コロナ禍で「ロレックスマラソン」が話題になるなど、近年人気と値上がりが著しいロレックス。価格高騰や資産価値が取り沙汰されがちだが、「自分の生まれ年に製造されたモデルを購入する」など、ロレックスの時計に情緒的な価値を見出して楽しむ人もいる。

ロレックスの中でもパーソナルな価値を見出しやすく、楽しみの幅が広いのが「5桁」モデルだという。5桁モデルの人気の理由や楽しみ方、相場の動向について、KOMEHYOを運営する(株)コメ兵の海外事業部 部長 兼 商品部 プロダクトマネージャー(時計)の内藤博之 氏に聞いた。

  • 左から、「サブマリーナノンデイト 14060M」「デイトナ 16520」

■値上がりが続くロレックス、「資産」として見る向きも

――まずはロレックスの市場価格の推移とその背景についてお聞かせください。

一時的な相場の下落はあるものの、20年~30年の長期スパンで見ると、ずっと右肩上がりを維持しています。20~30年前に20万円~30万円前後だったモデルが、いまでは100万円程度に値上がりしていることも多いです。

中でも値上がり幅が大きいのがデイトナで、デイトナ(116500LN WT)を例に挙げると、2017年4月は196万4,667円だった平均売価が、2024年3月には394万4,779円と、約2倍に上昇しました。

ロレックスの市場価格が急騰したのは2022年4月頃です。背景として、コロナ禍におけるロックダウンで時計の生産が減少し、供給が大幅に減少したことや、ロレックスが「資産」として見られるようになったことが挙げられます。欧米を中心とした大幅なインフレに伴って現行モデルの値上げが相次いでおり、それに引っ張られる形で中古品の相場が上がっているという側面もあります。

――なぜ「ロレックスが「資産」として見られるようになったのでしょうか?

海外では、以前から時計を金のような現金に近い資産として扱うことが珍しくありませんでした。円が長らく安定していたので、自国通貨に不安を持つ日本人は少なかったのですが、直近の円安や物価上昇で状況が変わり、現物資産を持っておきたいと考える人が増えました。その結果、ロレックスに限らず、高級時計や金、不動産、自動車などにお金が流れるようになったのです。

いわゆる「ロレックスマラソン(ロレックスの目当てのモデルを定価で購入できるまで、何度も直営店に足を運ぶこと)」など、メディアでもロレックス人気やロレックスの価格高騰が取り上げられる機会が増え、広く一般に認知されるようになったことから、人気がさらに高まり、需給のひっ迫が加速したのも一因です。

■なぜロレックスがこれほど特別なのか

――そもそも、なぜロレックスは高値で取引されるのでしょうか。ほかの高級時計ブランドとの違いは?

まだ腕時計が普及していない1905年に、腕時計の未来に賭けて創業したロレックスは、腕時計の実用性を発展させてきた存在です。まだ懐中時計が主流だった時代から、腕時計の精度や気密性の向上を行い、現代的な自動巻上げ機構も普及させました。さらに、クオーツショックで機械式時計が売れなくなったときも一貫して機械式時計を作り続けてきました。こうした歴史と信頼の積み重ねに加えて、広告戦略や販売戦略が功を奏した結果、高級時計の代名詞になるほどの高い知名度とブランド価値を持つようになったのです。

歴史のある時計ブランドで、堅牢性が高いからこそ、ヴィンテージやアンティークが存在し、名のある海外オークションハウスでも億単位の高値取引がされていることも、ロレックスのブランド価値を高めています。

近年の日本国内におけるロレックスの価格高騰に関していえば、オークションの隆盛も一役買っています。対面オークションが中心だった頃は、力関係を忖度して落札を見送る人もいました。ところが、コロナ禍でネットオークションが取って代わるようになった結果、忖度へのプレッシャーがなくなり、高値を出せば誰でも買えるようになったことから、値段が上がりやすくなっています。

ロレックス人気の高まりにつれ、買取業者が増えていることも、ロレックスが高値で取引される一因となっています。

■マニア心をくすぐる「5桁モデル」とは

――ロレックスの中でも、通称「5桁」と呼ばれる時計がマニアのあいだで根強い人気があるそうですね。5桁モデルはどのようなモデルなのでしょうか。

すべてのロレックスの時計には型式番号が割り振られており、型式番号からモデルの特徴がわかります。ロレックスの型式番号には「4桁」「5桁」「6桁」の3つの桁数があり、「5桁」は1980年後半から2000年代に生産されたモデルです。具体的な型式番号として「デイトナ 16520」「サブマリーナー 14060」などがあり、「5桁」には多くの人が「ロレックス」と聞いてイメージする定番のモデルが多く含まれています。

■細部の仕様の違いで取引価格が倍になる例も

――5桁モデルの人気の理由を教えてください。

「5桁」が生産された時代は、ロレックスブーム、ハイブランド時計ブームが起こっていた時代と重なるため、根強いファンがいます。5桁モデルが「昔憧れていたロレックスだった」という人も多く、若かりし頃に憧れていたものをいま手に入れようとされる方も少なくありません。

インターネットで検索するとロレックスの年式表が見つかりますが、5桁モデルなら製造時期を1年単位で特定できるため、自分の生まれ年や記念の年に製造されたロレックスを買い求めるという楽しみもあります。

それに加えて、5桁モデルは長いあいだ生産されていたので、途中でマイナーチェンジを重ねているモデルが多く、仕様の違いから希少性を見出しやすくなっています。例えば「GMTマスターⅡ 16710」では、2005年~2007年に製造された個体の一部で「GMT-MASTER II」のⅡの上下に横棒がない個体が存在します。これは「スティックダイヤル」と呼ばれ、通常の2倍以上の価格で取引されるレアモデルとなっています。

  • GMTマスターⅡ スティックダイヤルの例

ほかにも、デイトナの「ブラウンダイヤル」「200タキメーター」「段オチ」など、同モデルの標準的な仕様とは異なる“レアなポイント”に名前がついて認知されるようになると、値段も上がります。細部の仕様の違いに希少性を見出して楽しめる5桁モデルは、マニア心をくすぐる要素が多いといえますね。

――5桁モデルの相場はどのようになっていますか?

5桁モデルは長年にわたって生産・販売されており、市場に供給された本数が多いため、それなりの数が出回っています。そのため、「ブラウンダイヤル」「200タキメーター」のような一部の特殊なモデルやレアモデルを除けば、比較的手に入りやすい価格にはなっています。

とはいえ、冒頭でお伝えしたように、20~30年の長期スパンで見ると、すべてのロレックスの時計の値段が右肩上がりになっており、5桁モデルの相場も当然上がっています。中でも値上がり幅が抜群に大きいのがデイトナです。ブランドとしてのロレックスの相場と、個体の人気や実力の掛け合わせによって値段が決まるので、5桁モデルだから特別に値上がりしているというわけではありません。

ただし、この時代のモデルはすでに生産を終了しているため、需要が増えても供給量が増えることはありません。そのため、人気が出れば値上がりしていきますし、一定のファンやコレクターがいれば今後面白い値動きをする可能性もあるのではないでしょうか。

取材: 横山茉紀
構成: 赤松春奈

※画像はKOMEHYO提供