「外見80点の女」がモテない理由
6時起床。昨日飲み会があったので顔はお酒(飲めないわけでもなく飲みすぎでもないきっちり5杯)で多少はむくんでいる。それを半身浴でやわらげたい。
家から会社までの時間はドアツードアで30分。ほんとはもっと寝ていたい。
でも、髪の毛全体に濡れ感を出してうまい具合に毛先を巻くことに膨大な時間を持っていかれるので、そんな寝坊は私には許されない。私の髪型以上に造作している無造作ヘアはないと思っている。
慣れた手つきでツヤ肌をつくりあげ、唇はティントリップでお化粧直しまで大丈夫。ていねいに日焼け止めを全身に塗っていく。白いフレアスカートに少し背中が開いてる抜け感が抜群のシフォントップス。裾をしまって自慢のくびれたウエストを強調しておくことも忘れない。
あーーーはいはいはい。男好きそう好きそう。モテそうモテそう。
一回だけ声に出しておく。ガス抜き大事。
鏡の前にいる女は、完璧だ。159cm、46kg。ケバくもなく、地味でもなく、決して奇抜すぎず、トレンドを上手に取り入れている、キレイともかわいいともいえる絶妙な容姿。絶え間ない研究と努力を重ねた成果がこの外見に反映されている。
なのに、である。私は、昨日の合コンの顛末ばかり考えている。
私は正直、外見80点の女だ。だから、ある程度の男はすぐに釣れる。1回目のデートまで男は必死に私のご機嫌を伺うし、本気で口説き落としたい女としか行かないであろう店を予約し、緊張した面持ちで私を待っている。だがしかし、その面持ちは2時間後、緊張から退屈に変わる。そしてそのまま別れて、LINEはもう二度とこない。
ああ、また思い出しちゃったじゃん。サッカー部のキャプテンだったリョータのこと。サッカーが上手で、笑顔がかわいくて、顔が小さくてスタイルがよかった、神様が作った奇跡みたいな男の子、リョータ。私はそんなリョータに入学式の1週間後に告白されたんだ。一目惚れだと言われた。あのときの女子からの羨望と嫉妬のまなざし、もう最高に気持ちよかった。リョータが好きだっていうから何言ってるか全然わかんないHIPHOPだって聴いたし、リョータが大好きな上戸彩が着てる服をお小づかいで無理して買いに行ったし、リョータが好きな香りだといったシャンプーまでそろえて母を呆れさせたりした。一生懸命努力したのに、完璧な彼女だってリョータの友だちもみんな言ってくれたのに、リョータはわたしをあっけなく振った。しかもメールで。
「愛ちゃんといると、時間経つのがすげー遅いんだよね」
おいおい、暇な時間帯のバイトかよ。こんな屈辱あります? じゃあなんですか、私といるとき早く門限の時間なんないかなー? って思ってたわけ? 一刻も早く私を家まで送り届けたかったわけ?
あとね、本当に悲しかったのは、私“あい子”だからね。愛子じゃないから。お父さん、ここ一番こだわったとこだから。最後まで指摘せずにリョータが気づくのを待ってたのに。その後リョータはバレー部のでっかい女子と付き合った。今まで見たことないくらいの笑顔を彼女に向けていた球技大会。ハイタッチするのはあのデカい男みたいな女じゃなくて私だったはずなのに。
あれからずっと私は恋愛の神様になんか好かれてない気がする。
おかしい。マイナビウーマンに載ってた“デートでやってはいけない5選”は頭に叩き込んでるし、“彼に「次も会いたい」と思われる女になる仕草7選”もくまなく実行したし、“男子は女子に話を聞いてもらいたい。相づち上手女子の秘訣”って記事なんて、もはや暗記してる。
おいおい、どういうことだよマイナビウーマン。眠い目こすって読んでる私の時間返せよまじで。
ピコン!
あ、また新着記事だ。なになに?
“2回目のデートに誘われない女子のNG行動5つ”!!
おい、編集部出てこいや!!ケンカ売ってんのかよ!! でも一応ブックマークしておいてやるよ。
昨日の合コンにいたあの女、薫もこうやってネット記事読んだりするのかな。するんだったらどの媒体読んでんだろう。超知りたい。飲みに誘うかな。
昨日は仲がいい同期の由美が誘ってくれた合コンだった。相手は大手商社の独身アラサー男性。3人中2人が大学までラグビー、もうひとりが今でも現役のサッカー青年。日に焼けた屈強な肉体がまぶしい。
正直、勝ったと思った。こういう「僕たち、お外大好き!」系の男は、だいたい私や由美のような“わかりやすい女”を求める。
なのにですよ、奥さん。聞いてくださいよ。
女性陣のあとひとりが薫って女なんですよ。1年後輩なんだけど、なんか1年エジプトのカイロ大学に行ってたとかいって、実は同じ年みたいなちょっと意味わかんないやつ。どうやって生きてきたら、「そうだ! ちょっとエジプトのカイロ大学行ってこよ」って思うんだよ。まあ、それはいいとして。すみません取り乱しちゃって。
さて、男性陣3人。そのうちラグビー部のひとりは「鳩なのかな?」というくらいの胸板の厚さがトゥーマッチ。もうひとりのラガーマンは由美が隣をキープし、「お前わかってるだろうな」って顔をしてたので除外。私は、サッカー部のほうにアプローチをかけると決めた。何本かセンタリングあげてやってシュートでも打たせて気持ちよくさせとくかって思ったそのとき。
あの女がきた。
次回、勝ったと思ったはずの合コンが、「あの女」のせいでかき乱されます。
(文:桑野好絵/マイナビウーマン編集部、イラスト:黒猫まな子)
※この記事は2018年07月06日に公開されたものです