スーパーカーを買ったからといって必ずしもサーキットに連れ出す必要はないし、むしろ、リゾート地で“フツー”に乗って満足できなければ、こんなに高価なクルマをわざわざ買う理由も薄くなるというもの。そこへいくと、フェラーリ「12チリンドリスパイダー」は期待を裏切らない1台だ。
試乗ルートがフツーの道路だった理由
このところ、スーパーカーのオープントップモデルのステアリングを立て続けに握った。どれも700馬力、800馬力以上の車高の低いクルマだ。中でも印象的だったのは、ポルトガルで行われた国際試乗会で乗ったフェラーリ「12チリンドリスパイダー」。話題の自然吸気12気筒エンジンだけに、クルマ好きとしては興味津々である。830馬力のパワーもそうだし、12気筒エンジンならではの乾いた甲高いエキゾーストサウンドは注目に値する。しかも、スパイダーともなればドライバーズシートでそれを直接的に耳にできる。これはありがたい機会だ。
ただ、当日の指定されたコースを走るとちょっとした違和感を覚えた。というのも、ナビに沿った道は海岸線のフツーの道。大西洋の潮風を感じることはできるが、コーナーを攻めるようなワインディングはほとんどない。どちらかというと、パフォーマンスを体感するよりもオープンエアモータリングをエンジョイしてほしい、といった趣旨が伝わってくる。同モデルのクーペの試乗会に参加した人から話を聞くと、その時はサーキット走行があったそうだからまったくの別物だ。
その意図を鑑みると、やはり対象とするマーケットが異なるのかもしれない。スパイダーのような屋根開きクルマを欲するのはクルマ好きのセレブリティ。彼らがそうしたスーパーカーを持ち込むのはサーキットではなく、海沿いのリゾートである。ヨーロッパならニースやモナコ、アメリカならマリブやマイアミビーチといったところだろうか。映画のシーンのごとく、彼の地では超高級リゾートホテルのクルマ寄せにそんなクルマが押し寄せる。
といった背景を踏まえると、今回の国際試乗会の開催場所もその類に属す。試乗の起点となったリスボン郊外のリゾートはそれなりの高級感を持っていた。ゴルフコースも隣接していることから、ゴルフリゾートとしても人気がありそうだ。
オープンカーは見た目重視の軟弱なクルマ?
それじゃ、屋根の開くスーパーカーは見た目重視の軟弱な代物なのかといえばそうではない。中身はクーペと変わらないスペックを持ち、度肝を抜くようなパフォーマンスを発揮する。その証拠に、今回の12チリンドリスパイダーの開発陣はこんなことを言っていた。「クーペとスパイダーの開発は同時」だと。つまり、スパイダーはクーペの派生モデルといったオマケではなく、はじめから独自に設計されているという意味だ。
よって、リトラクタブルハードトップを稼働してもボディは堅牢で、ステアリング操舵にもしっかりと対応する。前後の重量配分49:51は、ドライバーを中心に向きを変えるようなレーシーなコーナリングを見せてくれるから楽しい。さらに言えば、サスペンションのセッティングは両モデル同じ。スパイダーだから乗り心地の良さを強調するということはなく、同じようなソリッドな走りを提供する。要するに、プロのレーサーがサーキットで走らない限り、その違いはわからないといった走りの持ち主である。
もちろん、それが大事なポイントなのは言わずもがな。クルマ好きのセレブリティにとってもパフォーマンスは重要。屋根が開くことでそれが劣れば、商品としての魅力は下がってしまう。つまり、買う意味が薄れるわけだ。
ということで、昔と違って堅牢なボディを手に入れたオープントップモデルはド級の走りとリゾートライフの両方を望む欲張りな願いをかなえてくれる。なので、世界中のセレブが放っておくわけがない。人気は常にトップレベル。きっと今回の12チリンドリスパイダーも、すでにオーダーはいっぱいなはず。スーパーカー業界はかなり潤っていそうだ。