今後25年間のPowerアーキテクチャの展望

また、同CELLプロセサ開発チームの主要メンバーであるPeter Hofstee氏が"Power Architecture Innovations"と題して講演を行った。

講演するIBMのPeter Hofstee氏

プロセサはより多くのトランジスタをより高速で動かしてシングルスレッド性能を向上させてきたが、消費電力が過大となり、2005年頃から、この方向での性能改善が難しくなった。そのため、より高速(高いクロック周波数)は諦め、より多くのトランジスタを動かすマルチコア化で性能向上を支えている。

マイクロプロセサのトレンドロードマップ

しかし、これでも集積度の向上につれて消費電力は増加し、2015年頃には、高いクロック周波数に加えて「多くのトランジスタを動作させる」も諦めざるを得なくなる。

そして、プロセサアーキテクチャはハイブリッドに向うというのがHofstee氏の主張である。ただし、これは同氏の個人的な見解であり、IBMの見解を代表するものではないという。ハイブリッドアーキテクチャでは、汎用的な処理はプロセサが行うが、ヘビーな処理についてはそれぞれの専用のモジュールを必要な時だけ動作させる方式で、性能あたりの消費電力を減らす。

明確にハイブリッド化を意図していたわけではないが、2002年にはXilinxの「Virtex II-Pro」FPGAにPowerコアが搭載され、ハイブリッドアーキテクチャのチップが作られている。また、CELLもPowerアーキの汎用プロセサと、専用アーキで計算能力の高いSPEを組み合わせたハイブリッドアーキテクチャの例という。

しかし、コンカレント(同時並行)処理に関しては大学でもほとんど教えられていないし、MPIやOpenMPといった仕組みも比較的低レベルであり、プログラミングが難しい。また、このようなハイブリッドシステムのプログラミング環境としては、IBMのCell SDKやNVIDIAのCUDAなどがあるが、これらは各社独自で流通性が無いという問題がある。さらに、コンカレント処理を行うプログラムを開発するツールも不十分な状況である。ただし、最近、OpenCL仕様が作られ、プログラム言語としてはこれが標準になる可能性が高いと述べた。

しかし、2025年頃になるとこのようなハイブリッドシステムでも消費電力が過大となり、2035年頃には、処理に特化して性能/電力の高い専用ASICに移って行かざるを得ないという。

これは、一般的なトレンドとしては理解できるのであるが、何でも専用アーキのASICを作れば効率よく処理できるとは限らない。Hofstee氏に、WordやPowerPointを汎用プロセサに比べて大幅に効率よく実行するASICは考えにくいがどうするのかという意地悪な質問をしたところ、「それはその通りであるが、将来、ヘビーな処理を必要とするのはイメージ処理など専用のASICで効率よく処理できるようなタイプの処理ではないか。そうであれば、専用アーキのASIC化で大幅に効率を改善できる」という回答であった。

現在でも、ビデオやグラフィック処理には専用の処理モジュールを集積し、それらの処理に当たってはCPUより大幅にエネルギー効率の良い専用モジュールを動作させ、一方、それらの処理を必要としない時には専用モジュールの電源を切って節約するというプロセサが出てきており、このHofstee氏の主張は理解できる。

しかし、汎用のPowerアーキコアは各種専用モジュールの電源のOn/Offとそれらのモジュール間のデータの流れの制御を行うようなSoCが主流となると、汎用プロセサの機能や性能は重要ではなくなり、汎用プロセサのアーキテクチャが何であるかも余り重要ではなくなる可能性もあると思われる。その時代にPower.orgはどうするのかという疑問もあるのであるが、流石にその質問は控えた。

また、Hofstee氏は、性能や効率の改善に関しては次の図に示すようにスケーリング以外のイノベーションがあり、発展の停滞を遅らせる効果があると述べた。

スケーリング則以外の技術により技術発展の停滞は遅らせることが可能