ローンを組んでいた家を売る場合には、抵当権を抹消しなければなりません。この手続きは専門家に依頼すると費用がかかるため、自分で行いたいと思っている人は多いのではないでしょうか。
実は抵当権抹消手続きは、手順に従って進めていけば自分で完了させることが可能です。今回は、自分で抵当権を抹消する方法をはじめ、追加で書類が必要になる特殊なケースの対処法について詳しく解説していきます。
併せて売却したい物件が遺産のときの抹消手続きはどのように行えばよいかも紹介するので、抵当権抹消の手続きをはじめる前に内容を把握しておき、スムーズに手続きを進められるようにしましょう。
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- 抵当権は、債務者側が抵当権の抹消手続きを行わない限り永遠に存在し続けます。抵当権抹消手続きは自分で完了させることも可能です。
- 抵当権抹消手続きの手順は、登記申請書の入手、法務局へ相談、金融機関から受け取る書類があるか確認、登記申請書の作成、書類を法務局へ提出、申請手続き完了、処理後に一部書類を返却してもらう、といった流れで行います。
- 抵当権抹消で追加の書類が必要なケースは、抵当権設定時から住所や名前の変更がある、ローンを組んだ金融機関の合併や移動があった、ローンを組んだ金融機関の代表者が替わった、住所変更登記をしていなかった、のどれかに該当する場合です。
そもそも抵当権とは何か
抵当権抹消を行う手順について確認していく前に、まずは抵当権の概要を解説していきます。抵当権とは、お金を借りた際に貸した側(債権者)が借金の担保として不動産を確保しておく権利のことです。
口頭でも法的効力はあるものの、債権者が自身が貸したお金を優先的に返済してもらえるようにするには登記が必要となります。そのため、銀行などの金融機関で住宅ローンを組む際などには、必ず抵当権設定の登記を強制されます。
登記の完了後、債務者がローンを全て返済してしまえば、金融機関にとって抵当権はもう必要ありません。しかしその場合、金融機関側が自ら抵当権の抹消手続きをしてくれることは皆無でしょう。
抵当権抹消の基本
次に、抵当権抹消の基本について理解を深めましょう。
ローンを完済したら、金融機関が確保していた抵当権の価値はなくなります。しかし、権力がなくなった抵当権は、そのまま放置しても根本から消失されることはありません。
債務者側が抵当権を抹消する手続きを行わなければ、永遠に抵当権は存在し続けるのです。
抵当権抹消をする理由とは
そもそも抵当権抹消をなぜ行うのでしょうか。その理由としては、大きく次の3つの事項があげられます。
- 不動産の売却の際に不利になる
- 相続手続きの手間が増える
- 書類の管理が難しい
それでは、それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。
不動産の売却で不利になる
住宅ローンを完済したら早いうちに抵当権抹消の登記を行っておかないと、いざ売却や融資の必要が生じた場合すぐに手続きを進められません。
急によい買い主が現れたり有利な条件での融資が受けられる話をもちかけられたりしても、抵当権抹消登記の手続きをしている間にそのチャンスを逃してしまう可能性があります。
相続手続きの手間が増える
抵当権抹消の登記をしていない不動産を相続する場合には、相続する人が抹消登記の手続きを行うことになります。
そして相続人が抹消登記をする際、まずは相続の手続きをしなければなりません。相続手続きは遺産分割の協議をしたり相続税を申告したりなど、大変な工程を経て完了します。それからはじめて、抵当権抹消登記の手続きに取りかかることができるのです。
このように抵当権抹消登記は不動産の名義人が行うのと比べて手続きが複雑になるため、借入れ金を返済できた不動産に関してはすぐに抹消の登記を行っておくことをおすすめします。
書類の管理が難しい
住宅ローンを全て返済し終えると、金融機関より抵当権抹消登記の手続きに必要となるいくつかの書類が送られてきます。その後、抹消登記の手続きを行わないまま長期間これらの書類を放置しておくと、紛失してしまう可能性があることは否めません。
金融機関からの送付から長期間が経過した書類の再発行は難しいケースがあるので、抹消登記の手続きをきちんと完了させるためにもできるだけ早めに抹消登記の手続きをしておいてください。
住宅ローンを完済した直後なら、抵当権抹消登記の手続きは簡単に行えます。
ローンを完済しても抵当権は抹消されない
抵当権は住宅ローンなどを組むときにつけられるのですが、完済できたからといって自動的に抹消されることはありません。
金融機関側も抹消手続きを行ってくれないので、不動産の所有者自らが手続きを進めていく必要があります。
抵当権抹消を依頼した場合の費用
抵当権抹消の登記は、必要書類を用意し法務局に抹消登記の申請を行うことで完了します。この手続きを司法書士に依頼した場合の費用相場を次の表にまとめました。
【土地が1筆・建物1個の場合の抵当権抹消費用】
登記申請の登録免許税 | 2,000円(不動産の個数×1,000円/土地と建物だと最低2,000円かかる) |
---|---|
司法書士報酬 | 10,000~20,000円+消費税 |
その他雑費 | 2,000円ほど(登記簿謄本の確認・郵送費など) |
合計額 | 15,000~25,000円 |
なお抵当権抹消登記を自分で行えば、司法書士への報酬分を節約することが可能です。その場合の登記費用は、土地建物1筆ずつの不動産で3,000~5,000円ほどが相場になります。
自分で抵当権抹消を行う手順
自分で抵当権抹消登記を行うときの手順は次の通りです。
- 登記申請書を入手する
- 売却予定の不動産を管轄する法務局へ相談する
- 金融機関から受け取る書類があるか確認する
- 登記申請書を作成する
- 作成した書類を法務局へ提出する
- 申請手続き完了
- 申請処理が終わったら一部書類を返却してもらう
これからそれぞれの項目について詳しく解説していくので、1つずつ確認していきましょう。
抹消登記は司法書士に代理でしてもらうのが当たり前だと思っている人は少なくありません。しかし想像以上に簡単に行えるので、ぜひチャレンジしてみてください。
1.登記申請書を入手する
登記申請書は実際に法務局に行ってもらうこともできますが、法務局のWebサイトからダウンロードするほうが手軽なのでおすすめです。
落ち着いて準備できるよう、できるだけ早い段階で記入例と一緒にダウンロードしておきましょう。
抵当権抹消登記申請書の様式はこちらからダウンロードしてください。
”法務局「抵当権抹消登記申請書」「抵当権抹消登記申請書(敷地権つき区分建物の場合)」”
また、抵当権抹消登記申請書の記入例は以下の資料を参考にしてみてください。
”法務局「抵当権抹消登記申請書の記入例」「抵当権抹消登記申請書(敷地権つき区分建物の場合)の記入例」”
2.売却予定の不動産を管轄する法務局へ相談する
抵当権抹消の手続きは、対象となる不動産が所在する地域を管轄する法務局でしか行えません。まずは、自分の不動産が該当する法務局はどこなのかを調べましょう。
その後、必ず管轄法務局に抵当権抹消の手続きを行いたい旨を相談しておいてください。なぜなら手続きの詳細が法務局ごとに異なるからです。
主な法務局の連絡先は次の通りです。
法務局 | 所在・連絡先 |
---|---|
東京法務局 | 〒102-8225 東京都千代田区九段南1-1-15 電話03-5213-1234 |
札幌地方法務局 | 〒060-0808 札幌市北区北8条西2丁目1番1 電話011-709-2311 |
仙台地方法務局 | 〒980-8601 仙台市青葉区春日町7-25 電話022-225-5611 |
横浜地方法務局 | 〒231-8411 横浜市中区北仲通5丁目57番地 電話045-641-7461 |
さいたま地方法務局 | 〒338-8513 さいたま市中央区下落合5丁目12番1号(さいたま第2法務総合庁舎) 電話048(851)1000 |
千葉地方法務局 | 〒260-8518 千葉市中央区中央港1丁目11番3号 電話043-302-1312 |
水戸地方法務局 | 〒310-0061 水戸市北見町1-1 電話029-227-9911 |
宇都宮地方法務局 | 〒320-8515 宇都宮市小幡2-1-11 電話028-623-6333 |
前橋地方法務局 | 〒371-8535 前橋市大手町2丁目3-1 前橋地方合同庁舎4階 電話027-221-4466 |
静岡地方法務局 | 〒420-8650 静岡市葵区追手町9-50 電話054-254-3555 |
甲府地方法務局 | 〒400-8520 甲府市丸の内1丁目1番18号(甲府合同庁舎) 電話055-252-7151 |
長野地方法務局 | 〒380-0846 長野市旭町1108番地 電話026-235-6611 |
新潟地方法務局 | 〒951-8504 新潟市中央区西大畑町5191番地 電話025-222-1561 |
名古屋地方法務局 | 〒460-8513 名古屋市中区三の丸2-2-1 電話052-952-8111 |
津地方法務局 | 〒514-8503 津市丸之内26-8 電話059-228-4372 |
岐阜地方法務局 | 〒500-8729 岐阜市金竜町5丁目13番地 電話058-245-3181 |
福井地方法務局 | 〒910-8504 福井市春山1丁目1番54号 電話0776-22-5090 |
金沢地方法務局 | 〒921-8505 石川県金沢市新神田4丁目3番10号 電話076-292-7810 |
富山地方法務局 | 〒930-0856 富山市牛島新町11番7号 電話076-441-0599 |
京都地方法務局 | 〒602-8577 京都市上京区荒神口通河原町東入上生洲町197 電話075-231-0131 |
神戸地方法務局 | 〒650-0042 神戸市中央区波止場町1番1号 電話078-392-1821 |
奈良地方法務局 | 〒630-8301 奈良市高畑町552 電話0742-23-5534 |
大津地方法務局 | 〒520-8516 滋賀県大津市京町3丁目1番1号 電話077-522-4671 |
和歌山地方法務局 | 〒640-8552 和歌山市二番丁3番地(和歌山地方合同庁舎) 電話073-422-5131 |
広島地方法務局 | 〒730-8536 広島市中区上八丁堀6-30 電話082-228-5201 |
山口地方法務局 | 〒753-8577 山口市中河原町6-16 電話083-922-2295 |
岡山地方法務局 | 〒700-8616 岡山市南方1丁目3-58 電話086-224-5656 |
鳥取地方法務局 | 〒680‐0011 鳥取市東町2丁目302番地 電話0857-22-2191 |
松江地方法務局 | 〒690-0001 島根県松江市東朝日町192番地3 電話0852-32-4200 |
高松地方法務局 | 〒760-8508 高松市丸の内1番1号 電話087-821-6191 |
徳島地方法務局 | 〒770-8512 徳島市徳島町城内6-6 電話088-622-4171 |
高知地方法務局 | 〒780-8509 高知市栄田町2丁目2番10号高知よさこい咲都合同庁舎 電話088-822-3331 |
松山地方法務局 | 〒790-8505 松山市宮田町188番地6 電話089-932-0888 |
福岡地方法務局 | 〒810-8513 福岡市中央区舞鶴3-5-25 電話092-721-4570 |
佐賀地方法務局 | 〒840-0041 佐賀市城内2丁目10番20号 電話0952-26-2148 |
長崎地方法務局 | 〒850-8507 長崎市万才町8番16号 電話095-826-8127 |
大分地方法務局 | 〒870-8513 大分市荷揚町7番5号 大分法務総合庁舎 電話097-532-3161 |
熊本地方法務局 | 〒862-0971 熊本市大江3丁目1-53 電話096-364-2145 |
鹿児島地方法務局 | 892-8511 鹿児島市山下町13番10号 鹿児島第三地方合同庁舎 電話099-219-2100 |
宮崎地方法務局 | 〒880-8513 宮崎市別府町1番1号(宮崎法務総合庁舎) 電話0985-22-5124 |
那覇地方法務局 | 〒900-8544 那覇市樋川1-15-15 電話098-854-7950 |
【北海道の法務局】
札幌管内 | 法務局 | 所在・連絡先 |
---|---|---|
函館地方法務局 | 〒040-8533 函館市新川町25-18 函館地方合同庁舎 | (0138)23-7511 |
旭川地方法務局 | 〒078-8502 旭川市宮前1条3-3-15 旭川合同庁舎 | (0166)38-1111 |
釧路地方法務局 | 〒085-8522 釧路市幸町10-3 | (0154)31-5000 |
3.金融機関から受け取る書類があるか確認する
住宅ローンの返済が終了したら、金融機関より抵当権の抹消登記に必要な次の4つの書類が届きます。
必要書類一覧 | 書類内容 |
弁済証書 | 住宅ローンが完済されたことを証明する書類 |
登記済証または登記識別情報 | 抵当権の設定時に法務局から発行される書類 |
登記事項証明書 | 法務局の登記簿に登記されている情報の内容を証明する書類(※発行から3ヶ月以内のものが必要) |
登記委任状 | 住宅ローンを組んだ金融機関が抵当権抹消に関する登記を委任するための書類 |
これら全ての書類が揃っているかどうかを確認しましょう。
もし見当たらない場合は、後述の「自分で抵当権を抹消するときのよくある疑問/必要な書類を紛失したらどうする?」の記載内容を参考にしながら再発行の手続きを進めてください。
4.登記申請書を作成する
それでは、抵当権抹消登記申請書の作成手順を詳しく見ていきましょう。項目ごとに表にまとめて解説していくので、丁寧にチェックしてください。
先述の「自分で抵当権抹消を行う手順/登記申請書を入手する」で紹介した、法務局のサイト内の記載例と照らし合わせながら行うのがおすすめです。
【抵当権抹消登記申請書の作成手順】
記入項目 | 記載内容 |
---|---|
登記の目的 | 「抵当権抹消登記」と記載する |
原因 | 完済した日付を記入する。完済日の確認後「平成○○年○月○日 弁済」と記載 |
抹消すべき登記 | 登記した日付と番号を記入する。抵当権設定契約証書に書かれている日付と番号の確認後「平成○○年○月○日受付第○○号」と記載 |
権利者 | 自身の情報を記入する。所有する不動産に共有持分者がいる場合は共有持分者の名前も記載 |
義務者 | ローンを貸した金融機関の代表者の情報を記入する。代表者名のほか金融機関の本店がある住所と金融機関名も必要 |
添付書類 | 抵当権抹消登記に添付する書類の一覧を記入する |
申請日の情報 | 対象の不動産を管轄する法務局にあてた申請日を記入する。管轄法務局の確認後「平成○○年○月○日 ○○法務局(管轄法務局名) 御中」などと記載 |
申請人兼義務者代理人 | 金融機関から発行された委任状に記載した申請人の情報を記入する。一般的には自身の情報を記載 |
登録免許税 | 登録免許税として支払う金額を記載する |
不動産の表示 | 登記する不動産の情報を記載する。この箇所は「別紙記載のとおり」として「不動産の表示」とタイトルをつけた別紙に不動産情報をまとめることも可能 |
”参考:法務局「抵当権抹消登記申請書の記入例」”
5.作成した書類を法務局へ提出する
登記申請書を完成させ提出書類が揃ったら、法務局に提出しましょう。提出方法は郵送するか窓口に直接提出、もしくはオンラインの3択から選べます。窓口への提出なら担当がチェックをしてくれるので不備をなくしやすいです。
書類作成や書類準備に対して不安を感じる人は、できる限り直接窓口に出向くようにしてください。また、書類には印鑑を捺印しなければならない箇所があるので、窓口に申請しに行く場合は印鑑を忘れないように持っていきましょう。そうすれば印鑑の押し忘れのミスを防げます。
通常の申請ならば印鑑は認印で問題ありません。なお、書類を提出する際には補正日も窓口で確認しておいてください。補正日とは、「申請に不備がないかどうかをこの日までに確認する」という日づけです。
6.申請手続き完了
書類を提出した後、法務局で書類の審査が行われます。法務局より何の連絡もなく、提出書類に問題がなさそうなら、補正日以降に「登録完了証」という書類を受け取りに行きましょう。
この受け取りの際には、申請書作成時に使用した印鑑が必要となるので必ず持参してください。登録完了証を受け取れば、抵当権抹消登記の手続きは完了です。
7.申請処理が終わったら一部書類を返却してもらう
ローン完済後に金融機関から送られてきた書類や抵当権抹消登記のために入手した書類の中には、申請したあと金融機関に返却しなければならない書類があります。
そのため法務局に提出する際には、返却する必要がある書類にコピーをつけて提出するようにしてください。そうすれば、申請が受理された後に原本を返却してもらえます。
受け取った書類は、金融機関より送付された書類と一緒に専用の返却用封筒を同封されているはずなので、そちらを利用して金融機関に送り返しましょう。
抵当権抹消で追加の書類が必要な4つのケース
抵当権抹消登記の手続きにおいて、追加の書類が必要になる場合があります。
抵当権を設定したときから抹消登記をするまでの間に、自分の身の回りや金融機関の内部に変化があるのであれば、何かしらの書類を付け加えなければならないのです。
この章では大きく4つのケースを取り上げて解説していくので内容をしっかりとチェックし、書類提出の際に不備のないようにしましょう。
抵当権設定時から住所や名前の変更がある場合
抵当権が発生した時点から現在までの間に、不動産の名義人の名前や住所が変わっている場合には、住民票や戸籍謄本が必要になります。
なお、住民票が「市町村が住民について、住んでいることを証明するもの」であるのに対し、戸籍謄本は「身分事項(人の出生・死亡・婚姻・離婚・縁組などの重要な身分関係)を証明するもの」です。
そのため、住民票は現在居住している市もしくは区の役所に行けば入手できるのですが、戸籍謄本に関しては本籍地の役所に本人が出向いたり、郵送で請求したりする手間を要します。
ローンを組んだ金融機関の合併や移動があった場合
抵当権抹消登記を行う際、金融機関より受け取る「登記委任状」をはじめとするいくつかの必要書類には、その書類を作成している時点での情報が記されています。
しかし時間の経過とともに、金融機関の合併や移動があったりなどして経営体制が変更された場合は大変です。抵当権抹消登記の必要書類を金融機関より、もう一度もらい直さなければいけません。
さらには、書類作成時から現在に至るまでの変更履歴を、全て書面で証明する必要がでてきます。そのため商号や本店が変わった場合は、変更の経緯が分かる登記簿謄本を添付するようにしましょう。また合併の場合には、抵当権抹消登記の前提として金融機関の移転登記やその他の変更登記が必要になる可能性も高いです。
その移転登記や変更登記にかかる費用は、一般的に自己負担となります。こちらのケースと、ローン完済直後に抵当権抹消登記を行った場合の費用と比較すると、およそ2倍もの差額が生じます。
ローンを組んだ金融機関の代表者が替わった場合
この場合も先述の「ローンを組んだ金融機関の合併や移動があった場合」と同様、抵当権抹消に関する必要書類を金融機関より再度送ってもらわなければなりません。
さらに、金融機関の代表者が変わったことを証明するための登記事項証明書や、過去の情報を調べるための閉鎖登記簿などの取得が必要になるケースもあります。
住所変更登記をしていなかった場合
住所に変更があったにも関わらず長期間放置していたため、住民票の除票(※1)などの取得が不可能になった場合には、法務局に上申書(※2)を提出しなければならない状況にもなり得ます。
その際、通常の抵当権抹消登記では不要な「実印」が必要になることがあります。そして、捺印した印鑑が実印だと証明するために、発行後3ヶ月以内の印鑑証明書までもが必要になってしまうのです。このように要らない手間と費用がかかるので、住所変更をしたときには早めに住所変更登記をしておきましょう。
(※1)住民票の除票:転出や死亡などにより、住民基本台帳から除かれた住民票のことをいいます。
(※2)上申書:上部機関や自分よりも役職的に上の人に意見を伝えるために使用される書類です。裁判所や警察、会社宛てなどあらゆるシチュエーションで用いられています。
遺産の抵当権抹消は相続手続きから
売却したい不動産が相続した遺産の場合の抵当権抹消は、抹消登記をはじめる前に「相続手続き」を完了しておかなければなりません。
相続手続きの流れは、次の3ステップです。
- 遺産を確認して分割の協議
- 相続する不動産の名義変更
- 相続税の支払い
中でも、遺族が揃って行う分割協議には時間を要することが多いです。早く抵当権を抹消するためには、協議を先延ばしにせずできる限り早めに終わらせるようにする心がけが必要となります。
1.遺産を確認して分割の協議
まずは、相続人の確定をしてください。具体的には、亡くなった人(被相続人)が誕生してから死亡するまでの戸籍謄本を入手し、財産を相続する権利をもっているのは誰なのかを確認します。
次に、被相続人が遺言書を残しているかどうかを調べましょう。自筆で書かれた遺言書が見つかった場合は、その場で開封してはいけません。必ず、家庭裁判所に持って行って検認してもらってください。
遺言書の有無の確認と同時進行で、どのような遺産が残されているかの確認を行います。この際には、プラスとマイナスの財産を全て調べることが必要です。
1つでも見落としがあると、後から遺産分割のやり直しをしなければならず面倒なことになるので注意して調査しましょう。相続人の確定や遺言書の確認が終了したら、相続に関わる全ての人に連絡をとってください。
その後の過程は、遺言書があるかないかで変わってきます。遺言書があれば、それに基づき遺産の分割を行うだけで済むのですが、遺言書がなかったり遺言書に記載されていない財産があったりする場合は、相続人が遺産分割の協議を行う流れとなります。
そして、協議の結論がでて全ての相続人が合意したら「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員に署名・押印を求めましょう。そこではじめて、遺産分割の実行がスタートします。
2.相続する不動産の名義変更
相続する不動産の名義変更は、遺産分割協議が終了した後に行うことが可能です。法務局に出向いて土地と建物の「所有権移転登記」を行ってください。
こちらの登記により、不動産の名義が被相続人から法定相続人など、相続した配偶者や子どもなどに変更されます。なお、相続登記(名義変更などの所有権移転登記)を行う際は、次の書類が必要です。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 法定相続人の戸籍謄本
- 法定相続人の住民票
- 相続する不動産の固定資産税評価証明書
上記の書類のほかに次の2点の書類が必要です。
- 法定相続人の印鑑証明書
- 遺産分割協議書
これらの書類は法務局や市町村役場をはじめ、複数の機関より取り寄せなければいけないので、できるだけ早めに準備しておきましょう。
3.相続税の支払い
相続税には、遺産の総額や相続人の人数などにより相続税がかからない範囲の金額があります。このことを相続税の「基礎控除」と呼びます。
そして基礎控除は、法定相続人の人数により変わります。基礎控除を出す計算式は次の通りです。
3,000万円 +(法定相続人の数×600万円)= 基礎控除
相続人が妻と子ども2人のケースで考えてみましょう。すると「3,000万円 +(3人×600万円)= 4,800万円」が相続税の基礎控除額となります。
このように、法定相続人の人数が増えれば増えるほど、基礎控除額は大きくなるのです。そして相続税の納税義務は、各法定相続人の相続総額が基礎控除額を超過する場合に発生します。なお相続税額は、各相続人が実際に手に入れた財産に直接税率をかけて算出するわけではありません。
実質的な遺産額より基礎控除額を引いた残額を、民法が定めた基準となる相続分(法定相続分)に比例した割合で割り振った額に税率を乗じます。
実際の計算では、法定相続分により比例配分した法定相続分に応じた取得額を下の表にあてはめて計算します。
【相続税の速算表(平成27年1月1日以後の場合)】
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
こちらの速算表で算出した各法定相続人の税額を全て合わせたものが、総相続税額となります。
自分で抵当権抹消をするときのよくある疑問
自分で抵当権抹消をするときには、着手する前や手続きの最中に色々な疑問が生まれるはずです。そこで、専門家に頼らず自分で抵当権を抹消する際によくある疑問をQ&A形式でまとめました。
今回は大きく3点の疑問を紹介していくので、抵当権抹消を行う際の参考にしてください。
まとめ
これまで見てきたように、抵当権の抹消は手順に沿って行っていけば自分で簡単に終了できる手続きです。できるだけ費用をかけずにマイホームを売却したい場合には、自分で抵当権抹消をして売却費用の節約を図ることができます。
また、売却予定の物件が遺産であるなら、まずは相続の手続きを行う必要があります。遺産分割の協議をした後、相続する不動産の名義を変更し相続税を納付してから申請を行うようにしてください。
その他に、抵当権の設定時から住所や名前に変更があったり、ローンを組んだ金融機関の合併や移動があるなどした場合は、手続きに必要な書類が追加されるので見落としのないよう注意し、適切な手順を踏んで円滑に抵当権抹消の手続きを進めましょう。
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