「拝読」の意味とは? 使い方の注意点と例文を紹介
「拝読」という言葉の正しい意味や使い方を知っていますか? ビジネスシーンで使う機会の多いことばですが、敬語表現など使い方に迷うこともあるでしょう。そこで今回はライティングコーチの前田めぐるさんに、「拝読」の使い方と注意点を教えてもらいました。
「拝読」という言葉は、ビジネスシーンでよく耳にする言葉です。
しかし、「拝読」の正しい使い方や敬語表見について、不安が残るという方もいるのではないでしょうか?
今回は、「拝読」という言葉の意味や使い方を、例文とともに紹介します。
「拝読」の意味とは?
初めに、「拝読」という言葉を辞書で引いてみましょう。
はい-どく【拝読】
読むことの謙譲語。拝誦。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
辞書によると、「拝読」という言葉は、自分の「読む」という行為をへりくだって言う謙譲語です。
「謹んで読む」という意味があります。
「拝読」と「拝見」の違いは?
ビジネスメールや書類、手紙などを読んだことを相手に伝える時には、「拝読しました」の他に「拝見しました」という表現もあります。
「拝読」と「拝見」、どのような違いがあるのでしょうか。
「拝読」は「よく読んで理解する」というニュアンス
「拝読」の「読」には、「文章の一語一句を目で追って理解する。また、声に出してよむ」(『例解新漢和辞典』三省堂)という意味があります。
メールや手紙であっても、特に内容をよく読んで理解する必要があるもの、資料や本など文字量の多いものについては、どちらかといえば「拝読」の方がふさわしいでしょう。
「拝見」は「見て確認する」というニュアンス
一方、「拝見」の「見」には、「目でみる。ながめる。また、目にはいる。みえる。」(『例解新漢和辞典』三省堂)という意味があります。
「切符を拝見します」「お手並み、拝見します」などの使い方がされることから、見てチェックするという意味も含まれます。
「拝読」「拝見」いずれも失礼になることはない
もしも使い分けるとすれば、「拝読」は複雑な文章や書類・書物をよく読んで理解したという意味を伝える場合、「拝見」は手紙やメールなどのように、開封して読んだこと自体を伝える場合に使うと良いでしょう。
ただし、日常的にそこまで微妙なニュアンスが要求されることはまれです。
特に手紙やメールについては、どちらを使っても相手に対して失礼になることはありません。
次のページでは、「拝読」の使い方を例文と共に紹介します。
「拝読」の使い方(例文つき)
ビジネスシーンで「拝読」という言葉を使える相手は、主に取引先や上司、目上の人に対してです。
さっそく「拝読」を使った例文を見てみましょう。
例文
・お手紙拝読しました。
・先生のご本を拝読いたしました。とても有意義な内容で、早速実践しております。
・送っていただいた資料は、部長ともども拝読しております。
・資料を拝読したところ、お尋ねしたい点が出てきたのですが、後ほど少々お時間を頂戴できますか?
・ご恵贈いただいたご著書を拝読のうえ、仕事でも役立てたいと思っております。
「拝読いたしました」「拝読させていただきます」は二重敬語?
「拝読」を使った言葉で、「拝読いたしました」「拝読させていただきます」という表現を耳にすることもあるでしょう。
「拝読」がそもそも謙譲語であることから、「二重敬語にあたるのでは?」という疑問を持つ人もいるかもしれません。
ここでは、これらの表現と二重敬語について説明します。
そもそも二重敬語とは?
二重敬語とは、一つの語に対して同じ種類の敬語を二重に使ったものをいいます。
例えば、「お読みになられる」は二重敬語です。
「お読みになる」だけで「読む」の尊敬語であるところに、さらに尊敬語の「られる」を重ねているためです。
近年、こうした二重敬語の用法は一般的に過剰な表現だとされています。
「拝読いたしました」「拝読させていただきます」は二重敬語ではない
さて、では「拝読いたしました」の場合はどうでしょうか?
「拝読いたしました」の原形は、「拝読する」という動詞の過去形「拝読した」で、これは謙譲語Ⅰ(※1)にあたります。
さらに、「拝読した」の「した」を「いたしました」に変化させると、この部分は謙譲語Ⅱ(※2)になります。
そして、「拝読いたしました」は、「拝読いたした」に丁寧語の「ます」を加えたものです。
したがって、「拝読いたしました」は、謙譲語Ⅰ+謙譲語Ⅱ+丁寧語という異なる敬語をつないだもので、二重敬語の定義にはあてはまりません。
例えば、あなたの上司から、社長が書いた本を読んだか聞かれたとしましょう。
その場合に、「拝読いたしました」と答えると、「拝読」で第三者である社長への敬意を、「いたしました」で目の前の相手である上司への敬意を表すことができるのです。
「拝読させていただきます」についても同様のことがいえます。
ただし、「拝受させていただきます」については、別の観点から注意すべきポイントがありますので、後段で詳しく説明します。
※1 「謙譲語Ⅰ」とは、自分側から相手側又は第三者に向かう行為・ものごとなどについて、その向かう先の人物を立てて述べるもの。
※2 「謙譲語Ⅱ」とは、自分側の行為・ものごとなどを、話や文章の相手に対して丁重に述べるもの。(文化庁「敬語の指針」P15~20より)
次のページでは、「拝読」を使う時の注意点について解説します。
「拝読」を使う時の注意点
続いて、「拝読」を使う時の注意点を紹介します。
「拝読させていただきます」はへりくだり過ぎ?
前段で「拝読させていただきます」が語法的には二重敬語にはあたらないと説明しました。
しかし二重敬語ではなくても、別の観点から「拝読させていただきます」が適切とはいえない場合があります。
「させていただく」は、そもそも「相手の指示を頂戴してするという卑下した形で自分の動作を謙遜した意を表す」(『広辞苑 第七版』岩波書店)言葉です。
そのため、誰かの指示・意向・許可を得て行うのではない場合、また許可を得る相手が特定されない場合に使うのは、へりくだりすぎて、かえって失礼な印象を与えてしまうこともあります。
例えば、上司から「普段、どんな本を読むの?」と聞かれた時、「よく、ミステリーを拝読させていただきます」と答えるのは過剰な敬語です。
この場合は「よく、ミステリーを読んでおります」が適切です。
「拝読」は謙譲語なので自分側の行為についてのみ使う
時々、「こちらの資料を拝読されますか?」と相手の行為について「拝読」を使うケースを見かけます。
しかし、この場合は、「こちらの資料をお読みになりますか?」と尊敬語を使うのが正しい表現です。
「拝読」は謙譲語なので、相手の行為には使えません。あくまで、自分(側)の行為について使うようにしましょう。
次のページでは、「拝読」の類語と使い分けについて紹介します。
「拝読」の類語と使い分け(例文つき)
「拝読」という言葉を使わない場合には、どのような表現ができるでしょうか?
ビジネスメールや手紙、あるいは人と会って話す場面で使える、「拝読」に似た表現を紹介します。
「拝見(はいけん)」
「見る」の謙譲語です。
「手紙やメール、書類などを謹んで読んだ」という意味で使えます。
例文
・メールを拝見しました。早速のご返信、ありがとうございました。
「拝受(はいじゅ)」
「受ける」の謙譲語です。
「拝読しました」が中身を読んだ時に使われるのに対し、「拝受しました」は受け取ったことを伝える時に使われます。
まずは、受領したことを伝えて安心してもらいたい時に便利です。
例文
・まずは、拝受のご連絡までいたします。
「拝誦(はいしょう)」
「声に出して読む」という意味の謙譲語。
「拝読」が声に出す・出さない両方で使えるのに対して、「拝誦」は「声に出して読む」という場合でのみ使う言葉です。
例文
・お手紙うれしく、何度も拝誦しました。
「購読(こうどく)」
新聞や雑誌などを買って読むこと。
謙譲の意味は含まれていないので、敬意を示したい相手に対しては、「いたします」「しております」など謙譲表現にして使いましょう。
例文
・御社の新聞は、部署でも購読しております。
「繙読(はんどく)」
書物をひもといて読むこと。
謙譲の意味は含まれていないので、謙譲表現にしたい場合は「いたします」「しております」と一緒に使いましょう。
ただし、話し言葉では音の同じ「判読」と区別がつかないので、書き言葉での使用がおすすめです。
例文
・あの先生の研究は大変興味深く、著書も全て繙読しております。
「拝読」は相手にどんな印象を与えるか考えて使おう
今回は「拝読」という言葉の意味や使い方について解説しました。
文法的に正しい表現だとしても、「拝読させていただきます」のように、場面によっては過剰表現と受け取られることもあります。
正しい使い方を理解した上で、「相手にどんな印象を与えたいか」ということも考慮して、言葉選びをしてみてくださいね。
(前田めぐる)
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※画像はイメージです
(2022年11月29日)上記の文章は、筆者監修による元記事に編集部で加筆を行いました。
※この記事は2021年07月27日に公開されたものです