子ども嫌いな既婚女性の過去。「お姉ちゃんなんだから」の弊害とは?
“子どもを持たないこと”を選択した既婚女性への匿名インタビュー連載「母にならない私たち」。その決断をした理由や、夫との関係性、今の心境など……匿名だからこそ語れる本音とは?
結婚するかしないか、子どもを産むか産まないか。女性に選択肢が増えたからこそ、悩んでしまう時代。本連載では、子どもを持たないことを選択した既婚女性に匿名インタビューを実施。 「どうして子どもを持たないことを選択したの?」「パートナーとどう話し合った?」「ぶっちゃけ、後悔してない?」……などなど、顔出しでは言えないような本音まで深掘りします。聞き手は、自身もDINKs(仮)のライター・月岡ツキ。
地方のとある県で、公務員同士の夫婦で暮らす横山葵さん(仮名/26歳)は、結婚2年目。夫は漠然と「いずれは子どもが欲しい」と考えているものの、葵さん自身は「今のところ、子どもを産みたい気持ちはゼロ」だという。
その強い意志の根底には、「そもそも子どもが苦手」という、幼い頃から変わらず抱いている感情があった。
なぜ彼女は「子どもが苦手」になったのか。そして、なかなか他人には打ち明けにくい感情とどう向き合っているのか、話を聞いてみた。
“お姉ちゃん”ゆえに、子どもへの接し方がわからない
夫は高校の同級生です。学生時代から付き合って、一昨年結婚しました。お互いのことは昔からよく知っています。親友でありパートナーという感覚ですね。だから、結婚すること自体は特に悩みませんでした。
一方で、子どものことは正直あまり深く考えていなかったんです。付き合っている時も結婚する時も、将来子どもをどうするか、具体的な話はほとんどしませんでした。
私は昔から子どもが好きではなかったのですが、それでも漠然と「結婚して時間が経てば、自然と欲しくなるものなのかな」くらいに思っていたんです。夫も、私の気持ちは知っていて、たぶん同じように思っていたでしょう。
けれど、今現在に至るまで私の思いは変わっていません。むしろ、どんどん子どもが欲しいとは思えなくなってきています。
私の「子どもを持ちたくない」という気持ちの一番の根っこにあるのは、やっぱり「そもそも子どもが好きじゃない、苦手だ」という、とてもシンプルな感情なんです。
物心ついた頃からそうでした。私は祖父母の初孫だったので、親戚の集まりに行っても、周りは年下の子ばかり。でも、その子たちと一緒に遊びたいと思ったことがほとんどないんです。
落ち着きがなかったり、すぐに泣いたりする従弟妹たちを見ていると、自分も子どもながら、なんだかすごくイライラしてしまって。
小学校に入っても、静かにしなければいけない場面で騒いだり、教室で走り回ったりするクラスメイトがすごく苦手でした。
私は、子ども同士のコミュニティではいつも“お姉ちゃん”的なポジションで、よく「お姉ちゃんなんだから、しっかりしなさい」と大人から言われていました。私自身も「絶対に泣いたりわがままを言ったりしたくない」と思っていたんです。
だからこそ、年上の人にかわいがってもらった経験がほとんどなくて。私はいつもしっかりすることを求められるのに、他の子たちはすぐに周りを困らせて、なぜかかわいがられる。
そういう子を見るのも、自分が子ども扱いされるのも耐え難く、「早く子どもの世界から脱出して、大人になりたい」と思っていました。
だから、どうやって小さい子をかわいがればいいのか、接し方が根本的にわからないのかもしれません。
保育士体験で「子どもに寛容になれない自分」に気づく
この「苦手意識」が決定的になったのは、中学生時代の職場体験です。仲の良い友達が行くからという理由で、保育園で保育士体験をすることにしたのですが、すぐに「ダメだ、やっぱり私には無理だ」と痛感しました。
まず、子どもとの物理的な距離が近すぎるのが耐えられない。決定的だったのは、私の着ていた白い体操着に、園児の一人から色水をかけられてしまった時です。その瞬間、私はものすごい形相で怒ってしまって……。
幸い、その子が泣き出すことはなく、事なきを得たのですが、今振り返ると、あれが大きな分岐点だったと思います。「私は子どもに対して、こんなにも寛容になれない人間なんだ」と、はっきりと思い知らされました。
大人になってからも、その感覚は全く変わりません。電車やお店の中など、自分のパーソナルスペースに子どもが入ってくるのがすごく苦手なんです。
だから、子どもがいそうな場所にはできるだけ行かないようにしています。「子どもが好きなフリをする」こともできないくらい苦手なので、あからさまに子どもと距離を取ってしまいます。
夫は「子どもができたら“サポート”する」と言うけれど…
周囲の人にはそういう正直な気持ちを話せないので、ほとんどの人が私の子ども嫌いを知りません。
結婚して実家の近くに二人で暮らし始めた途端、親戚からの「子どもはいつ作るの?」という圧力が本当にすごくて、うんざりしています。
特に私の母親がしつこくて、「子どもはいらないって、それは夫くんに対して失礼なんじゃない?」「夫くんがかわいそう」「本当に夫くんのこと好きなの?」などなど……もう、本当にやめてくれって思います。
皮肉なことに、周囲からの「産んで当たり前」という圧力を感じれば感じるほど、私の気持ちは逆方向に固まっていくんです。「じゃあ、いらないよ!」って気持ちがどんどん強くなります。
夫自身は「いずれは欲しいけど、今はやりたいこともあるからまだいい。でも、30歳くらいでできたらいいな」といった、ふんわりした感じです。
彼は兄弟や親戚がみんな子どもを持って家庭を築いているのを見て、「俺もいつかは」と思っているみたいで。彼の育った家庭は家族仲が良く、自分もそういう家庭を築きたい、子育てをしてみたい、という憧れがあるんでしょう。
私自身も家族の仲は良いので、育ててくれた親に感謝の気持ちはあります。でも、それと「自分も子どもが好きで、産み育てたいか」は全く別の問題なんですよね。
また、彼の職場の同僚にも子どもがいる人が多くて、子育ての話を聞く機会も多いみたいです。どこから聞いてきたのか知りませんが、「子どもがいる方が人生に張り合いが出る」「子どもを産んで後悔している人は見たことがない」と言っていました。
正直、彼がイメージしているのは、子育ての“良い面”だけなんじゃないかな、と感じてしまいます。父親は母親に比べて、子育ての大変な部分を直接的に引き受ける場面が少ないでしょうし……。
私が子育ての大変さについて話したり、子どもがあまり好きではないことを伝えたりしても、どこか他人事というか、「子どもができたら、俺が一生懸命サポートするよ!」と言ってくるんです。
“サポート”って何? 子育てに対する当事者意識が低いのかな? と感じてしまいます。
最近は、私が子どもについて真剣に話そうとしても、話を逸らしたり、あまり反応してこなかったり、さらっと流されたりすることが増えた気がします。
彼にとっては、正直ちょっと面倒くさい話題になってしまっているのかもしれません。出産や子育てについて調べたり考えたりするのは私ばかりです。
もしこの先、夫の「子どもが欲しい」という気持ちがどんどん強くなっていったら……別れる可能性もゼロではない、とは思っています。
この温度差や考え方の違いについては、本当はもっとちゃんと話し合わないといけない。それは分かっているんですが、彼がこの話題を避けがちなので、なかなか話し合えない状況が続いています。
「ちゃんとしていない親」になりたくないし、そう見られたくない
子ども自身が苦手なことに加えて、公共の場で騒いだり、他人に迷惑をかけたりしている子どもを注意しない親を見るのも、正直ストレスが溜まります。
例えば、テーマパークのパレード待ちで、子どもだからと平気で前に割り込ませたり。ミュージカルを観に行ったとき、子どもが騒いで台無しになったこともありました。
そういう場面に遭遇すると、「なんで親がちゃんとしつけないんだ!」って心の中で叫んでしまいます。
そして何より、自分が子どもを持ったとき、そういう「ちゃんとしていない親」になりたくない、周りからそう見られたくない、という気持ちがものすごく強いんです。
自分の子どもが周りに迷惑をかけて、それを自分の責任だと感じてしまうのが、耐えられないんだろうな……と。
もし私が子どもを持ったら……きっと、すごく厳しくしつけをしてしまうか、逆に、もう手に負えなくてネグレクトのようになってしまうか、どっちかじゃないかと思うんです。
子どもに愛情をたっぷり注いで、自分の命に代えても守りたい、なんて思える自信が、今の私には全くありません。
「子どもが欲しいって言ったのはあなたでしょ? 私はもともと欲しくなかったんだから、あなたがちゃんとやってよ」って、育児を夫に丸投げしてしまう未来しか想像できないんです。そうならないためにも、子どもを持たないようにしています。
だけど、私が今一番悩んでいる問題はほかにあります。年を重ねるにつれて、子どもと接しなければならない機会が増えてきました。
たとえば、出産した女友達からの「赤ちゃん見に来てよ!」という連絡。子どもが苦手な私は、どう返すべきなのでしょうか……。
(後編につづく)
子どもが苦手な葵さんは、出産した女友達とどのように付き合い続けているのか? 後編は5月3日公開です。
(取材・文:月岡ツキ、イラスト:いとうひでみ、編集:高橋千里)
※この記事は2025年05月02日に公開されたものです
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