取材・文:ミクニシオリ
撮影:三浦晃一
編集:錦織絵梨奈/マイナビウーマン編集部
働きながらの子育てって、まだ経験していない自分からすると、ものすごく大変なことのように感じることがあります。自分の時間が少なくなって、家事をしながら働くという生活は、自由に働ける独身時代にはあまり想像できません。

日本ロレアルのリサーチ&イノベーションセンターで働く菅友美さんも、働くワーママのひとりです。院卒でロレアルに入社して、育休取得後現在は2人のお子さんを育てながら、とあるスポーツを続けて日本記録を更新した女性でもあります。
実は、菅さんはフリーダイビングという競技の日本記録保持者。お子さんが小さかった頃に、学生時代から続けていたスポーツの世界大会で記録を更新しました。
都会で子育てしながらのフルタイム勤務、そしてスポーツへの挑戦……。とても凡人にはできない生活のようにも感じましたが、菅さんは「やってみると意外と、なんとかなっちゃったんです」と言って柔らかく笑ってくれました。
そんな菅さんの働き方は、一言で表すなら「フレキシブルキャリ」。忙しい菅さんは、少ない時間の中でさまざまなことを効率良く並立していきます。複数のことを同時に行う、働くママ研究員の効率の知恵……気になりますよね。
悩んだ時は「自分のタメになる選択を」。その勇気が作った両立キャリア
菅さんは新卒から14年間、ロレアルの研究所に勤めていらっしゃるんですよね。フリーダイビングに挑戦しながら会社員も……って、珍しい経歴じゃないですか?
もともと大学では海洋について研究していて、フリーダイビングと出会ったのも海に興味があったからなんです。マイナースポーツなので、プロとして活動しようとはもともと考えていなくて。

海の汚染物質を食べてくれる海洋細菌に興味を持って修士課程まで進み、大学で研究した微生物の知識を利用した研究に関わりたいと思って就活をしました。その時に、ロレアルのブランドであるshu uemuraが、当時海洋細菌を使ったコスメを開発していたことを知って面接を受けた……という感じです。
理系の修士卒は研究職の仕事に進む人が多いので、私も食品メーカーや化学メーカーの研究職の面接を受けていました。化粧品業界に進むというのは、学科の特徴から考えるとすごく珍しかったと思います。海洋研究ですからね(笑)。
となると、逆に入ってからお仕事にギャップはありましたか?
そうですね、当時はかなりありました。運良く入社後はshu uemuraの研究開発員として配属されましたが、海洋細菌のコスメの開発のプランがすぐには無かったので、私は研究とは特に関係無く、スキンケア商品の商品開発に関わりました。
でもまあ、なかなか自分の研究をそのまま続けていける研究員も少ないので、社会人になった段階で変化する必要はあるのかなと、必死でスキンケア成分の勉強をしましたね。
社会人になってからも、学生時代とはまた違う勉強を続けられているんですね。
はい。その後、産休・育休を2回取って、現在はスキンケアの成分開発のチームに所属していますが……その間も、できる範囲で日々勉強は続けています。
お子さんもいらっしゃるんですか⁉ 産休・育休を2回取られたということですが、職場復帰は大変ではなかったですか?
そうですね、当初はちょっと勇気が必要でした。産休中も結局バタバタで、なかなか勉強ばかりしていられないし、いざ育休が明けても、保育園の送り迎えやら子育てやらで、なかなか残業もできないですし。

▲日本ロレアル リサーチ&イノベーションセンターが入っているかながわサイエンスパーク(提供写真)
でもロレアルはすごく社員の生活に理解のある会社で、女性も多いし、産休を取得する方もとても多いので、誰かが休みを取っても「みんなで助け合おう!」という空気があるんです。だから私もがんばらなくちゃと、フレックスタイムで調整したり、家で子育ての合間に勉強したりしています。
職場の雰囲気がとても良さそうですね。それでも、子育てと研究開発職の両立は大変じゃないですか?
まあ、開発中も何か分からないことがあれば、本を開いてメモを取ってと勉強しながら働いている感じですね。先輩たちも親身に教えてくれますし、今振り返るとなんとか効率良く両立していたのかなあと。今は子どもが少し大きくなって、出産で一度休んでいたフリーダイビングにもまた挑戦できるようになっているんです。

子育てとフルタイム勤務とスポーツを掛け持っているということですが、もし自分なら……と考えるとできる気がしません。出産前などに「できなかったらどうしよう」という不安はありませんでしたか?
もともとあまり計画的なタイプではなくて、今考えると「なんとかなるかな」と軽い気持ちでやってみてしまった感じかもしれません。先回りの準備は苦手なので、その時その時でなるべくフレキシブルに対応できたら、とは思っていました。職場復帰も長男がまだ生後3カ月の時に、まあやってみようかと思ってしてみたり。
産まれたのが2月だったので、4月の保育園への入園には間に合わないかなと思っていたんですけど……5月になって急に、一人分枠が空きましたと電話をもらって。それを逃したら来年の4月かと思ったら、もうやるしかないなあと。5月に慣らし保育して、6月には職場復帰という感じで、バタバタでしたね。
そういった「ここぞ」という選択で、悩まれることはありますか?
あまり無いかもしれないですね。だいたい、どっちかしか無いということが多いと思うんですけど、そういう時はまあ、できるだけポジティブな方というか、自分のタメになりそうな方を選ぶようにしているかもしれません。

いざやってみたらやれちゃうというか、そういうご自身を信じているんでしょうか。
決める瞬間は、そんな深いところまで考えていないんですよ。その後、下の子が2歳になった頃にフリーダイビングの世界大会に出場できるタイミングもあって。挑戦してみたいなと思ったけど、潜りに行くまでの時間はなかなか作れなかったんです。
だから保育園の送り迎えをしながら、電車に乗っている時は一駅分息を止める……という“ながら練習”を日々していました(笑)。その時の大会で、日本記録を更新できたんです。
少ない時間をいかに使うか……やり「ながら」の同時進行で、時間を無駄にしない
いろいろなことを同時並行しながらの記録更新、本当にすごいです。もしかして、時間の使い方が上手いのでしょうか?
母になってからは自分の時間をつくる難しさを知って、無意識に時間の無駄使いをしないようにはなっていたかもしれません。例えば朝、子どもがごはんを食べている15分に何ができるかと思った時に、息を止めながら論文を読もうかなとか、ちょっといい朝ごはんを作りながらストレッチもしちゃおうかなとか……。

やっぱり土日は子どもに時間を使いたいという気持ちもありますしね。時間をどう使うかはいろいろな選択肢があるけど、5年後、10年後の自分が後悔しない選択をしたいという気持ちは、根底にあるかもしれません。
私だったら、15分しかなかったらインスタ開いちゃいそうですけど……でも両立できる人って、隙間時間の使い方が上手いのかもしれませんね。
時間が無くなってから逆に良かったこともありますよ。結局、時短勤務はしませんでしたが、産休明けだからって仕事量が大きく変わるわけではありませんでした。

▲提供写真
でも、だからこそ、ダラダラ働くことが無くなって、今までなら、ひと作業終えたらひと息ついていたところも、やりきっちゃおうという前向きな集中力が持てるようになりました。なので、仕事量は変わらないけれど、残業時間は減りましたね。
菅さんってもしかして、スーパーウーマンですか……⁉
あはは(笑)。でも、世の中の働くお母さんってそういう工夫をされる方は多いのかなと思います。自分も産休をとっている時に会社や同僚にお世話になったなと思っているし、自分が母になっても、次にまた産休をとる人を応援したい気持ちもありますしね。
長く働ける女性が多い会社って、職場内のコミュニケーションが上手くいっている会社なのかもしれないですね。
そうかもしれません。外資系の会社ということもあってか、多様性が尊重されているのは感じますね。社内のカフェもいつもにぎわっているし、交流は密だと思います。産休から復職する女性もとても多いし、私自身子育てしながらも、この会社で働き続けたいという思いもありました。

▲コミュニケーションが上手な社員が多いという(提供写真)
転職ありきのキャリアを考える人も増えていますが、長く働き続けたいと思える会社に所属できることもすてきですね。
会社に対する不満は全く無いですね。自分でいうのもなんですが、すごくいい会社だと思っています。
逆に家庭内で、働きながら家事をする時に「なんでこんなにやらなきゃいけないの!」とイライラすることなど無いですか?
たしかに、そういう時も全然あります。私にとっては、スポーツがそんな時の息抜きですね。体を動かすのは子どもたちともできるし、イライラした時はひとっ走りしに行ったり、最近は夫や子どもたちと土日に泳ぎにいったりしています。
趣味や息抜きを家族時間とくっつけちゃうってことですね。
そうなんです。一緒に泳ぐと、その楽しさを共有できたという嬉しさもあります。自分もすっきりするし、一石二鳥というか……そう考えると、日々の中で一石二鳥を作ることが得意になったかもしれません。

最後に、これからワーママになるかもしれない女性に向けて、両立のコツなどをアドバイスいただけないでしょうか。
意外と、ママであるということを特別に考えすぎなくていいのかもとも思います。同じく働きながら子育てをしている友人もいますが、ママになっても昔と変わらない振る舞いの方が多いなと思います。
強いていうなら時間を大切にすること、くらいでしょうか。学生の頃に比べたら、人のために使う時間は増えると思うので、24時間の密度を濃くしていくといいのかなと思います。
菅さんのフレキシブルな生き方、とても勉強になりました。ありがとうございました!
※この記事は2022年11月10日に公開されたものです