「まだ結婚していない私からしたら、妊活や不妊治療なんてほど遠い話……」そう思っている人も多いのではないでしょうか。マイナビウーマン編集部・てるちゃんもその一人。
しかし、将来的に子どもを望んでいる場合、できるだけ若いうちに知っておくと良いことはたくさんあるんだとか……。今回はその中のひとつとして、「AMH」に注目。AMHとは? それを知るとどう良いの? などなど、不妊治療の第一人者である浅田義正(あさだ・よしまさ)先生に聞いてみました!

そもそも「AMH」って何?
今日は「AMH」について教えてください! 血液検査で「AMH値」分かるなんてとても簡単なように思いますが、そもそも「AMH」って何ですか?
AMHとはアンチミューラリアンホルモン、発育途中の卵胞の周りにある細胞から分泌されているホルモンのことです。このAMHの血中濃度を測ると、卵巣の中に残っている卵子の数(卵巣予備能)が推測できます。
んんん……? 卵子って毎月ひとつ排卵されるんですよね。毎月一個卵子が生まれてそれが育つのではないのですか?
違います。そもそも卵子は女性が生まれる前、お母さんのお腹の中にいる時に一度だけ作られ、そして二度と作られない細胞です。それがずっと生き残っている間にどんどん数が減っていくんですよ。

保存の仕組みとして卵子が長持ちするように(人間は)できていません。その上で卵子となる細胞はどんどん消えていきます。
そうです。どのように消えていくのかはまだはっきりとは分かっていません。卵子(原始細胞)が、塩や砂糖の固まりを水の中に落とすと外側からどんどん溶け出すように、固まりが少なくなっていく。溶け始めた塩や砂糖の量が多いか少ないかで残っている塩や砂糖が多いか少ないか間接的に分かりますよね。AMHの検査もそれと同じです。
原始卵胞そのものはホルモンを出さないのですが、卵子が半年かけて育っていく中で出すホルモンがAMH。だから、それが多ければ残っている卵子も多いだろう、それが少なければ残っている卵子も少ないだろうと推測できるんですね。
育っても排卵されない卵胞もある
そもそも卵子が半年かけて育つのも知りませんでした。今、私の体の中にも育っている途中の卵子がいるということなんですね。
そうです。生理が来る前から卵子はどんどん減っているし、いつでも育っているんです。ただ、半年かけて育っていく後半の3カ月はホルモン依存ということで、ホルモンがある程度ちゃんとしていないと育たずに終わってしまいます。そのまま消えていってしまうんです。

えっ! せっかく育っても排卵されない卵子がいるんですか!?
その上で、いい卵子が選ばれて育つというのも間違いで、完全にランダムです。たまたま子宮内膜の月経周期に都合のいいもので一番大きいものが一個だけ育ち、後は同じ期間育ってきたものをわざわざしぼませています。もしいい卵子が選ばれて育っているのなら世の中の不妊治療は簡単ですよね。半年前に勝手に育ち始めているものが、アトランダムに来ているだけなんです。
育ったのにしぼんでしまうなんてなんだか悲しいというか、ちょっと無駄というか……。
例えば30歳の女性でも人の赤ちゃんが生まれるためには平均で13個~15個くらいの卵子が必要です。それも成熟した卵子のうちですけどね。大元を辿ればもっとたくさんの細胞の中のほんの一つということになります。
そう考えると、妊娠って奇跡なんだなあということを強く感じますね。
そうですね。だからこそ不妊治療は難しいのですが……。生まれる時に200万個くらいあった卵も、30歳くらいになると4~5万個くらいにまで減ります。何もしていなくても1日に何十個くらいずつ卵子は消えていっているのです。
年を重ねると妊娠が難しくなるワケ
さらに知っておいてほしいのは「卵子の質」です。AMH値が高いというのは卵巣に残っている卵子が多いということを意味しますし、AMH値が低いと卵巣に残っている卵子が少ないことを意味しますが、元々の古さが変わるわけではありません。
生まれる前に一度だけ作られる細胞とおっしゃっていましたね。

妊娠率というのは卵子の新しさに比例するので、年齢と共に妊娠率は落ちていきます。卵子が保存されているというイメージになるかもしれないけど、例えば果物なんかでも箱詰めされたものが常温で放っておかれたらどんどん傷みますよね。
卵子もそれと同じで実は既に傷み始めている状態から排卵されているんです。卵子はあっても年々古くなっていくことをまずは知ってほしいですね。
今までそんなこと考えてもみませんでした……。だから年を重ねると妊娠が難しくなるんですね。
年齢を重ねると妊娠するまでにたくさんの卵が必要になっていきます。例えば体外受精のためたくさんの卵を採ろうとした時、AMH値が高ければ5カ月くらい育ってきた卵子がたくさんあるため、そこで注射を打つと育ってきた卵子をごっそり採ることができます。その分、妊娠率が上がるというのが体外受精の理論です。
不妊治療においては体外受精をやって初めてAMHの違いがはっきり影響してくると言えますね。

独身女性がAMH値を知るメリットとは?
では、不妊治療に至らない限りはAMHを知ってもそこまで関係無いのですか?
いえ、AMH値によって、早期閉経の可能性も察知できます。
なんだか気になるワードが出てきました。早期閉経ってなんですか?
実は、30代前後でも100人に一人くらいはもう卵子が無くなりかけている人がいます。それが早期閉経です。でも、半年かけて育ってくる卵胞があるうちは成熟卵胞が卵胞ホルモン、黄体ホルモンをつくり、子宮内膜に作用するのでだいたい生理はあります。卵胞が無くなった時に生理も無くなるんです。だんだん生理がおかしくなるのではなく、自動販売機の売り切れサインのようなイメージですね。
でも、前に並んでいた人が自動販売機でジュースを買えていたからといって、自分の番になってもそのジュースがあるかは分からないじゃないですか。卵子も同じです。それをAMH値を図ることでずっと前から察知できるんです。
なるほど。自分に早期閉経の可能性があるのかって独身の私も気になります。
女性の人生設計で、どこで妊娠・出産をするかを考えるポイントになりますよね。AMH値が低い人は早くしないと気付かないうちに手遅れになってしまう可能性もあります。
AMH値が高ければいいというわけでもない
AMH値が低い場合については分かってきました。では、AMH値は高いほどいいのでしょうか?
実はそういうことでもないんです。AMH値が平均より高すぎる人は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の可能性があります。これは卵子の最後の成熟の段階がうまくいかず、排卵障害を起こしている状態です。そういったものもAMH値で分かります。生理が順調かは二の次の現象なんです。
なるほど。冒頭で卵子が減ることを教えていただきましたが、AMHで卵子の減るスピードも分かるのでしょうか? 卵子がすでに少ない人は卵子が減るスピードも速いのでしょうか?

▲検査は採血のみでとても簡単
いえ、実は元々高い人の方が速く減り、元々低い人はゆっくり減っていきます。早期閉経の人を抜いた場合、閉経の年齢は意外とそこまで大差無く、平均から比べてプラスマイナス3年くらいしか変わりません。
そうなんですね。ちなみに今回、取材にあたって私もAMH値の検査を受けたのですが、低用量ピルを服用した状態でした。これって検査の結果に何か影響はあるのでしょうか?
昔はピルを飲んでいてもAMH値は変わらないと言われていたことがありますが、最新のデータでは、ピルを飲んでいると見た目のAMH値は低く出ることが分かっています。もちろん、ピルをやめれば実際の値に戻ります。
自分の卵子について知ることが人生設計につながる
AMHを今回の取材にあたって初めて知りました。検査もしたので、今後の人生設計を考え直そうと思います。
みんなに妊娠を急げと強制しているわけではないのですが、卵子がいつ作られて、どう古くなっていくか、どう数が減っていくかは知ったうえで人生設計をしてほしいですね。「そんなこと知りませんでした」「今まで仕事をがんばってきたのに……」などといったように知らずに悲しい思いをする人を減らしたい。自分の体について知ったうえで人生を選択してほしいです。
ぜひ読者のみなさんにも知ってほしいです。今日はありがとうございました!
検査は簡単。その結果をどうつなげるかが大切

取材にあたり、私も検査をしてみたところ、5分程度の血液検査だけ。2週間~3週間で結果が家に送られてきました。ちょっと検査するだけで人生設計に影響してくる要素が分かるなんて驚きです……!
浅田レディース品川クリニックは待合室の席も多く、ゆったりできる環境。会計システムがセルフレジであるなど、待ち時間を短くするための工夫も見られました。検査にはだいたい9,350円ほどかかりますが、妊娠・出産について深く考えたことがない人こそ、検査の結果が今後の人生設計の助けになるでしょう。ぜひ一度、自分の卵子について調べてみてはいかがでしょうか。

Information
今回取材したのは……「浅田レディース品川クリニック」
婦人科(生殖医療・不妊治療)
〒108-0075
東京都港区港南2-3-13 品川フロントビル3F
TEL:03-3472-2203
(取材・文:てるちゃん/マイナビウーマン編集部)
※この記事は2022年11月07日に公開されたものです