
もし不倫に巻き込まれてしまったらどうすればいいか、法律の専門家である弁護士に聞いてみる本企画。引き続き、東京都中央区に事務所を構える弁護士の濵門俊也さんにお話を伺います。今回のテーマは「独身偽装をされた場合」です。
「独身偽装」の被害にあったら
今、マッチングアプリなどで問題になっている「独身偽装」についてお話を聞きたいです。
独身の女性がアプリで知り合った男性と婚約までした……でもその相手が実は既婚者だった場合、「騙された」として訴えることはできますか?
女性の立場からすると、自分の性的自由であるとか、「貞操権の侵害」があったのだといって損害賠償請求をすることができます。貞操権、と聞くと堅い印象ですが、最近は性的自由の侵害とも言います。
マッチングアプリの場合、相手の素性が分からないという問題があります。これは弁護士の特権で何とかできることはありますか?
相手はマッチングアプリの申し込み規約に反することをやっているわけですが、運営側は嘘をつかれても分からないですよね。それで運営側に責任を問うのは難しいですね。
実は既婚者だったと知らされたとき、こちらが取れる手にはどんなものがあるでしょうか。
先ほども申し上げた損害賠償請求ができますが、この場合デメリットがあって、相手方の奥さんから訴えられる可能性があります。
そうすると、慰謝料をこっちが払って相手からも支払われて、の流れになるのですよね。本来は、奥さんに知られないように裁判をやりたいわけです。
でも、こちらは既婚者と知らなかったわけですが……。
その「知らない」の証明に関しては、その人がそれまでどんな人生を送ってきたかで見抜けるかどうかが変わってくるのではないでしょうか。ただ、アラサーの女性だと、まだまだ騙されるのかなという印象ですね。
マッチングアプリって、いくらでも演出できるし嘘がつけますよね。「知らない」の証明は難しい、と。
証明は簡単にはできません。以前解決した出会い系のケースだと、ひどい目にあって訴訟を起こしたけれど相手に甲斐性が無くてわずかな解決金しか支払われず、泣く泣く諦めたものもありました。それが現実です。
先生から見て既婚者を見破るコツのようなものはありますか?
コツですか……。難しいですね。
まず、そういったことをする人は本名すら明かさない人が多いです。身分証を見せろと言っても見せてくれない。最近はSNSをやっている人が多いから、そこから交友関係を洗うとか、上げている写真をチェックするとかできますね。
見破るって、その人の人生経験にも左右されますよね。
その人の注意力とか能力の問題ですよね。本名を明かしてくれないなら郵便物から名前を知るとか、キャッシュカードの明細があったら見るとか。
相手のことをよく知らない状態でも、体を任せてしまう女性は多いですよね……。
好きになってしまったら仕方ないのかな、とも思いますね。アラサーといってももう少し上、アラフォー近くになると婚期を考える人も多いと思うので。
そうです。そこが一番多いですね。
でも、ここではっきり言っておきたいのは、騙す人が100%悪い。騙されて自分に落ち度があるのではと思う人もいるかもしれないけど、いじめの論理と同じでいじめた側が100%悪くて、騙された側に落ち度があるとは考えないほうがいいです。
それで気を病む人もいますが、そうではないと言いたいですね。
やはり、男を見る目を磨くのが一番なのかなと思います。マッチングアプリで知り合った男性の情報を特定するやり方についてはどうでしょうか。
情報をつかむしかないですね。独身偽装をするような人のプロフィールなんてだいたいウソなので、自宅に訪問するチャンスでもあればいいですけどね。自分の足で調べるしかないかなと思います。
独身偽装で被害を被った場合の慰謝料は?
この場合の慰謝料も、不倫と同じで相場はないのでしょうか。
はい。これも、いくら請求したいかと、相手の支払能力で決まります。
実務において“相場”は存在しないし、それは相手の状態に左右される、ということですね。
そのようなケースが多いとか少ないという言い方はできるかもしれませんが、相場の言葉には違和感があります。
あくまでも傾向でしかないのですね。このようなケースでも、弁護士に代理人をお願いすることは可能でしょうか。
裁判に必要な費用について
訴訟費用だけ考えるのだったら、いくらもかからないのですよ。収入印紙代と郵便切手代がかかるだけで。数千円とか数万円の世界です。一番かかるのが弁護士費用なのですね。ちなみに、弁護士費用は訴訟費用ではありません。
弁護士にかかったお金を相手に請求はできないのですよね?
損害の金額の一割程度を弁護士費用として乗せて請求することはありますが、それは本来の弁護士費用とは違うものです。訴訟費用というものに弁護士費用まで含まれる、と考える人は多いですが、基本的にそれは違うと指摘しておきたいですね。
裁判をしても勝てば弁護士費用は回収できるだろう、とはならないのですね。
はい。本人訴訟が認められるからです。本人でできるわけで、代理人をつけるのは必要経費という考え方です。
訴訟は戦い!?
私は訴訟の前に内容証明から出すものだと思い込んでいました。
そうではないですね。訴訟は戦いなので、相手に準備の期間を与えてはなりません。先制攻撃が効くわけです。
いきなり訴状を送りつけてダメージを与えると。いきなり訴えられたら弁護士を探すだけでかなり労力を使うから、大きなダメージがあるなと実感しています……。
内容証明から出していくのは丁寧だし、そこからいく人が圧倒的に多いと思うのですが、それもケースバイケースです。内容証明を読んでくれて、ちゃんと対応してくれそうな人だったらそっちのほうが早いわけですよね、裁判やるより。
でも、訴訟を起こしたほうが早くないかっていう人もいるのです。相手方のキャラクターに応じて使い分ける感じです。
そういうことも、自分で判断せずに法律のプロである弁護士にお任せするのが良いですよね。
完全にお任せしていただくわけではありません。意見をすり合わせないといけませんからね。
なるほど。相性のいい弁護士を見つけることも重要なのだなと思います。ありがとうございました。
想像と現実は違う
全三回を通して、弁護士の濵門俊也さんに不倫に関するさまざまなことを教えてもらいました。
不倫をしてしまった、また、夫が不倫していてそれが分かった場合、多くの人が気になるのが慰謝料の請求や裁判についてだと思います。
本来ならそう機会の訪れることはない慰謝料の請求や裁判は、ひとりで進めるには未知なことが多く、大きなストレスやプレッシャーを抱えるものです。
濵門弁護士にお話を伺うと、現実は想像以上に厳しい実態があること、思い通りには進みづらいものであることが分かりました。ひとりで悩むより、法律の専門家である弁護士の力を頼るのが正解なのだと実感します。
そして、そもそも不倫は人の道から外れた関係であり、最初から踏み込まない意識も重要です。巻き込まれてしまった場合は、自分が取れる手段について弁護士などにしっかりと相談し、後悔の無い選択をしたいですね。
(監修:濵門俊也、取材・文:ひろたかおり、イラスト:タテノカズヒロ)
※この記事は2023年01月22日に公開されたものです