韓国は新型コロナウイルス感染者の数が2月末にピークとなり、5月初頭で新規感染者数は1桁台まで減少。その結果、企業活動も徐々に正常化しつつある。

こうした社会情勢の変化に伴い韓国系企業の海外進出も活発化。韓国系企業が多数進出している中国とベトナムとの政府間協議によって、多数の韓国人技術者の例外的な海外渡航が盛んになってきている。

韓国から中国への商用渡航制限が5月1日より緩和

韓国政府外交部(日本の外務省に相当)によると、韓国と中国は4月29日、局長級の防疫協力対話を開催し、両国の企業関係者の迅速な例外入国を認める「ファストトラック」制度を5月1日から開始することで合意。これにともない韓国人技術者が続々と中国に渡航を始めた模様である。これまでは韓国企業が1件ごとに例外的な入国許可を申請する必要があり、中国が入国制限を実施して以降、約800人が例外的な入国を認められるにとどまっていた。

韓国外交部によると、中国入国の際に同制度が適用されるのは上海市、天津市、重慶市、遼寧省、山東省、江蘇省、広東省、陝西省、四川省、安徽省で、いずれも韓国企業が進出している地域である。Samsung Electronicsの3D NAND量産工場のある西安市(四川省)やSK HynixのDRAM量産工場およびファウンドリのある無錫市(江蘇省)も含まれている。

ただ上海市、遼寧省、山東省、江蘇省、安徽省の5地域以外は、韓国から定期便の路線を利用していくことができないため、しばらくはこの5地域が対象といえる。北京市は含まれていないが、韓国勢の半導体製造業務には支障がない。

同制度が適用される地域については、中国の地方政府が発行した招待状と在韓中国大使館が発行するビザがあれば、中国に入国する際の手続きが簡素化される。招待状は中国企業や中国に進出した韓国企業が申請すればすぐに発行されるようだ。

Samsungは西安事業所の第2工場第2期拡張工事で拡張された3D NAND量産ライン立ち上げに向け、特例ですでに200名の半導体技術者を中国に入国させることに成功しているが、今後は追加人材の派遣が容易にできるようになった。

韓国からベトナムへも追加で340名の派遣を実施

韓国外交部と同国産業通商資源部(日本の経済産業省に相当)は4月28日、ベトナム政府との交渉の結果、143社・340名からなる技術者やビジネスマンの集団が4月29日に大韓航空のチャーター機でベトナムに出発すると明らかにした。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大以降、韓国企業関係者の出国としては最大規模となる。ベトナムは、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために外国人の入国を制限しているが、1件ごとの両国政府の協議に基づき韓国企業関係者の入国を例外的に許可している。

これまでもSamsungグループや、LGグループの社員が例外的措置でベトナムに入国していたが、これらの下請け企業など中小企業からの出張は個別に交渉するのが難しい点を考慮し、韓国外交部が複数の企業からの申し込みを受け付けて1つのパッケージとして入国の承認を受けたという。

内訳は、公的企業1社、金融系企業6社、大企業9社、中小・中堅企業127社の社員たちで韓国で新型コロナウイルスの検査を行って陰性判定を受けることが前提となっており、ベトナム入国後は14日間の隔離を経て6月13日から勤務を開始する予定だという。なお、この特例はベトナムのグエン・スアン・フック首相の配慮によるもので、ベトナム政府は両国間の協議による例外的措置を除き、今後も従来どおり入国制限を続けるとしている。

Samsungの韓国からベトナムへのスマホ製造移管は中止

Samsungのフラッグシップスマートフォン(スマホ)の製造拠点である亀尾事業所は、2月から3月にかけて、従業員の新型コロナウイルスへの感染がたびたび判明、そのたびに操業を一時停止していたことから、生産の一部をベトナムへ移管することを3月6日に決定し、実行に向けた準備を進めていた。しかし、亀尾市では4月9日(累計感染者数58人)以降、ほぼ1ヶ月に渡り新規感染者が1人も出ていないことから、同社は、この計画を白紙に戻した模様だ。この背景には、ベトナムの入国制限で、希望しただけの数の技術者を必ずしも全員派遣できない事情もあるようだ。

  • Samsung Electronics

    Samsungのハイエンドスマホ製造拠点として位置づけられ、Samsung Smart Cityとも呼ばれる亀尾事業所 (出所:Samsung Newsroom Photo Gallery)