「伺わせていただきます」があまり正しくない理由
「大丈夫です」を敬語にしたときの正しい使い方は? 了承、断るなど、意味別に言い換え方をマナー講師が解説します。いざというときに使えるメール例文も紹介。正しい敬語を使えるビジネスパーソンを目指しましょう。
相手に失礼のないよう、気を配りすぎるあまり、敬語に敬語を重ねた言葉を使う人は増えています。
よく耳にする「伺わせていただきます」という表現。「伺う」も「させていただく」も敬語であるため、その使い方が正しいのか否かについて、多々議論されることも。
「伺わせていただきます」は正しい表現? 今回は、「伺う」という敬語の使い方を確認し、シチュエーション別に使い分けのポイントを紹介していきます。
「伺わせていただきます」は正しい敬語?
「伺わせていただきます」が正しい敬語なのかどうかを議論するには、まず「伺う」と「~させていただく」を分けて考える必要があります。
謙譲語Ⅰに分類される「伺う」
敬語は尊敬語、謙譲語Ⅰ、謙譲語Ⅱ(丁重語)、丁寧語、美化語の5種類に分類されます。
(1)尊敬語
相手側または第三者に向かう行為・物事・状態などについて、その人物を立てて述べるもの。(例)いらっしゃる、おっしゃる
(2)謙譲語Ⅰ
自分側から相手側または第三者に向かう行為・物事などについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。(例)伺う・申し上げる
(3)謙譲語Ⅱ(丁重語)
自分側の行為・物事などを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。(例)参る・申す
(4)丁寧語
話や文章の相手に対して丁寧に述べるもの。(例)です・ます
(5)美化語
物事を、美化して述べるもの。(例)お酒・お料理
※文化審議会答申『敬語の指針』(文化庁)より
「伺う」は「行く(訪ねる)」「聞く」「尋ねる」の謙譲語Ⅰに該当します。
謙譲語「させていただく」は適切?
次に「~させていただく」については、文化庁の文化審議会答申『敬語の指針』のなかで、
「基本的に自分側が行うことを相手側または第三者の許可を受けて行い、そのことで恩恵を受けるという事実や気持ちのある場合に使われる」
と記されています。
条件を満たさない場合は不適切
したがって、自分が行うことに対して、1.相手側の許可をもらい、2.それによって恩恵を受ける事実がある、という条件(ex.「コピーを取らせていただけますか」)を満たさない場合、あまり適切な表現ではないと判断されることも。
適切の許容度は人によって異なる
1と2の条件を満たしているかどうかは、人それぞれの捉え方による部分もあり、「~させていただく」が適切なのかは個人の許容度によって変化します。
「伺わせていただく」は二重敬語だからダメ?
また「~させていただく」は謙譲語であることから、「伺わせていただきます」は“二重敬語”になります。
二重敬語とは、ひとつの語に対して、同じ種類の敬語を二重に使ったもののこと。
つまり、行く・聞く・尋ねるなどを「伺う」と謙譲語にした上で、さらに「させていただく」という謙譲語を加えた「伺わせていただく」はこれに該当します。
一般に適切でないとされる二重敬語
一般に、二重敬語は適切でないとされます。相手に失礼にならないようにと慎重になりすぎるあまり、過剰な敬語となり、返って相手に伝わりにくい表現なのです。
したがって、二重敬語という側面からは「伺わせていただく」が好ましい使い方ではないと判断することもできます。とはいえ、語によっては習慣としてこれが定着しているものある、というのが文化庁の見解です。
一方「お伺いいたします」は定着した言葉
前述の『敬語の指針』によれば、謙譲語の「伺う」と「いたします」を用いた「お伺いいたします」は習慣として定着している二重敬語の例であり、使用しても問題はありません。
「お伺いする」や「お伺い申し上げる」も同様の扱いとされています。
シンプルに「伺います」でOK
ただし、言葉は相手によって受け取り方が異なるもの。相手の考え方や場面によっては、「二重敬語だから使用しないほうがいい」「丁寧すぎる」と取られることもあります。ですから、シンプルに「伺います」を用いるほうが相手には伝わりやすいといえるでしょう。
「伺わせていただきます」を伝わりやすくするには?
「伺う」は「行く(訪ねる)」「聞く」「尋ねる」の謙譲語であるため、ビジネスシーンにおいて用いることが多い敬語。下の例文を見ながら、相手に伝わる言い方を確認しましょう。
(1)「行く」の意味で使うとき
(例)取引先に電話で「明日の15時ごろに行く」と伝える場合
「明日の15時ごろに御社へ伺います」
ここでの「行きます」は謙譲語Ⅰの「伺います」に言い換えます。「伺わせていただきます」ではなく、シンプルに「伺います」と使うことで、回りくどい印象を与えない表現となります。
(2)「行ってもいいか」の意味で使うとき
(例)取引先に電話で「明日の15時ごろ行ってもいいか」と尋ねる場合
「もしよろしければ、明日の15時ごろ御社へ伺ってもよろしいでしょうか」
この場合、「行ってもいいですか」を「伺ってもよろしいでしょうか」に言い換えます。相手のところへ行くことに対して、許可を求めるときなどに用いる表現です。
また、こちらから相手先へアポイントをとるので、「よろしければ」や「差し支えなければ」といった相手の立場を思いやる言葉を添えると良いでしょう。
(3)「行きたいです」の意味で使うとき
(例)取引先に電話で「明日の15時ごろ行きたい」と伝える場合
「差し支えなければ、明日の15時ごろに伺いたいのですが、ご都合はいかがでしょうか」
もしくは
「こちらの都合で申し訳ございませんが、明日の15時ごろに伺いたく存じます。○○様のご都合はいかがでしょうか」
「行きたい」の敬語は「伺いたい」や「伺いたく存じます」が適切です。
(4)「行きました」の意味で使うとき
(例)昨日の15時ごろ、取引先へ行ったことを伝える場合
「昨日の15時ごろ、A商事へ伺いました」
謙譲語Ⅰの「伺う」を用いることで、自分のことをへりくだり、A商事を高めた言い方にします。
(例)先週、出張で東京へ行ったことを上司へ伝える場合
「先週、出張で東京へ参りました」
この場合、自分の行為である「行きました」は「参りました」を用います。「参る」は謙譲語Ⅱに該当します。謙譲語Ⅱは、自分側の行為・ものごとなどを話や文章の相手に対してへりくだって表現する言い方です。
(5)「行けません」の意味で使うとき
(例)会食に誘われたが行けない場合
「この度はお誘いくださり、誠にありがとうございます。あいにく、その日は出張のため伺うことができません。大変申し訳ございません。次回はぜひご一緒できますことを楽しみにしております」
「行けません」を「伺うことができません」に言い換えましたが、「伺うことが難しい状況です」に置き換えても構いません。置き換えることで、相手により柔らかい印象を与える断り方になるでしょう。
「伺います」を使ったメール例文
続いて、メールでのシチュエーションを例に「伺います」の使い方を見ていきましょう。
仕事では、打ち合わせや営業の目的で取引先へ出向くことが多々あります。アポを取った場合、「行く」という旨を伝えるにはどのようなビジネスメールが適切なのでしょうか?
取引先の指定する日程に対して承諾のメールを送る場合を例に考えます。
株式会社マイナビ
○○様
平素より大変お世話になっております。
マナー株式会社の△△でございます。
ご多用のところ
打ち合わせの日程につきまして、ご返信くださり
誠にありがとうございます。
それでは、10月10日(金)13時に貴社へ伺います。
当日は、皆様のお役に立てますよう尽力してまいります。
どうぞよろしくお願い申し上げます。
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マナー株式会社
△△ 〇〇子
住所・連絡先・メールアドレス
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メールではあいまいな表現を避ける
メールで気をつけるポイントは、あいまいな表現をしないことです。
丁寧に書きすぎるあまり、ひとつの言葉に2つ以上の敬語を使用しているケースをよく目にします。
メールは言葉だけのコミュニケーションになるので、相手に誤解を与えないようシンプルな言葉遣いを心がけたいもの。また、お願い事やお断りのメールなどでは、相手に寄り添ったクッション言葉、お礼なども忘れないようにしましょう。
Point!
・あいまいな表現は避ける
・丁寧に書きすぎるあまり敬語を多用しない
・誤解を与えないシンプルな言葉遣いがベスト
・お願いやお断りのメールはクッション言葉を添える
大切にしたいのは「相手に伝わるシンプルな表現」
これまで説明してきたとおり、二重敬語は一般に適切ではありません。しかし、「習慣として定着している二重敬語」もあります。
敬語は、その場の人間関係や気持ちのあり方を表現します。正しい敬語表現にとらわれるあまり不自然でわかりにくい言葉遣いになってしまっては本末転倒。「相手がその言葉を聞いてどのように感じるのか」を最優先に言葉を選べるといいですね。
(川道映里)
※画像はイメージです
※この記事は2019年11月27日に公開されたものです