需要減退でメモリ価格も下落の可能性

世界保健機関(WHO)が新型コロナウイルスの世界的な感染拡大に対し、事実上のパンデミックを表明したことを受け、半導体市場動向調査会社のTrendForceは、「世界経済に極めて深刻なリスクをもたらすと同時に、半導体メモリ市場は予想よりも早く不況に陥る可能性がでてきた」と発表した。

パンデミックにより経済活動ならびに社会的活動が著しく妨げられ、消費者の購買力も低下することとなる。そのため、電子機器の出荷量も減少し、それに応じてメモリの需要も低下することとなる。

DRAMおよびNANDの平均販売価格は現在、主にクライアントの在庫レベルが比較的低いため、2020年第1四半期ならびに第2四半期までは価格の上昇を見込めるが、最終製品の需要低迷を受け、クライアントがメモリ調達力を弱める可能性が出てくる第3四半期以降、価格の上昇が止まり、NANDについては一転して値下がりに転じる可能性もあるとTrendForceでは見ている。

  • TrendForce

    DRAMおよびNANDの2020年の各四半期ごとの価格変動動向。3月初旬時点のシナリオ(上段)とパンデミックの表明があった3月12日時点のシナリオ(下段) (出所:TrendForce)

2020年下期、NAND価格は大きく下落する可能性

2020年第2四半期のメモリ価格上昇は抑制されNAND価格はその後下落へ

TrendForceは3月初旬の時点では、「DRAMとNANDは年間を通して供給不足が続き、クライアント側の在庫もほぼ低水準であるため、いずれの価格も年末までコンスタントに上昇していく。このため、2020年のDRAM価格は前年比32%増、NANDも同13%増となる」と予測していたが、現在はクライアントの多くが2020年第2四半期の終わりから在庫レベルを引き上げることをやめる見込みで、そうした動きが2020年下期のメモリ製品の価格に影響を及ぼすことが懸念されるとしている。

DRAMに関しては需要が低下しても、これまで需要と供給の間のギャップが大きかったこともあり、2020年下期の価格はわずかにプラス成長となる可能性はあるとしているが、NANDに関しては大きな供給不足は生じておらず、クライアントの需要もこのままいけば減退傾向となるため、下期に大きく下落する可能性があるという。

パンデミックが家電業界に与える影響

世界経済がパンデミックの影響で冷え込むにつれて、家電業界にも以下の2つの影響があらわれるとTrendForceでは予測している。

  1. 一般消費者は収入からの個人的な支出を減らすことを目的に、家電購入の需要を先延ばしとし、市場規模が縮小する
  2. 店舗販売に替わって通信販売での注文が増え、消費者向け電子機器のサプライチェーンにおけるロジスティクスと人件費が増加、企業は収益を圧迫されるため、業界全体におよぶ大幅な再編が引き起こされる可能性がある

現在、DRAMおよびNANDに大きな影響を与えている電子製品はノートPC、サーバ、およびスマートフォン(スマホ)であり、これら3つのアプリケーションのうち、特にスマホの生産は大幅に減少する見込みである。実際、すでにスマホの生産は減少しているとTrendForceでは説明している。

一方、テレワークおよび遠隔授業が世界的に進むことが、サーバ需要に拍車をかけることとなるとみられる。クラウドサービスプロバイダーはインフラストラクチャの構築を継続的に行っており、このためサーバ需要は新型コロナウイルスの感染拡大の影響をそれほど受けていないというが、多くのエンタープライズクライアントについては、設備投資を絞り込み、エンタープライズサーバの将来需要を潜在的に(そして徐々に)弱める状況となっているという。

  • TrendForce

    2020年の最終製品の出荷・生産数量(単位:百万個)および前年比増減率(%)予測。ノートPC出荷額(上段)、サーバ出荷額(中段)、およびスマートフォン生産額(下段)のそれぞれにおける3月初旬時点での予測(上段)と3月12日のパンデミックの表明があった時点での下方修正予測 (出所:TrendForce)