富士通クライアントコンピューティング(FCCL)は11月20日、Edge AIプラットフォーム「Infini-Brain」の最新プロトタイプ機を、ノートPC生産拠点の島根富士通(島根県・出雲市)で披露した。6基のアクセラレーターカードと、Linuxベースで動くAIエンジン、Windows PC機能を統合したエッジコンピューターで、Windowsを載せたデスクトップPCとしても機能する。

  • 一見普通のデスクトップPCのような新Infini-Brain

  • Infini-Brain紹介スライドを見ると横置きもできそうだ

「FMV」シリーズで知られる富士通のPC部門が、富士通クライアントコンピューティングとして富士通本体から独立、2018年の5月2日にレノボ傘下として事業をスタートした。そこから567日目、約1年6カ月後となる2019年11月20日に、「DAY567」記念として「Infini-Brain」の最新プロトタイプが披露された。

Infini-Brainは2018年5月16日、齋藤邦彰社長がFCCLの新体制方針説明会を開催したときに初めてお披露目された。その時は白いキューブ型の筐体だったが(当時もプロトタイプだった)、新しいプロトタイプは黒く、より一般的なタワー型デスクトップPCのような姿になった。

内部には、GPUなどのアクセラレーターカードを最大6枚搭載可能。Windowsを動作させるためのIntelプラットフォーム部分と、機械学習の推論処理を担当するLinuxベースのAIプロセッサ部分があり、それらをブリッジコントローラでシームレスに接続する独自のアーキテクチャで構成される。WindowsアプリケーションとAIの推論プログラムの間で双方向に情報のやりとりが可能となっている。

これにより、よりリアルタイム性の高い高度な画像分析・画像処理が行えるようになる。処理をクラウド側ではなくローカル側で行うことで、通信速度やサーバー側の負荷などに寄らない、安定的な処理をスムーズに行えるという。

  • 側面にInfini-Brainのロゴ

  • 前面にある「FCCL」のロゴが目を引く(同社製PCにFCCLロゴはない)。DisplayPortやUSBポートを備え、周囲は水色LEDで光っている

  • Infini-Brainの内部構造

アクセラレーターカード6枚を使って何をするのか。FCCLが想定するのは、例えば店舗での万引きを防止する店頭監視システムだ。同社はドラッグストアに協力を仰ぎ、2台の監視カメラと、声掛け用の指向性スピーカー、通知用タブレット、そしてInfini-Brainを組み合わせ、AIが“不審な動きをしている”と判断した来店者に対し、指向性スピーカーで「いらっしゃいませ」という音声を流すことで、万引き抑止効果を図る実証実験を行った。

  • Infini-Brainの利用イメージ。これはドラッグストアではなく、同様のシステムが設置されている島根富士通内にある売店

  • 天井の監視カメラに映った来店者の顔を認識して動きを追跡し、個人ごとに個別の番号を割り振る。来店者が顔を隠したり、不審な動きをしたりすると検知し、該当者の映像に「!」のアラートを表示。連携したスピーカーからその人に向け、「いらっしゃいませ」の音声を流す

  • ドラッグストアで実施した店頭監視デモ実証実験の構成

  • 可動する指向性スピーカー。流す音声は、本体を向けた方向以外はほとんど聞こえず、向けた方向にのみよく聞こえるようになっている

  • 天井の監視カメラは2基。この映像をInfini-Brainがリアルタイムで分析する

その結果、大きな抑止効果がみられたという。ドラッグストアでは特に化粧品エリアでの万引き被害が多かったというが、導入前(2018年3月~7月)の被害額は、店舗全体で114,773円だったところ、導入後(2019年3月~7月)の被害額は78,765円の31%減となった。また、化粧品エリアに限れば、25,320円から3,700円と、被害額が85%減になった。FCCLでは、損害を抑えるだけでなく、万引きにかかわる店員の人件費を減らす効果も期待する。

  • 店頭監視デモ実証実験の結果

また、今回、実機は披露されなかったが、教育向けのエッジコンピューター「MIB」も、Infini-Brainと同時に開発を進めている。クラウド側のネットワーク負荷を分散させ、MIBが代表でコンテンツをダウンロードし、ローカル側で均一に配信するなどして、学校の基幹ネットワークに過大な負荷をかけずに、教室内の40台ほどのデバイスを活用できるという。

  • MIBは教育向けのエッジコンピューター。学校教育でPCが1人当たり1台となる時代にも活用できるとする

現在、FCCLの主軸はコンシューマ向けPCの企画開発製造、そして法人向けPCの製造だ。FCCL執行役員常務 プロダクトマネジメント本部 新規事業本部担当の仁川進氏は、FCCLには新しいビジネス領域が必要と語る。「AIだから何ができる、というものえはなく、本当にユーザーに役に立つ技術を持った新しいAIコンピューティングを提供することを頑張っていく」(仁川氏)。Infini-Brainはまだプロトタイプの段階であり、デザインも形も、商品化するかも含め、まだ未定の段階。「人に寄り添うものづくり」を掲げる同社が、今後どのようにInfini-Brainを実用化させていくのか、注目したい。

  • FCCL執行役員常務 プロダクトマネジメント本部 新規事業本部担当の仁川進氏

  • 島根富士通