メルセデス・ベンツのミドルクラスSUV「GLC」に新たなエントリーグレードとなる「Core」(コア)が登場した。“エントリー”というと装備を思いっきり簡略化して価格を抑えたモデル、というイメージなのだが、GLCコアには何が付いていて、何が付いていないのか。試乗して確かめた。
2024年の日本で最も売れたメルセデス
メルセデス・ベンツのGLCは「Cクラス」をベースにしたSUVだ。初代モデルは2015年に登場。日本導入は2016年2月だった。
SUVブームの波に乗って販売を伸ばしたGLCは、2020/21年に同社の最量販SUVへと成長。2022年には2代目となる現行型GLCが発表となり、2023年3月には日本でも発売となった。
GLCの勢いは衰えず、2024年には外国メーカー車の年間登録台数で第2位を獲得(1位はBMW MINI、3位はフォルクスワーゲン「ゴルフ」)。ミドルサイズSUV部門ではトップに躍り出た。メルセデス・ベンツ日本のラインアップの中では最も売れる車種となり、「Cクラス」「GLB」「Gクラス」「Eクラス」「GLA」などを上回る販売台数を記録している。日本での累計販売台数は4万台を超えたそうだ。
数あるメルセデス・ベンツのSUVの中でGLCが人気を博している理由は、その「サイズ感」にあると考えられる。「大きすぎず小さすぎない」GLCは、日本の道路環境や駐車事情に適しており、プレミアムSUVを所有したいと考えるファミリー層やビジネス層にとって、最初に思い浮かぶ選択肢となるはず。憧れの「スリーポインテッド・スター」のクルマを所有するという満足感に加え、先進の運転支援システムなど安全面に対する絶対的な信頼感も、GLC人気の要因と言えるだろう。
「GLC」のボディサイズは「GLC 220 d 4MATIC core」グレードで全長4,720mm、全幅1,890mm、全高1,640mm。今回は「GLC」に新たに追加となった「コア」グレードのクーペタイプに試乗してきた
ボディカラーは3色限定!
売れ筋商品なだけにGLCのラインアップは豊富だ。ボディはノーマルとクーペタイプを用意。パワートレイン(グレード)は以下の通りの充実ぶりである。
2.0L直列4気筒直噴ディ―ゼルターボ & ISG(197PS/440Nm)の「220d 4MATIC」(876万円、クーペ916万円)
2.0L直列4気筒直噴ターボ & プラグインハイブリッド(313PS/550Nm)の「350e 4MATIC スポーツエディション スター」(同1,023万円/1,056万円)
2.0L直列4気筒直噴ターボ & ISG(421PS/500Nm)の「メルセデスAMG 43 4MATIC」(同1,194万円/1,124万円)
2.0L直列4気筒直噴ターボ & プラグインハイブリッド(680PS/1,020Nm)の「メルセデスAMG 63 S E パフォーマンス」(同1,822万円/1,853万円)
今回の「コア」は日本専用モデルとなる。よく売れているGLCを、さらに手が届きやすい価格で提供しようというのが追加の狙いだ。ベースはディーゼルエンジンの220d 4MATIC。「GLC 220d 4MATIC コア(ISG)」と「GLC 220d 4MATIC クーペ コア(ISG)」の2台がある。
名称の「コア」は、GLCの“Core”バリューは変えることなく、装備をスリム化したところからのネーミング。クリーンディーゼル & ISGのハイブリッドシステム、フルタイム4WDの4MATIC、「Sクラス」譲りの安全性、最先端のインフォテインメントシステムなど、基本となる魅力は全く変えることなく、ボディカラーをポーラーホワイト(ソリッド)、オブシディアンブラック(メタリック)、ハイテックシルバー(メタリック)の人気の3色だけに絞り(標準は全8色)、オプション装備をよく選ばれている「AMGラインパッケージ」と「パノラミックスライディングルーフ」だけに限定し、価格を抑えたグレードだ。
価格はノーマルボディが819万円、クーペが866万円。標準タイプの220dよりノーマルで57万円、クーペで50万円低い「戦略的お買い得プライス」になっている。
これで十分? 装備の違いを確認
試乗したのはクーペタイプのコアだった。オブシディアンブラックのボディにオプションのAMGラインパッケージ(75.9万円)とパノラミックスライディングルーフ(23.3万円)を装着したコアにおける“フル”装備モデルだ。標準モデルにこれらのオプションを付けると軽く1,000万円オーバーとなるところだが、試乗車の総額は973.7万円に収まっていた。
エクステリアはフロントの「スターパターングリル」や大きな開口部を持つバンパー、新デザインのマルチスポーク20インチアルミホイールなどのオプション品で“武装”してあり、エントリーモデルというイメージは皆無。片側100万画素以上というプロジェクションモジュールを備えたデジタルライトも標準装備だ。
インテリアは基本のコアがブラック基調の「シルバーグレーダイヤモンドインテリアトリム」を装備するのに対して、このAMGラインは「メタルウィーブインテリアトリム」となり、シートも白に近い「ネバグレー」と「ブラック」の2トーンタイプとなっていた。素材は本革ではないものの、同様の質感とメンテナンスの容易性を持つ「レザーARTICO」を使用している。広いパノラミックスライディングルーフと相まって、明るく華やかな雰囲気だ。個人的には、コアを選ぶことで浮いた本体価格分のお金を使ってこの2つのオプションを装備すれば、価格以上の満足感が得られるのでは、と思った。
操作や走りは全く変わらず
筆者はGLCのコックピットデザインがけっこう好きだ。ドライバー眼前の12.3インチディスプレイとセンターコンソール先端に配置された11.9インチの縦型ディスプレイの組み合わが、いかにも自動車らしい。近年、大型で四角いディスプレイをセンターに配置するデザインが増加する中、メルセデス・ベンツらしい特別感をアピールしている点に魅力を感じる。
コラムシフトレバー、ドア側に取り付けられたシートアジャスター、ステアリングなどの操作系は従来モデルと同様。「ハイ、メルセデス」と声をかけることなく操作できる「ジャストトーク」をはじめ、音楽や動画のストリーミングサービスを利用できる「MBUX」(メルセデス・ベンツユーザーエクスペリエンス)、カメラ画像に進行方向を示す「MBUX ARナビゲーション」、オフロード走行モードで車体の傾きや路面の勾配を示す「オフロードスクリーン」、ボンネット下側の路面映像をバーチャルで表示できる「トランスペアレントボンネット」など、試してみるといずれもよく考えられていて、使いやすい機能であることに気がつく。
あえて指摘するとすれば、走行モードを選択する「DYNAMIC」スイッチが、他のスイッチと並列に配置されている点が気になった。独立したスイッチとして配置されていれば、より直感的な操作が可能になったと思っている(コアに限ったことではないのだが)。
2.0Lディーゼルの走りは、ISGの助けもあって走り出しからスムーズ。ガラガラというディーゼルノイズは効率よく抑えられていて気にならず、アクセルを踏み込めば4,000rpmあたりまで滑らかに回ってくれる。追従運転で自動再発進ができる「アダプティブディスタンスアシスト・ディストロニック」も、これまで以上に安心して使える。
箱根のワインディングなど、あちこちを走り回って燃費計を見ると12.1km/Lとの表示。ガソリン価格高騰のおり、軽油を使うのでドライバーには優しいのだ。
Cクラスから登場した四輪操舵の「リアアクスルステアリング」は、オプション「ドライバーズパッケージ」の選択肢がないので、コアでは残念ながら装着できない。試乗中に「ないと困る」というシチュエーションには遭遇しなかったので、これが付いていないからダメ、というわけではないのだけれど、あれば嬉しい装備であることは間違いない。