高級日本酒に新顔が誕生した。「和圖(WAZU)」は日本の誇るべき酒文化を世界に発信すべく、日本各地の酒蔵とともに、その土地の風土と伝統、そして個性を最⼤限に引き出す酒造りを行う、日本酒の新たなラグジュアリーブランド。
その第一弾として長野県、秋田県、京都府の3つの酒蔵と連携したラグジュアリー日本酒を2025年4月8日に発売した。価格はどれも1本38,500円。さて、どんなコンセプトで作られたのか?
低精白米と無濾過生原酒がコンセプト「日本酒の地図で一期一会の旅を」
「日本を世界に誇れる国にしたい!」。こう熱く語るのは「和圖」ブランドを立ち上げたTHREEの創業社長、土屋延大氏。外資系投資銀行で勤務経験の後、1年前に起業した。
京都府亀岡市出身の彼はこう続ける。「田舎で育った私は、日本の地方に眠る素晴らしい宝を目の当たりにしてきました。2年前に自分に子どもが生まれたことをきっかけに、次世代が胸を張れるような日本にしたいと思いが膨らんで、日本酒という伝統産業を通してそれを実現させたいと考えました」。
「和圖」のコンセプトは低精白米(精米歩合が比較的低めという意味)と無濾過生原酒(濾過や加水をせず、火入れ処理を行わない製法)。委託醸造で酒蔵と新商品を開発した。
それぞれ異なる地域の特性や酒米、酒造りの技術を生かした、個性豊かな3つの日本酒。今回はトータルで1,600本の限定なので、ブランドECサイトによる国内販売がメイン。だがすでに輸出免許も取得しており、今後は海外の売上げも伸ばしていく計画だという。
「和圖」の酒ボトルを手に取るとまず目に入るのは、ボトルにぐるりと巻かれた「絵巻ラベル」。文字がぎっしりと詰まった絵巻。それぞれの酒蔵の風土や酒造りの特徴が紀行文の体裁でまとめられている。
ラベルは裏表で日本語と英語で記載されており、ボトルの背景に眠る物語が滔々とあふれ出ている。和=日本の伝統や風土、圖(図)=地図。「日本酒の地図で、一期一会の旅をして欲しい」というのがブランド名の由来だ。さっそく3つの酒で旅へ出かけてみよう。
もち米を使用した、珍しい四段仕込みの酒「和圖 結 – musubu」
まずは北信濃の厳しい寒さと豊かな恵みの中で醸す丸世酒造店(長野県中野市)へ。「和圖 結 – musubu」は原料米に⻑野県産の酒米「ひとごこち」を90%使用。他にもち米「モリモリモチ」を10%使用しているのが特徴だ。
一般的に日本酒は「三段仕込み」で醸されることが多いが、この蔵では今では珍しい日本古来の醸造方法「四段仕込み」を採用している。四段目で蒸したもち米を使用したのが今回の限定酒。
興味津々で酒をひと口。とろりと甘く、深い旨みやコクが広がる。ふわりと白い花の上品な香りが漂い、無濾過⽣原酒らしい力強さも宿っている。もち米由来のやわらかい甘味が何とも心地よく包み込む。
伝説の米「亀の尾」を使った「和圖 歩 – ayumu」
次は「まんさくの花」銘柄などを醸す、日の丸醸造(秋田県横手市)へ。「和圖 歩 – ayumu」は日本酒の漫画にも登場して話題になった「亀の尾」を100%使用した酒。グラスを光に透かすと、波紋のような輝きを放つ。
亀の尾由来の力強い輪郭、そして深みのある味わいとキレのある酸味。溶けにくい亀の尾をじっくり低温で時間をかけて発酵させて溶かし、奥深い旨みと複雑な香りを最⼤限引き出した。
「絵巻ラベル」には酒蔵に潜む、豪華絢爛な鳳凰と梅の金箔金糸や、豪奢な婚礼衣装の物語が書いてあって、にわかに旅気分。豪雪に包まれた秋田で春を待つように、忍耐強く丁寧に醸す杜氏たちの姿が目を閉じると見えてくる。
京都テロワールが光彩を放つ「和圖 奏 – kanaderu」
最後は長い歴史を歩んできた京の都、鴨川のせせらぎが聞こえてきそうな松井酒造(京都府京都市)へ。「和圖 奏 – kanaderu」は300年の伝統を誇る、洛中最古の蔵の矜持。
京都産の酒米「祝」を100%使用し、酒蔵の地下を流れる、ミネラル豊富な井戸水を使用した。あっぱれ、京都テロワールが光彩を放つ無濾過生原酒。
ひと口目から、生酒らしく発泡感があり、瑞々しい。そして⽢み、酸味、コク…、繊細で重層的な余韻が広がる。なめらかで上品な口当たりに、一瞬「はんなり」の言葉が思い浮かぶが、余韻は舞妓の演舞のように艶やかでもある。
絵巻ラベルの端を止めている大ぶりなシールにも意味が宿る。例えば「結」にはもち米を手渡しするイメージから手のシールラベルを。「亀の尾」を使用した「歩」には亀のシール。「奏」には京都の祝いをイメージした鈴のラベル。
これら趣向を凝らしたクリエイティブは、ディレクターの徳田裕司氏(「いろはす」などを手掛けたカナリア 代表取締役)が担当した。
2025年冬には酒蔵が追加されるという「和圖」。国内では珍しい、絵巻ラベルの物語が国内外でどのように受け入れられるのか、ぜひ今後の動向に注目したい。