第142回芥川賞・直木賞の選考委員会が14日、東京・築地の新喜楽で開かれた。直木賞は佐々木譲さんの『廃墟に乞う』(文藝春秋)と白石一文さんの『ほかならぬ人へ』(祥伝社)の2作品が選ばれた。贈呈式は2月19日(金)、東京會舘にて行われる。正賞は時計、副賞は100万円。

写真右から佐々木譲さん、白石一文さん

直木賞の候補作品は、池井戸潤さんの『鉄の骨』(講談社)、佐々木譲さんの『廃墟に乞う』(文藝春秋)、白石一文さんの『ほかならぬ人へ』(祥伝社)、辻村深月(※)さんの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』(講談社)、葉室麟さんの『花や散るらん』(文藝春秋)、道尾秀介さんの『球体の蛇』(角川書店)の5作品。

※辻村深月さんの「つじ」は、正しくは二点しんにょうにて表記される。

選考委員の代表とし記者会見を行った宮城谷昌光氏は、直木賞の選考が、異例の4回の投票によって行われたと説明。第4回目の投票において、佐々木さんの『廃墟に乞う』と白石一文さんの『ほかならぬ人へ』が全く同じ票数となったことから、2作品が選ばれたと説明した。

親子で受賞の白石さん、大嫌いな直木賞「好きぐらいは言いたい」

白石一文さんは、1958年福岡県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。1983年文藝春秋入社。「週刊文春」「諸君!」「文藝春秋」「文學界」各編集部、企画出版部などでの勤務を経て、2003年に退社、文筆生活に入った。父親は、直木賞作家の白石一郎さん。

宮城谷氏は『ほかならぬ人へ』に関し、「現代人、特に若い人が何を望んでいるかということを踏まえている」作品とし、「文体・構成力を評価する人(委員)も多かった」と述べた。また、「私はこの作品はもっと破天荒でもよかった」としながらも、「生活レベルの高い人の生活のあり方が的確に書かれている」とし、「文章の力の勝利ではないか」とたたえた。

親子での直木賞受賞は史上初。二回目の候補作で受賞となった白石さんは、八回目の候補で直木賞を受賞した父親に対して「僕は二回目でもこんなヘトヘトになるのだから、私の父親は相当忍耐力がある。父親が鬼籍に入って随分経つが、小説家になることを父親も、(直木賞受賞を見てくれているのであれば)一安心してくれているのではないか」と語った。父親から何と声をかけられるかとの記者の質問に対しては、少し考えた後で「『早かったな』と言うんじゃないかな」と笑顔を見せた。

幼いころ、直木賞が嫌いだったという白石さん。小さな団地で肩を寄せ合って、受賞の発表を待って、駄目だという連絡をもらう。大衆小説の登竜門である直木賞で、父親が散々落ちる姿をみて、こういう賞がなければいいとまで思っていたという。

今回、受賞の知らせを受けるまでは、「家でまんじりともせず、ただただ待ち続けた」。「自分の後ろに時計があって、肩が痛かったが振り向いて。そういう時は嫌な想像しかしない」と苦笑する。

大嫌いな賞だった直木賞だったが、今回の受賞で「変わらざるを得ない。大好きとは言えないが、好きぐらいは言いたい」と笑った。選考委員の中から文体・構成力を評価する声があったことについて「ますます意外」とした上で「文章は下手。本人が言うから間違いないと思う。小説はたくさん読んできたが、なかなか自分の身につかない。でも、選考委員からそう言っていただけることは望外なこと」と喜びを語った。

受賞作を書いた経緯について白石さんは、「いわゆる小説らしい小説を、これから書くことはおそらくないのではないかと僕は思っている。ある程度、小説の枠組みを壊していく、あるいは少しでも変えていく方向で小説を書いていくと思う。その前に小説らしい小説、みんなが読んでくれて、楽しんでくれる要素をふんだんに盛り込んだ作品を最後に書いてみたいと思った」と説明した。

白石さんの作品は、書下ろしの長編が多く、今回の受賞作『ほかならぬ人へ』のように、400字詰め原稿500枚以下の小説はあまり書いたことがなかったとのこと。そうしたことから、同作品が受賞したことについて「長編での受賞はあるかと思っていたが、このような作品がノミネートされて、受賞までいくというのはすごく驚きでした」と述べた。

今後については、「こういう賞をいただいたのであれば、まずはどういうことが書けるか少し時間を置いて考えたい。いろんなジャンルの作品を、好奇心をもって読んでいきたい」と話した。

佐々木譲さん、3回目の候補で受賞 - 「日本で私立探偵小説を書きたかった」

佐々木譲さんは、1950年北海道夕張市生まれ。広告代理店、自動車メーカー販売促進部などに勤務。1979年、『鉄騎兵、跳んだ』で第五十五回オール讀物新人賞を受賞し、作家活動に入った。『ベルリン飛行指令』(1988年新潮社刊)、『警官の血』(2007年新潮社刊)に続き、3回目の候補で直木賞を受賞した。

宮城谷氏は『廃墟に乞う』について、「書かれている小説の破綻のなさ」や「習熟度の高さ」が評価されたと述べた。「北海道の風景を描きながら、犯人の心象を(風景と重ねて)書いているのは、高等技術である」と評価した。

受賞の知らせを受けるまで、ワインを飲みながら待っていたという佐々木さん。「何か努力して状況が変わるものではないので、考えないようにするつもり」で、将来の旅行計画など版元の担当編集らと話していたという。受賞したことを知った時、驚きより「本当なのか?」と信じられない気持ちが強かったことを振り返り、「この場に来てようやく『本当らしい』という実感が沸いてきた」と率直に語った。

受賞した『廃墟に乞う』は、北海道の地方都市が抱える問題を一つひとつ描いていこうという発想から生まれた短編集。主人公を休職中の刑事に設定したことについて、佐々木さんは「日本で私立探偵小説を書きたかった。休職中の刑事であれば不自然ではなく、私立探偵小説が書けると判断した」と説明した。また、ニセコや夕張など、北海道の地方都市が舞台となる同小説において、「それぞれ性格の違う北海道の地方都市を、通して観る『視点』として休職中の刑事がふさわしいと考えた」という。

受賞時には、小説の舞台にもなっている夕張市の知り合いからも祝福の言葉をもらったという。「自分の生まれた街であり、大変厳しい状況である中、そこに住む人から自分の街の出身者として祝いの言葉をいただいて、非常に嬉しかった」と喜びを語った。

直木賞受賞で「数年先まで担当編集さんと執筆の計画が決まっているので、受賞で大きく変わるということはない」としたものの、今後書いてみたい分野について、「このところ警察小説が続いているが、幕末や戦国などの歴史小説も結構書いている。それでも、書き足りない部分も多いので、歴史小説に今一度、立ち返ってみたい」と話した。