知ってる? 断る時に「できません」と使うのがNGな理由
ビジネスにおいて、相手の依頼に対してお断りをする際、「できません」と言って良いものか悩んだことはありませんか? ライティングコーチの前田めぐるさんに、「できません」の意味や言い換えの敬語表現、ビジネスに適したお断りフレーズを教えてもらいました。
仕事で何らかの依頼をした相手に「できません」と言われたら、どう感じるでしょう?
「できないのか。よし、分かった」「はっきり答えてくれて気持ちがいいな」と感じる人は少ないはずです。
では、ビジネスにおいて何かを断る際には、どのような言い方が適しているでしょうか?
「できません」の意味は?
まず、「できません」とはどういう意味でしょうか?
その成り立ちを考えてみましょう。
「できません」は「できる」の丁寧語「できます」の否定形です。
「できる」を辞書で調べると、以下のような意味があります。
できる【出来る】
(1)出てくる。
(2)形をとって現れる。
(ア)うまれる。
(イ)発生する。おこる。
(ウ)作られる。生産される。
(エ)男女がひそかに結ばれる。
(3)まとまりがついて仕上がる。
(ア)完成する。
(イ)物事がうまく行く。
(ウ)苦労して人物が練れる。
(4)それについての能力・才能がある。
(5)可能だ。また、……する能力または権利がある。
(『広辞苑 第七版』岩波書店)
ビジネスシーンでの依頼における回答で使う「できる」は、主に(5)の意味で使うことが多いでしょう。
その「できる」を否定する「できません」は、何かを依頼された際、「引き受けることが難しい」と答える場合に使われる言葉だということが分かります。
「できません」はビジネスにふさわしい敬語とは言い難い
「できる」を丁寧語にしたのが「できます」であり、その「できます」を否定形にしたのが「できません」です。
丁寧語の形を取ることで、敬語としての体裁を成してはいるものの、これが否定形になると、話がまた違ってきます。
国語的に「敬語」の形をしてはいても、それが敬語本来の「相手への敬意が伝わる」という働きができるかどうかはまた別ものだからです。
面と向かってはっきり「できません」と言われた場合に、それを「拒否」や「否定」と感じる人は多いでしょう。そういう意味では、「できません」は十分な敬語表現とは言い難いところです。
なぜなら、いかにも直接的な拒否や否定は、敬語表現では受け入れられにくいからです。ビジネスシーンで、「申し訳ございませんが」などのクッション言葉がよく使われるのもそのためです。
即座に直接的な否定表現をするより、やんわりとした表現の方が敬語では好まれるでしょう。
ビジネスシーンに適した「できません」の言い換え表現
前段で述べたように、直接的に否定しない言葉とはどのようなものでしょうか?
「できません」と同じ意味を持ちながら、やんわりとしたニュアンスのある表現を以下に紹介します。
どの言葉も、目上の相手に対して使うことができます。
「いたしかねます」
「それをいたす(する)ことができません」という意味です。
「いたしかねます」には、「する」の謙譲語「いたす」が含まれているので、「できません」よりも敬意の度合いが高いです。
「かねる」は動詞の連用形に付いて複合動詞を作り、「~することができない」という意味を表します。文法的に否定形ではないので、使いやすい表現です。
例文
・その資格を持った人材が弊社にはおりませんので、お引き受けいたしかねます。
「難しいです」
「それを行うことが困難だ。容易ではない」という意味です。
「できません」と同じ丁寧語ですが、否定形の形を取らずに「できない」状況を伝えることができます。
「考えてみたけれど難しい」「やってみたけれど難しい」というニュアンスも伝わるので、重宝する言い回しです。
目上の人に対して使う場合には「難しいと存じます」とすれば、さらに丁寧です。
例文
・ご期待に添えるべく策を講じましたが、やはり難しいです。
「ご期待に添えかねます」
「ご期待に添うことができません」と意味です。
「いたしかねます」と同様に、文法として否定形の形を取らずに、できないことを伝える表現です。
また名詞の「期待」を、「ご期待」と尊敬語にしているので、目上の相手に対しても使える言い回しです。
例文
・申し上げにくいことですが、おっしゃるようなご期待には添えかねます。
「辞退します」
相手からの要望というよりも、何らかの誘いや勧めに対して「できない」という意思を示す言葉です。
目上の相手に対しては「辞退いたします」と謙譲語にするといいでしょう。
例文
・せっかくのお誘いですが、辞退いたします。
ビジネスシーンにおいて断る際のポイント
日本語は曖昧な部分がある言語です。中でも、ビジネスシーンにおけるコミュニケーションでは、「イエス」と答える場面より「ノー」と答える場面の方が、言い回しが難しいものです。
断るということ自体が、相手によっては「拒否された」と受け止められることも多いため、どうしても遠回しになりがちですが、そのことが「承諾」と取り違えられてもいけません。
そのため、「やんわりと」かつ「しっかりと」断りの意思を表明する必要があるでしょう。
そうした場面では、前段の言い回しは覚えておいて損のない表現です。
また、前段でもいくつか示しましたが、次のようなクッション言葉を併用するとなお良いでしょう。
・申し訳ございませんが
・誠に恐れ入りますが
・せっかくお越しいただきましたが
・せっかくのご依頼ですが
・心苦しいのですが
・誠に申し上げにくいのですが
・あいにくですが
・残念ですが
いきなり断るよりも、配慮のあるフレーズを使って切り出すことで、断る側も断りやすく、相手にとっても拒否されたという印象が弱まります。
「受け入れる言葉」より難しい「断る言葉」
いかがでしたか?
「できません」といきなり断るのではなく、相手を尊重しつつ断る言い回しについても紹介しました。
初対面の人から「はい、できます」と丁寧語で言われても、さほど失礼とは感じないでしょう。
しかし「いえ、できません」と言われたら、「配慮がない言い方だな」「そんなに突っぱねた言い方をしなくても」と嫌な気持ちになる人もいるかもしれません。同じ丁寧語でも、承諾ではなく断る場面では、相手の受ける印象がそれほど違うわけです。
「イエス」より「ノー」の伝え方の方が、何倍も難しいのです。
意図せず傷付けてしまうことのないように、相手を尊重しつつ配慮ある断り方を心掛けたいものですね。
(前田めぐる)
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※この記事は2021年03月17日に公開されたものです