マツダが2024年秋の発売を予定している新型SUV「CX-80」には、「メルティングカッパーメタリック」と「アーティザンレッドプレミアムメタリック」の新色2色が追加となっている。カッパーはクルマの電動化とも相まって増加中のボディカラーだが、マツダはどう料理した? デザイナーに話を聞いた。

  • マツダ「CX-80」

    マツダの新車「CX-80」にカッパーの新色が登場!

大人っぽいカッパーが誕生した背景は?

CX-80のメディア向け事前撮影会でマツダ デザイン本部の玉谷聡主査に話が聞けたので、新色について質問してみた。

「メルティングカッパーメタリック」は日本のマツダ車で初採用となる新色。「銅を溶かした表面に少しサンドブラストをかけたような新しいニュアンスの色」というのがマツダの説明だ。

  • マツダ「CX-80」
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  • ボディカラー「メルティングカッパー」をまとった「CX-80」。グレードは「XD-HYBRID Exclusive Modern」(6人乗り)

最近、カッパーやブロンズなどの色がクルマのボディカラーとして増えてきている。クルマの電動化を踏まえて、モーターに使う銅線をイメージした金属的な色をラインアップしているという自動車ブランドの話も聞いたことがある。マツダもトレンドを意識したのだろうか? 玉谷さんはこう語る。

「確かに、トレンドではあります。もともと、ブラウン系の色というのはアースカラーでもあり、欧米ではポピュラーです。彼らはそれをセンスよく乗りこなしているんですが、日本では『茶色って地味な色で、なかなか魅力を感じにくいよね』となるのが、これまでの流れでした」

さて、そんな流行の色をマツダはどんな具合に料理したのか。実際に見ると、メルティングカッパーは金属的なピカピカした感じの色合いではない。玉谷さんの考えは?

「いろんな表情を持つカッパーだと思っています。ちょっと黒を混ぜ込んで、落ち着いた色合いにしました。カッパーが前面に出て強く主張する色というよりも、カッパーという素材を使って、ちょっと落ち着いていてオシャレな、大人っぽい色を作りたいと考えました」

  • マツダ「CX-80」
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  • 確かに落ち着きがあって、ニュアンスのある色だ

開発の工夫は?

「銅を溶かして少しサンドブラストをかけたような色だと説明しましたが、細かいアルミのフレークが入っていて、それが少し白っぽい膜を作っているような表情になっているんです。それにより、普通のブラウン系のメタリックとは違ったニュアンスで、抜けのいい感じの、新しくてセンスのいい色になったかと思います」

メルティングカッパーは他のマツダ車も採用する「横展開の色」になる。しかも、「我々からすると惜しいことなんですが、お金をいただかない色なんです(笑)」(玉谷さん)とのことだ。つまり、「有料色」ではないということらしい。「メルティングカッパーは若い女性デザイナーが担当したのですが、この色を育てていく中で、その難しさとセンスの高さからして、お金をいただいても(有料色にしても)いいのではないかと思ったんですけどね」と玉谷さん話していた。

  • マツダ「CX-80」
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  • 千葉県南東部にある「 いすみグランピングリゾート&スパ ソラス」(千葉県いすみ市)で撮影。外房の日差しを浴びる「メルティングカッパー」の「CX-80」はいかがでしょう?

クルマの取材をしていると、最近は「CMF」(カラー、マテリアル、フィニッシュ)の担当として女性デザイナーが登場してくることが多くなっている気がする。自動車業界に、何か新しい風が吹いているのだろうか?

「それはありますね。特にカラーの領域というのは、新しさも大切ですし、『クルマに凝り固まらないこと』も大事です。そういう新しい感覚を持ったデザイナーと、我々のような『ゴリゴリのクルマ好き』みたいな人たちが一緒に何かを作るときに、うまく合致すると、割といいものができるんです」

今回のメルティングカッパーでも、いい化学反応が生まれたらしい。

「すごくいい色でも、クルマに塗ると違和感がある場合があります。『その違和感が新しさだよね』ということで、売り出す場合もあります。ただ、今回のメルティングカッパーに関しては、クルマという『動体の美学』を持ったモノに合う、すごくいい色に仕上がっていると思います」

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  • 内装は「ピュアホワイト」のナッパレザー、セカンドシート(2列目)の仕様は「キャプテンシート&セカンドシートコンソール」だ

赤の新色には熟練のデザイナーが関わっていた!

「アーティザンレッドプレミアムメタリック」は「ソウルレッドクリスタルメタリック」に代表されるマツダの「匠塗」(同社いわく、熟達した職人の手塗りに迫る特別な塗装技術)に追加となる新色。「ラージ商品群」専用色として新たに開発した深みのある赤で、海外で売る「CX-90」にも採用している。

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    ボディカラー「アーティザンレッドプレミアムメタリック」をまとった「CX-80」。グレードは「XD-HYBRID Premium Modern」(6人乗り)

マツダを象徴する「赤」を新しく作るのは、どう考えてもプレッシャーが大きそうな仕事だ。今度の赤はどんな赤? 玉谷さんに聞いた。

「シンプルに言うと、赤ワインの熟成をどんどん進めた感じの色です。特にラージ商品群に合うように、極端なくらいに深みをつけています。どんなクルマに塗っても似合う色かというと、そうではないというところまで踏み込みました」

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  • 「日が当たると『ギラッ!』と光るところもありつつ、陰になる部分にはシェードがかかったように深みが出ます」と玉谷さん

マツダの赤といえば「ソウルレッド」だが、この色は進化を重ねている。初出時は「ソウルレッドプレミアムメタリック」という名前だった赤が、今では「ソウルレッドクリスタルメタリック」に生まれ変わっている。「クリスタルを見慣れた目でプレミアムを見返すと、『あれ、こんなに若々しくて軽快な赤だったっけ?』という感じがします。クリスタルは、そのくらい落ち着いた赤になっています。そのソウルレッドを残しながら、もう一段階、深い色を目指したのがアーティザンレッドです」というのが玉谷さんの解説だ。

アーティザンレッドの開発には、ソウルレッドの誕生と進化に携わった熟練のデザイナーが関わっているとのこと。玉谷さんによれば同氏は、カラーデザイナー畑で育った人物でありながら、最終的にはカラーの技術者、生産サイドと「がっぷり四つに組んで、課題を解決していく」レベルにまで達した「すごい存在」なのだそうだ。このデザイナーは定年退職の年齢に達しているらしいが、若手に技術継承をする必要もあって今でも同社に残っており、新色の開発にも関与しているという。

  • マツダ「CX-80」
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  • 「アーティザンレッド」の誕生にはマツダの伝説的カラーデザイナーが深く関与しているとのこと。落ち着いていて品のいいダークな赤が大きなマツダ車によく似合っている

CX-80のボディカラーラインアップは全8色。「CX-60」(全7色)と比べると「ソニックシルバーメタリック」がラインアップから外れて、新色2色が新たに追加となった格好だ。

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    「CX-80」のボディカラーラインアップは全8色