デザインエアコンシリーズの新ラインナップとして、富士通ゼネラルが2021年3月末に発売した「ノクリア Zシリーズ(以下Zシリーズ)」。ファブリック調の室内機で注目された「ノクリア SVシリーズ」(2020年)に続いて、室内機には陶器をモチーフとしたデザインを採用した。
樹脂のパネルでリアルな陶器を再現したそのクオリティには驚くばかりだが、Zシリーズにこめられたこだわりはそれだけに留まらない。同社デザイン部・部長の三宅学氏に、さらに奥の深い部分にまで秘められた妥協なき追求と、製品にかけた想いを語ってもらった。
光と影がもたらす「表情」の最適解を模索
Zシリーズのこだわりとして、三宅氏が「質感」の次に明かしたのは「表情」。「無表情で壁に付いているのではなく、日本家屋の土壁や趣のある陶器のように表情を豊かにできないだろうか」と考え、時間の経過による表情の移ろいに注目。空間に人工的ではない自然なたたずまいをもたらすため、光の当たり具合などで変化する見え方をとことん検証した。
「まずは想定できる、ありとあらゆる光源で検証しました。例えば、蛍光灯とLEDでは光の直進性が変わります。また、ダウンライトやシーリングライトといった照明器具の違いや、位置によっても表情が変わります。自然光であっても、朝陽、日中、夕日と変わる間に、波柄の深さと角度によって、影ができて暗くなり過ぎたりもしました。例えば、朝見ると光を浴びて白く光るのですが、夕方になると陰によるグラデーションが出て、しっとりと壁になじみます。さまざまなシーンや位置に置いて、これが一番キレイだと言える最適解を模索しました」(三宅氏)
結果として、「一日が始まる朝陽に映えるスッキリとした明るい表情から、ゆったり過ごしたい夜のくつろぎに合う柔らかな灯りにまで調和する、上質で落ち着きのあるたたずまいまで、日本的な情緒を上手く表現できたと思います」と胸を張った。
大きさをごまかさず、実際に置いたときの圧迫感を軽減
SVシリーズでは前面パネルの連続感ある柔らかな造形により、圧迫感の低減が図られた。しかし、Zシリーズでは、小さく見せるための構造上のメスが入っていない。三宅氏はその理由を次のように話した。
「SVシリーズとZシリーズでは、開発の目標が違うのです。SVシリーズは設置場所を選ばない、日本一小さくて性能がいいエアコンを作ることを目指した製品でした。それに対してZシリーズは、リビングにあって高い性能と機能を満たしながら、デザインを良くしていくことを目指した製品です」
Zシリーズは広い空間に向けた機種のため、構造上、大型の熱交換器を内部に格納することが避けられない。「多機能なため、それに必要な物をすべて収めた状態で、うまくデザインしていくというのが至上命題」であったという。
そこで採られた手法が、室内機の前面の大きさはあえてそのままに、広いキャンバスを活かした表現で、圧迫感を減らすデザインを施すことだった。前述した「表情」を生み出す波の文様は、圧迫感軽減の手段の一つでもあるそうだ。「壁一面に並んで、正面しか見えないことが多いエアコン売り場で、大きさはごまかさずお客様と誠実に向き合い、錯覚により小顔に見せる方法です」と説明する。
エアコンは高いところに設置するため、ユーザーの目に入るときには見上げることになる。そのため、下のアングルから見たときに圧迫感を抑えるため、こんな工夫がされている。
「エアコンの室内機は日常的に見上げることが多いので、下側からの圧迫感が意外に気になるものです。そこで圧迫感がなく、ゆったりとした豊かな表情を出すための大きな曲面を採用。また、表示部のアイコンだけを前側にデザインし、リモコンの受光部やLEDの表示部は溝の奥まった部分に配置することで、お客様がノイズを感じる要素を最小限にしました。実はLEDランプは構造上奥まった位置にあるのですが、導光板を用いて見やすい位置に誘導しています。LEDの色自体は他の製品と共通ですが、溝の壁を照らした間接光とすることで、光り方も自然なたたずまいになるようにこだわっています」(三宅氏)
各部門の協業を可能にしたデザイン改革
プラスチックの素材を陶器のように見せるというだけでなく、光の当たり具合による表情の移ろいにまで注意を払うほどこだわり尽くされた、富士通ゼネラルのデザインエアコンの新ラインナップ。最後に、富士通ゼネラルにおけるデザイン思想について、三宅氏は次のように語った。
「数年前からデザイン改革に取り組む弊社では、デザイン思想として単に消費者からの『NEEDS』に応えるだけに留まらず、『具体的な要求=WANTS』起点で製品を開発しています。以前は、技術部門がまず中身を組み立ててから、デザイン部門で服を着飾らせるというような開発プロセスでしたが、UXデザインに価値を置くあり方にシフトを変えた現在は、商品企画やあるべき姿をデザイナーと技術者がプロジェクトで創り、構造や部品レイアウトなどの骨格を一緒に考え、部品や加飾業者をデザイン側で探して調達部門に積極的に提案しています。今では開発に携わる各部門が分断した形ではなく、お客様のWANTSに応えるために手を組み、知恵を出し合いながら、製品の企画・開発・製造に取り組んでいます」