日本でも一大市場となっている「韓国コスメ」。中でも、大きなブームを巻き起こした”CICA”コスメは、手に取ったことがある方、愛用している方も多いのではないでしょうか。また、最近では美容針を使用した”痛いコスメ”が注目を集めています。

これらの美容トレンドのけん引役ともいえるのが韓国コスメブランド「VT」です。同ブランドの2023年日本市場での売上は1260億ウォン(日本円で約135億円)。これはVTの全体売上のうち77%を占めているのだとか。また、2020年比で見ると、わずか4年で売上を12倍にまで伸長させています。では、どのように日本市場を開拓していったのでしょうか。

今回は、VT COSMETICS 営業マーケティング部 イ・ナギョン氏に、VTのマーケティング戦略についてお話をうかがいました。

  • CICA・痛いコスメ、美容トレンドの仕掛け屋「VT」。”バズらせる”戦略とは?

■「一番厳しい」日本市場でのマーケティング戦略とは

――そもそも、日本市場に参入しようと思ったきっかけを教えてください。

日本市場参入のきっかけは、「一番厳しい市場と言われる日本で認められればどこでも認められる」という思いから、ここで勝負しようと決めました。

――「日本が一番厳しい市場」とは、どういう意味でしょうか?

日本は近い国でありながら、同時に消費者層が多様なのです。

例えば、韓国の場合、口コミを見たり新商品が発売されたりすればすぐ買ってくれる消費者が多いのですが、日本の消費者はすぐ買うのではなく、成分表を見て慎重に判断したり、ずっと使ってきたものを使い続けたりする方が多いことから、最も厳しい市場だと私たちは考えています。

特に、私たちが展開しているのがスキンケア商品ということもあり、その傾向は強いと感じます。

――たしかに、私もスキンケア商品はかなり慎重に選んでいると思います。ちなみに、いつ頃から日本展開を視野に入れていたのでしょうか。

当時、中国に進出しており、それなりの成果を出していたのですが、これを「中国市場に限定すべきではない」と考えていました。そこで、Kービューティー(韓国美容)が日本でブームとなる少し前、2017年に日本で人気の買い物スポットとして象徴的な銀座での販売を皮切りに日本市場に進出しました。

――その際、どのような点に注力したのでしょうか?

日本市場への進出時、特に日本のオンラインチャンネルの運営を通じて、「消費者の商品体験およびレビュー」を重視しました。消費者と直接コミュニケーションを取り、率直な声を引き出すオンラインマーケティングを展開し、ヒット商品の開発・販売につなげていきましたね。

一方、オフラインでは、日本支社を設立し、現地での販売チャンネルとコミュニケーションを取ることを心がけました。チャンネルごとの特性を把握し、それに合わせた適切な提案を行うことで、オフライン先行展開時に良い反応が得られるよう注力しました。

――オンラインマーケティングの戦略について、もう少し具体的に教えていただけますか。

オンラインマーケティングでは、X(旧Twitter)やInstagramにおいて、インフルエンサーだけでなく一般の方々にもプレゼントキャンペーンを実施しました。約100名の方に商品をプレゼントして、感想を伝えてもらうようお願いしました。

インフルエンサーは、フォロワー数万〜十万人ほどのマイクロインフルエンサーからはじめ、フォロワー数50万人以上のメガインフルエンサーまで、プレゼントを定期的に贈っています。商品の発売時期に合わせ、1カ月前から声をかけてPRをお願いしたりもしていますね。

ちなみに、インフルエンサーを選ぶ軸は特に決めず、料理や運動などその分野でSNS発信を頑張っている人に幅広くプレゼント。VTは、「国民的な化粧品になりたい」と考えているため、年齢や性別を問わずたくさんの方に使っていただくようにしたのもポイントです。

――ターゲットをあえて限定せず、幅広くVT製品を使ってもらったのですね。売上はどのように変化したのでしょうか?

韓国企業であるハナ証券のパクウンジョンアナリストの資料から引用させていただくと、2020年度〜2024年度の日本市場の売上は次のように推移しています。

2020年度 105億ウォン(前年同期比24%)
2021年度 607億ウォン(前年同期比476%)
2022年度 900億ウォン(前年同期比48%)
2023年度 1,250億ウォン(前年同期比39%)
2024年度 1,708億ウォン(前年同期比37%)予想

また、VTの2023年度の全体売上のうち日本が占める売上は77%と、7割を超えています。

■日本展開に苦労した点は?

  • VTを代表する「CICA デイリースージングマスク(30枚入り)」

――大きな成長を遂げていますが、日本展開時に苦労した点や課題となったポイントを教えてください。

現在は日本の消費者もK-ビューティーに慣れてきていますが、日本に進出して間もない2018年頃は、まだその文化も根付いていませんでした。それもあり、当時はまだまだブランド認知度が低く、チラシとサンプルを直接配りながら日本の消費者が求めているものを調べ、悩み続けましたね。

当時、弊ブランドのモデルとしてBTS(当時は「防弾少年団」)を起用し、香水のポップアップをすることでブランドの認知度を徐々に高めていきましたが、それでも日本においてそこまで有名ではなかったというのが正直なところです。

――では、どのように認知度を高めていったのでしょうか?

リアル店舗に商品を置いてもらうため、営業社員が訪問し続けましたね。商品紹介だけでなく、弊社のマーケティング戦略や予算、韓国での売上、口コミなどを包み隠さず素直にお伝えして、棚に置いてもらうということをやっていきました。

その後、大きな成長のきっかけとなったのが、新型コロナウイルス感染症の拡大です。新型コロナウイルスが広がり、マスク着用による肌トラブルのケアに対して需要が高まると同時に、CICAの肌鎮静成分が注目を集めはじめていました。(VTが)CICAラインを日本で先行して販売し、人気を博していたこともあり、ここからさらに成長できたという経緯があります。

―― 大きな反響を呼んだ「CICA」ラインですが、日本で展開するにあたって意識したことはあったのでしょうか?

デイリーケアができるようラインナップを拡張したことで、「CICAといえばVT」という公式が作られ、さらに”1日1CICA”というフレーズで消費者の日常使いが促されたと感じています。

特に30枚入りの箱型シートマスクが人気を博しましたが、これは手軽にデイリーケアをしながらもゴミの排出を最小限に抑える工夫を施したことで、日本の方々の生活や消費特性とマッチしたようです。

また、CICAラインは特定のターゲット層をあえて設定していません。「若い人向け」「アンチエイジング」というくくりもありません。女性も男性も、10代~50代まで幅広い年齢の方に使っていただくことを意識していました。

――ほかにも日本展開において注視しているポイントはありますか?

日本はインバウンドのお客様からも需要があります。渋谷や銀座、浅草、札幌といった観光スポットへ日本の商品を買いに来たインバウンドのお客様が、韓国の化粧品を一緒に買って帰るという流れが非常に多くありますね。

ですので、日本のユーザーだけでなく、日本にやってくるインバウンドのお客様もしっかり視野に入れています。

■VTへの信頼感が新商品の成功につながる

  • リードルショット

――近年では「リードルショット」ラインで”痛いコスメ”という新たなブームを作り出していると思います。累計販売数1,170万本(※)を超えるリードルショットはどんな商品なのでしょうか?

CICAの次に発売されたリードルショットラインは、皮膚科での施術で得られる効果を化粧品に取り入れることを目標にした商品で、今では国内外で愛されるVTのベストセラーとなっています。

このリードルショットにはVTならではのCICA成分に加え、天然マイクロリードル(美容針)を組み合わせた独自の「シカリードル」が配合されており、肌に塗ると美容針のチクチクとした刺激があります。

※2024年6月12日時点/対象商品:リードルショット(50、100、300、700、1000、1300)6SKU *成分リードルショット含め スティックパウチ 非売品除く)/同社出荷基準

――CICAラインとは異なる新しい商品ですが、その戦略は?

商品開発においては、まずは社員全員がリードルショットを使い、商品力を確認しました。また、多くのお客様の声を集めることに注力し、新大久保でポップアップを開催してお客様と直接話しながらリードルショットをお試しいただきました。

この商品は美容針を使っていることもあり、他の商品PRのように「使ってみてください、これがいいですよ」と気軽に言うことはできません。使用法をきちんと知っていただかないとみなさん怖いと思いますので、直接使っていただくきっかけ作りを行いました。

――以前から変わらず"顧客のリアルな体験"を重視されているのですね。ユーザーからはどんな反応があったのでしょうか?

実際に使った方からは、「新しい!」「本当に痛いんだ」「こんな痛いものある?」という感想が当初はあがっていましたが、そのうち「本当に肌が良くなった」「おすすめ!」という流れができ、SNSでも多くの反響が寄せられました。

※感想はあくまで個人の意見です

――リードルショットは、「鎮静成分」のイメージがあるCICAラインとは真逆の方向性の商品だと感じますが、これまでのCICAライン愛用者が離れてしまう懸念などはありませんでしたか?

CICAの30枚パックはもうロングセラーになっていましたので、「今後はVTの違う面を見せよう」というのが課題でした。「VTは新しい商品がたくさん出るブランドなんだ」というのを伝えることが大事。

何より、「CICAという信頼できる商品を作ったVTの新商品だから」ということで、リードルショットも安心してお使いいただけたという側面があると考えています。

――最後に、今後の展望をお聞かせください。

VTは、リードルショットでつながる1つの世界観である「リードルショットユニバース」を構築し、アジア地域から北米地域まで輸出経路を拡張し、リードルショットブームを続けていきたいと考えています。

そして、VTならではの独自のスキンケアに注力し、主要海外市場チャンネルの多角化に重点を置いて世界へ羽ばたいていきたいです。特に今後は、アメリカをはじめ、北米および東南アジア、ヨーロッパの一部への進出に力を入れ、中国も衛生許可登録が終わり次第、2025年上半期をめどに進出を予定しています。

VTはお客様の肌悩みを解決できるよう、韓国でも日本の支社でも日々努力しています。商品を通じ、この頑張りがお客様に伝わればうれしいです。