春から出社が増えた……遠距離の通勤は損? 通勤手当のウワサ、ウソ・ホント
働き方も、恋愛も、生活様式も、全てのあり方が少し前とは違う令和の今。数えきれない変化の裏にある「新マネーハック」を、さまざまな分野の専門家たちが回答します。今回の回答者は、丸山晴美さん。
今回のお悩み「在宅勤務前提で遠方に引っ越したけど出社が増えた。遠距離の通勤は損?」
コロナ禍をきっかけに在宅勤務が基本になったので、家賃が安い隣県に引っ越しました。でも最近、会社の制度が変わって週3での出社がマストに……遠方に住んでいると通勤手当の影響で保険料が上がると聞いたのですが、本当ですか? また、通勤手当への課税が検討されていると聞きましたが、本当にそうなるのでしょうか?(30代前半/IT)
通勤手当の損得は就業規則の確認から
通勤手当とは、自宅から職場まで、電車やバス、マイカー通勤といった従業員の通勤にかかる費用を手当として、会社が全額もしくは一部の費用を負担するものです。手当の支給方法は会社によって異なりますが、主に定期券の現物支給、現金支給、給与に上乗せする方法で支給されています。
しかし、通勤手当の支給は、労働基準法によって企業へ義務づけられているわけではなく、通勤費用は原則的には従業員の自己負担です。ですが、国内の多くの会社では、通勤手当を福利厚生のひとつとして導入しているため、通勤手当が支給されるのは当たり前と感じている人も多いでしょう。
会社によっては交通費込みで求人・給与計算されているケースもありますが、上記のことからもわかるように、違法なことではありません。
ここで注意すべきは、会社によっては、通勤手当の支給に上限を設けていることもある点。通勤費用が上限を超えている場合、超えた分は自己負担になりますので、遠方から通勤する場合は、就業規則を確認することが大切です。
例えば月にかかる通勤費用が、10万円だった場合、後述する通勤手当の非課税限度額内であったとしても、就業規則で月額の上限が5万円までとなっているのであれば、それを超えた5万円の通勤費用は自己負担になり、年間で60万円の損と考えることができますが、引っ越すことで毎月5万円以上の家賃がかかるのであれば、そうとも言い切れない面もあります。
通勤手当の非課税限度額とは
会社から支給される通勤手当には、非課税限度額があり、電車やバスといった交通機関または有料道路を利用して通勤する場合は、1カ月分あたりの非課税限度額が15万円、マイカーや自転車での通勤は通勤距離が片道55キロメートル以上の場合は、3万1600円(非課税の上限)、片道2キロメートル以上10キロメートル未満の場合は、4,200円(非課税の最小限)です。
また、マイカーや自転車、公共交通機関をどちらも利用して通勤する場合の非課税上限額は1カ月合計15万円になります。
通勤手段によって非課税の限度額は異なりますが、電車やバス通勤の場合は、月15万円までなら非課税であり、給与所得の対象とはなりません。しかし、通勤手当が、これらの上限額を超えている場合は、超えた部分の通勤手当が課税の対象となり、超えた部分に関して、所得税や住民税などの税金が発生することになります。
通勤手当が高額だと社会保険料が高くなる?
ご質問の回答の一つになりますが、結論、答えは高くなります。そもそも通勤手当は、前述のように原則として課税の対象ではありませんが、超えた部分に関しては課税の対象となります。しかしそれとは別に通勤手当は健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料の計算に含まれますので、通勤手当が高額な場合は社会保険料負担が大きくなり、通勤手当が低い人に比べて手取りが減る可能性があるのです。
日本年金機構のウエブサイトにも通勤手当等が報酬にあたるのかが記載されています。事業所の給与規定に定めのある通勤手当は、労務の対償として受けるものであると認められ、「標準報酬月額」の対象となる報酬に含まれるとされています。通勤手当の他にも、食事、住宅など現物で支給されるものも、報酬に含まれるとされています。
健康保険料や厚生年金保険料といった社会保険料は、毎年4月から6月の報酬の平均額で計算する「標準報酬月額」に、所定の保険料率を掛けて算出します。つまり、通勤手当が高額になることで、健康保険料、厚生年金保険料、介護保険料(40歳から64歳まで)が増えるのです。
どれくらい変わるのか知りたい場合は、「令和7年度保険料額表(令和7年3月分から)」も参考にすると良いでしょう。保険料額表を見ると、報酬月額の等級が上がることで、健康保険料や厚生年金保険料の負担が増え、結果的には手取りにも影響することがわかります。
ここまでのまとめ 通勤手当で負担が増える可能性があるケース
会社の就業規則の交通費の上限を確認して、通勤費用が上限を超えている
通勤費用の非課税限度額の月15万円を超えている
通勤費用が高額になると、標準報酬月額の計算に含まれるため手取りが減る
質問者さんは、会社の隣県にお住まいということなので、そこまでの負担増にはならない可能性がありますが、仮に新幹線通勤をしているなら、1カ月の定期代が10万円を超える区間も多く存在しているため、その場合は社会保険料負担につながっているでしょう。
通勤手当が今後全額課税対象になる?
SNSなどで、「通勤手当が全額課税されるのでは?」「通勤手当の非課税枠が無くなる?」といった内容のものを見たことがある人が質問者さんも含めて多くいるのではないかと思います。
これは過去に実施された政府の税制調査会の答申の中で、通勤手当に対する課税を検討するという内容のものがあったことから、そのような情報が流れたのだと思います。しかしまだ検討段階のため、現状通勤手当の非課税枠が無くなり、課税の対象となることは決定していません。
とはいえ、今後通勤手当の非課税限度額が良くも悪くも見直される可能性がゼロではありません。もし、非課税限度額が無くなり、住民税、所得税負担が増え、さらに社会保険料率も上がるようであれば、場合によっては引っ越しや勤務地を変更するなどして、手取りを増やした方が得になる場合もあるでしょう。
また、通勤手当が社会保険料に影響することを知らないという方も多いかと思いますので、住まいや勤務地を選択する際の一つの考え方にもなるのではないでしょうか。
令和のマネーハック121
通勤手当は社会保険料とも関係している。就業規則を確認しつつ、現在の社会保険料と引っ越した場合の社会保険料を比較してみると良いかも!
(文:丸山晴美、イラスト:itabamoe)
※この記事は2025年05月05日に公開されたものです