
もし不倫に巻き込まれてしまったらどうすればいいか、法律の専門家である弁護士に聞いてみる本企画。引き続き、東京都中央区に事務所を構える弁護士の濵門俊也さんにお話を伺います。今回のテーマは「将来、結婚した相手が不倫した場合」です。
夫が不倫していると気づいた場合、妻が取れる行動は?
将来結婚をして、配偶者である夫が不倫をしていると分かった場合――例えばLINEを見て他の女性と確実にラブホテルに行っていると分かった時に、妻としてはどんな行動を取るのが正解でしょうか?
証拠の保全です。やり取りを写真に収めるなど……ですね。
それは、夫のスマートフォンでスクリーンショットを撮って自分宛に送るより、自分のスマートフォンで撮影するのが良いでしょうか?
旦那さんのスマートフォンを動かせる前提であれば、スクリーンショットで送ってもいいと思います。最近はSNSやメールに残っていることが多く、昔に比べると立証は易しくなりましたよね。
再構築をしたい、何とか夫に不倫をやめてもらってまだ婚姻関係を続けたい場合は、どうすれば良いでしょうか?
関係を修復する話し合いをすれば良いのではないでしょうか。
見て見ぬふりをするしかないかもしれませんね。それで許せる女性はあまりいないと思いますが。
そうですよね。でも、私の周りはほとんどの女性が再構築する人が多くて。
もちろん離婚しない方も多いですよ。相手方の女性に対する慰謝料請求だけという女性もいます。「関係の修復までいくかどうかは分からないけれど、とりあえずその女性に請求したい」という女性もいますね。
では、夫の不倫が分かってもう離婚を決めた場合、証拠の保全の次に取ったほうが良い行動とはどんなものでしょうか?
言動を監視するとか、些細な変化に気づくとか。それらは普段生活している中で女性のほうが確実に「気づき力」は強いように感じますので。
結局、何が裁判所に何が刺さるかが分からないので、証拠的なものーーそういうことを裏付けるもの、資料はあったほうが良いですよね。
あとは、日記をつけてみるとか。日記はルーティンでやっているものだからあえて嘘を書き込むことはなくて、信用性は高いですね。いちいち嘘や人の悪口を書き込むことはないじゃないですか、日記に。
そのハードルが違うのですね。あえて書いたかどうか、嘘を書いているかどうかっていうのは前後の文脈とかそういうので分かると思うのです。
訴訟になると、それは嘘だ、妻の妄想だとか反論が来ると思うのですが。
それでも、無いよりはましですよね。捏造だと言うのなら、それが捏造だという事実を言わないといけない。客観的事実に反しているから捏造だとか嘘だと言えるわけだから、その客観的な事実を証明できるかの問題です。
なるほど。日記でも何でも証拠を集めていって、離婚を切り出す段階に進むのですね。
夫の不倫相手に請求できる慰謝料はどれくらい?
自分が妻として、夫の不倫相手の女性に慰謝料を求める場合、これも相場という言い方はないと思うのですが(※
第一回参照)、いくらくらいが妥当でしょうか?
それで婚姻関係が破綻したと言えそうな、要は離婚まで決意されているようなケースだったら、300万円とか請求することはありますね。
離婚原因を作った不貞行為ということで、請求する側としては、額に制限はないのですよね。
よく私が離婚を考えている女性に尋ねられるのは、「多く吹っかけて良いのか」「法律でどう決まっているのか」という点なのですが、法律に「いくらまでと決まっています」のような定めは無いですよね。いくら吹っかけようと、それは相手の支払能力で決まると。
請求する額に制限は無いけれど、確実に支払われるものではない、と知っておくのは大事ですね。
不倫相手の女性が慰謝料の支払いを拒んだときは?
請求したけれど、不倫相手の女性が拒んだときは、次に取れる手段としては訴訟でしょうか。
拒まれたら……そうですね。任意に応じてくれないわけですから。応じる人は少ないので、裁判に進みますね。
不倫相手の女性の住所が分からない場合、私が知っているケースだとその女性が保険の販売員の女性で、会社宛に内容証明を送っても良いのかと聞かれたことがありました。会社にプライベートな内容証明を送るのは、大丈夫なのでしょうか。
基本的にはやめたほうが良いですね。送達先に就業場所を選べるときはあるけれど、それはもう最終的な手段に近いです。そんなものが働いているところに来たら、当然「何をやったの?」という話になりますよね。
ダメージを受けますよね。それを狙ってあえて会社に送りたいのだという女性もいますが……。
いますね。でも、自分だったらやめたほうが良いと言います。
会社宛に内容証明を送って、今度は自分が訴えられる可能性はありますか?
ありますね。自分のプライベートに関することが分かってしまうわけだから。
なるほど……。では、相手の女性の住所が分からない場合は、どうすれば良いでしょうか。
調べます。たとえば、携帯電話の番号が分かっているのであれば、電話会社に契約者が誰なのかと探ることができれば、少し近づけるかもしれない。
弁護士会照会制度があるのでそれを使うこともあるし、あと、住んでいる市区町村が特定できているのであれば、そこの役所に行って住民基本台帳を見せてもらうこともできます。
たいてい、不倫相手の住所なんて問い詰めても絶対に夫は明かさないですよね。
住んでいるところに内容証明を送るのが基本なのですね。
不倫相手の女性に慰謝料請求の訴訟を起こす場合の流れとは
相手の女性が慰謝料なんて払わないと突っぱねた場合は訴訟に進むのですが、どんな流れになるのでしょうか?
訴状を書いて、証拠をつけて、裁判所に申し立てます。その後、第一回口頭弁論期日が開かれます。
夫の不倫相手に慰謝料請求をする訴訟で、弁護士に代理人を依頼する場合、着手金はどれくらいでしょうか。
請求した慰謝料の金額によります。慰謝料をいくら請求したかによって料率が変わってきます。
例として、慰謝料300万円の請求でお願いした場合はいかがでしょうか。
5%プラス9万円で設定している人が多いですね。弁護士費用は請求する金額によって変わるのですが、請求する金額を経済的利益と考えます。
請求する金額で、着手金と報酬は決まります。300万円以下の場合は、着手金は8%。300万円を超えて3000万以下の場合は5%プラス9万円。9万円の部分はスライド式に上がっていき、調整金としての役割があります。そして、報酬は、基本的には実際に回収できたお金をもとに計算します。
弁護士にお願いしたいのだけど依頼する費用が用立てできない人のために、「法テラス」という国がやっている機関があります。そこでは、民事の裁判について費用の建て替えをしてくれる制度があります。これを民事法律扶助制度といいます。
こちらの制度は、着手金や報酬というのは決まっているのでしょうか?
先ほど挙げた費用の体系よりは安くなっています。かつ、銀行口座からの引き落としとなりますが、月々5,000円とか1万円とか決めてもらって、分割での支払いが可能です。
法テラスの制度を利用したいとき、弁護士に手続きをお願いすることはできますか?
私は法テラスと契約している弁護士なので、私の事務所で相談したことが法テラスで相談したことと同じ扱いになります。法テラスに私が事件を持ち込んで、審査を受け、通ったら正式に依頼に進みます。
審査があるということは、落ちる可能性もあるのですね。
落ちることもあります。審査の一番大きい要件が、収入です。ひとり暮らしで手取りが月20万円くらい、これがベースですね。
法テラスの制度を利用した場合のデメリットはありますか?
デメリットは無いと思います。弁護士費用が安くなるし、普通、着手金は一括で払ってもらうのですが、分割で払える時点でかなりメリットがあると思いますね。
利用できる要件を満たせば誰でも利用できて、裁判での扱いにも差は無いのですよね。
それは当然ありません。我々はプロなので、報酬の多寡によって対応が変わることはありません。そこは安心していただきたいですね。
弁護士を調べる時、ホームページで法テラスと契約しているかどうかを確認するのがおすすめです。契約しているところは「法テラス利用可」など書いてあります。
法テラス自体でももちろんやっていて私も足を運ぶのですが、法テラスの場合は結局その日の担当の弁護士に当たります。法テラスに直接行くことも可能ですが、その場合は弁護士を選べないと思ってください。
もし「この人に相談したい」という場合は、ホームページにアクセスして法テラスを利用できるかどうかをチェックしてください。
よく分かりました。ありがとうございます。訴訟の話に戻りますが、判決が出るまでにはどれくらいかかるのでしょうか。
争うのであれば、半年や一年は普通にかかります。基本的には月に1回程度、期日が来ると考えてください。
コロナ禍で裁判所も開店休業状態だった時期があって、事件は受け付けてはいるものの裁判が開けず滞留してしまい、月1回程度の期日が1カ月半とか2カ月でしか入りません、ということもあったのですが、現在はようやく正常運転に戻りつつあります。
特に事情が無ければ、期日は月に1回程度。口頭弁論を繰り返して、たしか、証人尋問もありますよね。
最終的に本人を証人として呼んで、尋問する流れですね。でも、そこまでいく事案というのは相当込み入っているもので、多くは裁判上の和解という手続きで終わります。
3~4回目の期日あたりで裁判官から和解を勧めてくるという印象があります。
裁判所は訴訟のどの段階でも、和解の勧試というのですが、和解案を提案することができます。ちょっと証拠が弱いなというときには、「少額だけどどうですか」という話もあるし、これはひどいなという事案の場合には「もう少し出してもらえないか」と言ったりすることもあります。
被告が本人訴訟で応じるケースはたまにあります。基本的に日本は本人訴訟を認めているのですね。ドイツだったら訴訟では代理人をつけないといけない仕組みになっているけど、日本の法律の制度では本人訴訟が認められているので、別に代理人をつけなくてもいいです。
ただ、本件のような不貞行為に基づく損害賠償請求事件ですが、事案としては複雑ですよ。証拠の立て方や見極めも重要な事件なので、やはり代理人をつけたほうがスムースかなと思うし、裁判所も本人訴訟は嫌がります。
うーん、異次元主張というか、裁判のイロハをふまえない、どこからそんな話になるのだということが出てきたりして、裁判所としても迷惑なのですよね。
原告が弁護士をつけてきたら、やはり被告側もつけるのが正解ですね。
弁護士からは何とも言えないのですよ。代理人をつけたほうがいいですよって、事件を煽るようなことは職務規定上できないので。内心ではそう思っていても、口にはできないですね。相談者が決めることなので。
うーん、複雑な事案なので。この証拠でいけるでしょ、と言う人がいるけれど、我々から見れば足りないなということもあります。本人にとってはダイヤモンドに見えるかもしれないけど、我々からすると石ころかな、とか。
逆ももちろんあって、「こんなのでいいのでしょうか」と持ってきたものが「良いのあるじゃないですか」となるときもあります。
つまりは、自分で判断しないということですね。それは誰が見るかによって評価が変わるものだから。自分にとって価値があるかないか、その事案にとって必要なものかどうかというのは、自分で決めないで、まず見てもらう。
そう。一般の方には申し訳ないけれど、見立てが全然違うのです。そうでなければ、弁護士がいる必要が無くなってしまいます。
裁判中の和解について
裁判官が提案してくる和解について、どう考えれば良いでしょうか。
基本的には、裁判所の心証とか雰囲気を代理人である弁護士が感じ取らないとダメです。事案によりますが、勝ち筋・負け筋はあるので。
証拠が弱いために請求した額通りには取れないと分かったら、ここで手を打つのが正解と。
ゼロじゃないだけマシですよ、というのもあるだろうし。もちろん気持ちの問題もあります。気持ちがついてこない場合、和解は無理ですよね。こんなのではやった意味がない、ということになりますから。
たしかに。和解を蹴ったほうが良いケースはありますか?
この手の事案で和解に応じないという手は無いと思うのです。請求する側からして、減額はされるかもしれないけれど、任意で支払ってくれる可能性が高い。つまり、自分の意思で払ってくれる可能性が高いと言えます。
確定判決がもらえると強制執行ができるのですが、相手方の財産を探さないといけないとか、勤務先に給与債権を差し押さえたりとかしないといけないので、大変です。債権回収という観点からいくと、和解はメリットが多い。
なるほど。「請求した額じゃないからイヤ」と意固地になって和解を蹴るのは良い手ではなくて、ここで飲んでおくほうが最終的に得をするよ、という。
先ほども言った、裁判所の心証とか雰囲気とかが大事ですけどね。
和解を蹴ったことで余計に悪い条件になることはありますか?
判決はブラックボックスなので、いくら認めてもらえるか分からないのです。和解の時にある程度は裁判所の心証というのを開示してくれるから、だいたい判決になってもこれくらいかなと予想は立つのですが。
そういう感覚は、弁護士じゃないと分かりませんよね……。
その匙加減は現場の感覚ですよね。素直に従えとまでは言わないけれど、「飲んだほうが良いのではないですか」とは伝えますね。
結局、この事案は気持ちの問題なのですよ。納得できるかとか、許せるかとか、そういう話になってくるので。
たしかに。裁判って長いですよね、すごいストレスを抱えると思うのですが。
そうでしょうね。相手に煮え切らない態度だとか取られると「何なんだあいつは」とか思いますよね。そんなことをしておいていまだに否認するのかって事案がほとんどで。
そもそもそういう場合って、大抵、相手の人間性が良くない気が……。
裁判中、原告としての心構えとは
弁護士から見て、訴訟中の心構えとしてポイントがあれば教えてください。
基本、一喜一憂しないことですね。準備書面という被告からの主張が出てくるのですが、そこには“ないこと“が書かれている、原告にとっては、「何で私がこんなことを言われないといけないの」ということも書いてあります。煮詰まってくると人格攻撃みたいな書面になる可能性が高まる事案でもあって。
なかには「妻のあなたがしっかりしないから夫は不倫したのだ」と言ってくる人がいますよね。
いますね。書かれることはあります。それに気持ちを揺さぶられるわけですけど、一喜一憂していると体がもたないので、こんなことを言ってくるのは当たり前と想定しておいたほうが良い。
訴訟をちゃんとやっている一般の方なんていないので。
ネガティブなことが起こるのが実際だと想定したうえで、メンタルを保つ努力が必要ですね。
弁護士もそう言ってくると思います。私は言いますね。
想像以上に負担がかかるのが訴訟だと心得ること
今回は、夫の不倫相手に慰謝料請求の訴訟を起こす際についてお話を伺いましたが、想像以上にストレスがかかる現実を知りました。
ネックとなる弁護士費用については、法テラスの民事法律扶助制度を利用する手もあるとわかると訴訟へのハードルが下がります。被告である女性がどんな対応をしてくるかは未知であり、正しく思いを主張するためには弁護士の力を借りるのが正解とも思いました。
次回は、マッチングアプリなどで被害に遭いやすい「独身詐欺」について、だまされた場合はどんな対応ができるかを引き続き濵門弁護士に伺います。
(監修:濵門俊也、取材・文:ひろたかおり、イラスト:タテノカズヒロ)
※この記事は2023年01月08日に公開されたものです