するというのは理解しがたい部分があるだろうが、そこには携帯電話業界独自の事情が影響している。というのも携帯3社はキャリアショップに端末を卸す際、その卸値が各社のオンラインショップと同額であり、非回線契約者に販売すると利益が全くでないどころか、決済手段などの条件によっては赤字になってしまうというのだ。
なぜそのようなことが起きるのかというと、携帯電話業界の従来の商習慣を考えれば理解しやすい。キャリアショップは携帯電話会社が自ら運営するのではなく、各社と提携した販売代理店が運営しているのだが、その主な収益源は顧客への物品販売ではなく、携帯電話会社からの評価に応じて得られる手数料なのだ。
つまり販売代理店は携帯電話会社に高く評価されるほど多くの収入が得られる訳で、その評価基準は携帯各社の収益につながること、具体的には高額な料金が毎月安定して入る料金プランやサービスの契約をいかに多く獲得できるか、なのである。しかもスマートフォンの大幅値引きに厳しい規制が課せられる以前は、スマートフォンはある意味新規顧客を得るための“撒き餌”という側面が強かったこともあり、端末を売って利益が出る仕組みとはなっていなかった訳だ。
だが行政によって端末値引きに大幅な規制がかけられ、ある意味法律によって端末単体の販売が求められるようになるなど、周辺環境は大きく変化している。にもかかわらず、携帯電話会社と販売代理店の関係と収益構造が大きく変わった訳ではなく、携帯3社は現在もなお、高額なプランの契約をいかに多く獲得するかを販売代理店に求めている。そうしたひずみが非回線契約者への端末販売拒否へとつながっているといえよう。
ショップを減らしたいキャリア、減らしたくない政府
ひずみの根本的な原因が、毎月の携帯電話代でキャリアショップの運営費用が賄われているというビジネスモデルにあることは明らかだ。携帯電話会社の側も高額なプランの契約者が減少すれば、販売代理店の運営に回す費用を減らさざるを得ないだけに、一連の問題を解決するには店舗の数を大幅に減らすか、ビジネスモデルそのものを大きく変えるか、いずれかの選択が求められるだろう。
そして携帯電話会社は営利を追求する民間企業なので、市場飽和や少子高齢化を理由として前者を選択することももちろん可能ではある。キャリアショップでのサポートをカットして料金を安くする「ahamo」などオンライン専用の料金プラン契約者が今後大幅に増えるようであれば、一層実店舗を設けることの必要性が薄れてくるだけに、その可能性は大いに高まってくると考えられる。
ではなぜ、携帯各社はショップ数の大幅減に踏み切らないのか。そこには公共性が強いという携帯電話事業ならではの理由もあるだろうが、もう1つ大きな影響を与えているのは総務省、ひいては政府がキャリアショップを減らして欲しくないと考えているからではないかと筆者は見る。
その理由はコロナ禍で叫ばれるようになったデジタル化にある。現在日本政府はマイナンバーカードなどを活用し、スマートフォンを使った行政手続きのデジタル化を推し進めているのだが、現状のままではシニアを中心にスマートフォンを利用できない人達が行政サービスなどを受けられなくなる、いわゆるデジタルデバイドが発生してしまう。それを解消するための手段として、「スマホ教室」など顧客のサポートに力を入れているキャリアショップの存在を総務省などは重視しているのだ。
だが総務省がキャリアショップの構造に厳しいメスを入れるほど、ビジネスモデルに無理が出ているキャリアショップの維持は難しくなり、地方のシニアを主体としたデジタルデバイドの拡大は避けられなくなってくる。それだけに一連の問題を解決する上で行政に求められるのは、携帯各社にキャリアショップを維持する明確なメリットを与えることだろう。
より具体的に言えば、デジタルデバイド解消施策に補助金を出すことだ。例えば現在携帯各社が実施しているスマホ教室などは基本的に無料で実施されているのだが、なぜ無料なのかといえば、それは実質的に高額なプランを契約している人達の料金から、その費用がねん出されているからだ。
それゆえスマホ教室を実施する携帯電話会社や販売代理店に政府が補助金を出し、毎月の携帯代に依存することなく単独で事業として成立するようになれば、携帯各社がキャリアショップを維持するモチベーションにつながってくるだろう。実際総務省は2021年4月より、デジタル格差解消に向けた「デジタル活用支援推進事業」の参画企業を募り、参画する事業者には助成するとしていいる。
そしてこの事業には、事業者には2021年6月には楽天モバイルを含む携帯4社らが参画を打ち出し、既に採用がなされているようだ。行政がキャリアショップの維持と業務の改善を両立しようというのであれば、今後も同様に、具体的なキャリアショップへの支援策を打ち出していく必要があるといえそうだ。