DVDで描かれる5つのエピソードとは?

――この作品に関してですが、ともだちの根幹といえば、1970年代へのノスタルジーだけでなく、カルト教団による政治支配や、世界規模のテロなど、避けて通れない現代的なテーマがあります。こういった部分の描写に関して訊かせてください。

「テロなどは、なるべく直接描写では見せないように意識しましたね。現実のほうが、リアルで悲惨で、もっと荒唐無稽だと思うんですよ。だから逆にフィクションのほうは描写を抑えていこうと思いました。フィクションの映像では、より荒唐無稽に感じられて成立しないと思うんです」

――とにかく長大な原作に対して、大風呂敷の畳み方というか、完結のさせ方で苦労はありましたか?

「今回発売されるDVDとBlu-rayの映像特典で5つのその後のエピソードが描かれているのですが、これが僕なりの風呂敷の畳み方ですね。劇場版では描かれないまま謎を残して終わらしている部分に関して、落とし前つけていますから、これを観ていただければ、より満足していただけると思います」

――その5つのエピソードを本編に入れる事はできなかったのでしょうか?

「僕の中ではあの映画は巨大なライブシーンで終焉しているんです。そのあと、ダメ押しとしてともだち誕生が描かれている。それ以外を本編に入れるとあまりにも長くなりすぎるので、この形がベストだと思います。最終章の脚本は当初は4時間分もありましたから」

DVDでは、本編のその後ともいえる5つのエピソードが映像特典として収録されている。
Web限定予告(もうひとつのエンディングバージョン)映像はこちら(※Mac非対応)。予告Aパターン予告Bパターン

職業監督として全てを注いだ作品

――堤監督は、常にご自分のことを「芸術家でなく、職人。職業監督である」と分析しています。この3部作も職人的に取り組む事ができたのでしょうか?

「この作品には特別な思い入れがありましたね。ケンヂがお姉さんから最初に貰ったギターも、僕が小さい頃最初に買ったギターと同じでしたし、そういう部分から感情移入してしまって、『原作の浦沢さんはなんで、こんなに自分の事がわかるのか』とも感じました。膨大な原作を前にして『自分には無理かも……』と思うときもありましたが、『これは逃げちゃいかん』と思って取り組んだという感じです。だから、特別な思い入れがありますね。僕はやはり職業監督で、芸術家ではないのですが、職業監督としての人生を総動員してこの作品には取り組みました」

――職業監督として、やりきったという満足感はありますか?

「はい。原作に対して立体感のある作品を作れたと思います。原作と勝負しているのでもない、勝ち負けでもない。原作の大きな力を借りて『20世紀少年』の映像バージョンを作ったという感じです。この映画と原作は、対を成すという感じです。その対となるものを創るという行為自体が、手間隙かかり膨大でした。マッチで大きな船を作るという感じでしたね。作ること自体が芸術かといわれればそうかもしれなのですが、もう原作という描かれている絵があるわけで、それを立体化したという気分です。それを成し遂げた職人としての満足感はかなりありますね」

――DVDやBlu-rayでこの3部作を初めて観るという方々にひと言お願いします。

「3部作を通じて、細かい部分まで必死で作っているので、そういう部分を楽しんで欲しいですね。俳優の造形から、様々なディテールまで、すべて楽しんで欲しい。原作好きの方も、原作を知らない方も、楽しめると思います。懐かしい描写も含めて、親子二世代で楽しめる映画だと思います」

新作ラッシュの堤監督 -「怪獣映画も撮りたい」

――今年の堤監督ですが、どんなプロジェクトがあるのでしょうか?

「長いドラマを海外で撮ります。デジタル一眼ムービーのEOS 7Dのみで、スタッフ3人ぐらいで映像を作ろうという取り組みです。後は『トリック』の映画最新作、撮影を終え公開を控えている作品としては、映画『BECK』。あとは小さい舞台を連続で2本くらいやろうと思っています。また、テレビドラマの監督もする予定です」

――もの凄い仕事量ですね。

「1980年代のほうが、この何倍も忙しかったですから、大丈夫ですよ(笑)。テレビの演出の頃は1日5~6本の仕事というときも普通にありましたから。忙しいといっても、今はその中で、歳もとったし、社会を見るというか、好きな地理を学ぶ時間も作っていますから」

――そこまで色々やられて、パワーは衰えませんか?

「大丈夫です。1日4~5キロは普通に歩いてますし(笑)」

――ここまで仕事や好きな事をやっても、まだ堤監督はやってみたい事があるのですか?

「ありますね。今は地理を学んでますが、絵画をしっかりと学びたいんです。あと、グランドデザインをやりたいんですよ。街や施設ひとつの形や機能を丸ごとデザインするというような事にも興味があります。まあ、出来る事をひとつひとつやっていきたいですね」

――『20世紀少年』の1章のロボットのシーンを観ていて感じたのですが、堤監督の怪獣映画も観て観たいです。

「それはやってみたいですね! 『ゴジラ対ガメラ』が撮りたいんですよ。『海底軍艦』か『マタンゴ』のリメイクも監督したいですね」

――それは是非観てみたいです!

画像左から、『20世紀少年 ぼくらの旗 豪華版』5,775円、『20世紀少年 ぼくらの旗 通常版』 3,990円。画像以外にも『20世紀少年 ぼくらの旗 Blu-ray』5,040円、『20世紀少年 DVDセット』 10,000円、『20世紀少年 BDセット』15,120円が同時発売。発売・発売 バップ 2月24日発売

撮影:石井健

(C)1996,2006 浦沢直樹 スタジオナッツ/小学館(C)映画「20世紀少年」製作委員会