間違えやすい! 「お越しいただき」の正しい使い方
ビジネスでもよく利用される「お越しいただき」という敬語。正しい意味や使い方ができていますか? 今回は、語彙解説に詳しいライターの朝谷のもさんに「お越しいただき」の意味、「お越しくださり」との違いなどを解説してもらいます。
「お越しいただき」という言葉は、ビジネスシーンや冠婚葬祭などでよく使われている敬語です。「お越しいただきありがとうございます」など、感謝の言葉と組み合わせることが多く、かしこまった場面で使われることがあります。
正しい使い方を知り、さらっと口にすることができると、人から好感を持たれたり、信頼関係を築きやすくなったりしますよ。
今回は「お越しいただき」の意味や類語、例文を解説していきます。
「お越しいただき」の意味とは?
「お越しいただき」は、丁寧な響きだから何となく使っていたという方もいるのではないでしょうか。
「お越しいただき」の意味を正しく知るために、まずは辞書で調べてみましょう。
お越しいただき
相手に自分のもとへ来てもらうことを丁寧に言う表現。「お越しいただきありがとうございます」などのように、他の語に繋げる言い方。
(『実用日本語表現辞典』)
「お越しいただき」は、「来る」の尊敬語である「お越し」と「してもらう」の謙譲語である「いただく」を組み合わせた言葉です。相手に来てもらうのは自分なので、自分がへりくだった謙譲表現を使います。
「来てもらいありがとうございます」という言葉を丁寧にする時に「お越しいただきありがとうございます」のように使います。
「お越しいただき」の正しい使い方
「相手に来てもらう」という意味の敬語表現はたくさんありますが、「お越しいただき」という言葉を頻繁に使用する人は多いのではないでしょうか。
正しい使い方を知っていると、あいさつやお礼のメールなど、いろいろなシーンで役に立ちますよ。
「お越しいただき」と「お越しくださり」の違い
「お越しいただき」は謙譲語ですが、「お越しくださり」は、来てくれた相手に敬意を示す尊敬語です。
「お越しいただき」は「私」が来てもらう。対して、「お越しくださり」は、「相手」が来てくれる。と、主語が「私」か「相手」になるという違いがあります。
自分からお願いをして相手に来てもらった場合は「お越しいただき」、相手が自主的にこちらへ来てくれた場合は「お越しくださり」を使うなど、使い分けられると良いですね。
「頂き」or「いただき」の使い分け方
「お越しいただき」は漢字で表記すると「お越し頂き」となります。使い分けに悩むところですが、補助動詞として、動詞の後に「頂く」をつける場合は、ひらがな表記が一般的です。
つまり、「来る」という動詞にあたる「お越し」の後には、「いただく」とひらがなの表記をする場合が多いでしょう。
ただし、「食べる」「飲む」などの実際の動作を表す動詞として使う場合は、「頂く」と漢字を用います。「ご飯を頂く」「お茶を頂く」「お土産を頂く」というふうに使いましょう。
「お越しいただき」はどんな時に使える?(例文つき)
「お越しいただき」はビジネスのさまざまなシーンで使われています。いろいろな言い回しを覚えておくと、いざという時に便利なので参考にしてみてください。
来てくれた相手に感謝の意を伝えたい時
「お越しいただき」を使った表現でよく使われているのが「お越しいただきありがとうございます」「お越しいただきありがとうございました」です。
最初のあいさつや、お見送りの際に使う場合が多いでしょう。
例文
・お足元の悪い中、弊社までお越しいただき、ありがとうございます。
・急なお願いにも関わらず、こちらまでお越しいただき、ありがとうございました。
また、遠方から来た相手に感謝を伝えたい時は、「遠路はるばるお越しくださり~」、相手が忙しい中来てくれた場合には「ご多用の中お越しくださり~」のように、言葉を追加するとより丁寧な印象になります。
相手に来てもらうようお願いしたい時
「相手に来てもらいたい」ことを伝える時にも「お越しいただき」という言葉を使います。
この場合は、失礼にあたらないように「お越しいただき」ではなく「お越しいただきますよう」と、婉曲(えんきょく)表現を使ってより丁寧に表現する場合が多いでしょう。
また、これと同様に婉曲表現を用いた言い方として、「お越しいただきたく存じます」というものもあります。
例文
・当日は13時までに弊社までお越しいただきますよう、お願いいたします。
・ご多忙のところ恐縮ですが、弊社に一度お越しいただきたく存じます。
「お越しいただき」の類語と言い換え表現
「お越しいただき」には「お越しくださり」以外にも似ている言葉があります。
「お越しいただき」が連発してしまう場合や、異なるニュアンスを伝えたい時には、以下のような言い換え表現を用いると良いでしょう。
おいでいただき
「おいでいただき」も「相手に来てもらう」ことを意味します。「行くこと」「来ること」「居ること」の尊敬語に、「もらって」の謙譲語を合わせた言葉です。
「居ること」という状態を表す意味も含まれるところが「お越しいただき」とは少し異なります。
「お越しいただき」を使うことが一般的ですが、どちらを使っても同じ尊敬語なので間違いではありません。
例文
・天候の悪い中わざわざおいでいただき、ありがとうございました。
・本日は弊社においでいただきまして、誠にありがとうございました。
ご足労いただき
「足労(そくろう)」とは「足を使って移動する疲れ」を意味します。
それに尊敬の接頭語である「ご」を付け加えた「ご足労いただき」は、「相手が来ること」に対して敬意を払ったり、礼を尽くしたりする意味を持ちます。
例文
・ご多忙にも関わらず、ご足労いただきましてありがとうございました。
・本日は弊社にご足労いただきまして、大変恐縮です。
お立ち寄りいただき
「お立ち寄りいただき」とは「立ち寄る」という「目的地に行く途中で、ついでに寄る」といった意味の言葉と、「してもらう」の謙譲語である「いただく」を併せた言葉です。
以下の例文のように「勝手を申し上げたにも関わらず」など、相手を気遣う言葉と併せるとより丁寧な印象を与えます。
例文
・勝手を申し上げたにも関わらずお立ち寄りいただき、誠に恐縮でございます。
・ご多用にも関わらず弊社にお立ち寄りいただき、ありがとうございます。
ご訪問
「ご訪問」は「お(ご)〜いただく」という形で「相手に訪問してもらう」という意味の謙譲語です。自分が目上の人を訪ねる場合にも使うことができます。
例文
・遠路はるばるご訪問いただき、誠にありがとうございます。
・ご訪問させていただきたく存じます。
ご来社・ご来訪
「ご来社」「ご来訪」は、目上の人が自社や待ち合わせ場所などを訪ねて来ることを表す言葉です。
「ご」は尊敬を意味する接続語になります。自分が相手の元へ行く時は「ご来社」「ご来訪」ではなく「ご訪問」を使うようにしましょう。
例文
・本日はご来社いただきありがとうございます。
・それでは当日、イベント会場へのご来訪お待ちしております。
「お越しいただき」の英語表記
ビジネス英語は、意訳(原文の一語一語にこだわらずに全体の意味を重視した訳し方)も多いので、あらかじめ決まった表現を押さえておくとスムーズに会話を進めることができます。
「お越しいただき」の英語表現は、「all the way from」(〜からはるばる来てくれて)です。直訳すると「○○からやってきた道のりや手段、全てに感謝します」という意味になります。
「わざわざ」や「はるばる」は「all the way」と表すことができます。そして「way」は「道のりや手段」を意味します。
例文
Thank you very much for coming all the way from Japan.
(日本からお越しいただき、誠にありがとうございます)
「お越しいただき」をうまく使いこなそう
「お越しいただき」は、感謝の言葉とあわせて使うことの多い表現です。感謝の言葉を上手に使いこなせるようになると、ビジネスシーンなどでも円滑なコミュニケーションがスムーズになります。
正しく「お越しいただき」を使って、目上の方やお客様に気持ちの良い対応ができるようにしていきましょう。
(朝谷のも)
※画像はイメージです
関連する記事も併せてチェック!
※この記事は2021年04月23日に公開されたものです