変化する社会への迅速な対応が求められる一方、深刻な人材不足がその足かせとなっているのは金融業界もまた例外ではない。そうした中、九州・福岡を中心に拠点を置く西日本シティ銀行では、金融ビジネスの根幹でもある融資業務をAIの活用によりデジタル化することに成功。オンライン完結型融商品の導入により、マスリテール向け融資業務のスピードが格段に上がったことで、顧客のみならず行内からも高い評価を得ている。NTTデータとのパートナーシップに基づいて進められたプロジェクトの背景や課題、得られた効果などについて、西日本シティ銀行とNTTデータに話を聞いた。

  • (写真)集合写真

地域密着型金融として、人とデジタル双方の活用で顧客課題の解決をめざす

九州・福岡を主要基盤とする西日本シティ銀行は、地域密着型金融の推進に取り組み続けてきた。そんな同行が掲げる経営理念は、「高い志と誇りを持って時代の変化に適応し、お客さまとともに成長する九州No.1バンクの実現」だ。それに向けて中期経営計画の中では、基本戦略の1つとして「お客さま起点の“One to Oneソリューション”の提供」を掲げる。その達成のため、顧客起点のソリューション提供に向けた体制の構築とともに、企業と個人それぞれを対象とした新たなソリューションの提供にも力を入れているところだ。

西日本シティ銀行 デジタル戦略部 副調査役の冨高 洋吉氏は、One to Oneソリューションに注力する背景についてこう話す。「コロナ禍をはじめ外部環境の激しい変動や少子高齢化など、経営を取り巻く環境は日々目まぐるしく変化しています。さらに、法人のお客さまは、業種や事業規模、経営者の年齢などによって課題がまったく異なるので、均一的なサービスのみでは、多くのお客さまに刺さるようなサービスを提供するというのは非常に難しい。そこで人だけではなくデジタル技術も組み合わせることで、より多くのお客さまの多様なニーズに応えていく必要があると考えました」

  • (写真)西日本シティ銀行 冨高氏

    西日本シティ銀行 デジタル戦略部 副調査役 冨高 洋吉氏

これまでの融資の「当たり前」を覆すトランザクションレンディングサービス

このOne to Oneソリューションの提供に際して、各種デジタルサービスの提供基盤となるのが、法人&個人事業主向けサービスサイトである「NCBビジネスステーション」だ。“あらゆる事業者のデジタルプラットフォーム”を標榜するNCBビジネスステーションでは、取引照会サービス、他行口座照会サービス、電子帳票交付サービスなどがインターネット上で提供されており、利用者は各種経理事務を軽減することが可能となっている。

西日本シティ銀行が、NCBビジネスステーション上の新たな機能として2022年7月に提供開始したのが、銀行の融資業務をWeb上で完結させ、顧客利便性を向上させる「トランザクションレンディングサービス」である。

トランザクションレンディングサービスには、大きく3つの機能が用意されている。

1つ目は、短期間での審査を提供する機能だ。過去の取引データを用いて人工知能(AI)を活用した審査モデルで与信スコアリングすることにより、借入可能額等の条件をシステムにて事前に判定する。2つ目の機能は借入可能額等をNCBビジネスステーション上に事前に表示するレコメンド機能、3つ目はWeb上で事業者の真正性を確認できる機能だ。これらの機能により、受付から本人確認、融資実行までをWebで完結できるようになるとともに、申込から最短即日での入金を実現した。

一般的に、事業性融資の手続きにおいては、事業者は対面手続きのために銀行窓口の来店が必須となる。これに加えて、審査には申し込みから融資実行までに数週間程度の期間も必要だ。

トランザクションレンディングサービスではAI審査、Web受付機能および融資実行手続きまでをシステム連携することで、融資業務にかかる期間と事務負担の大幅な削減が可能となる。「最短で当日中の借り入れが可能というスピーディーな融資が実現できるようになりました」と冨高氏は強調する。

この申込みから入金までの期間短縮がもたらす恩恵は、融資を受けるお客さまだけにとどまらない。

「事業者の借入可能額の算出、申し込み後の審査手続き業務がシステム化されることにより、われわれ行員にとっても融資事務の負担軽減や、人手によるミスの削減につながりました」(冨高氏)

また借入可能金額をお客さまごとにレコメンドする機能も提供。事業者の入出金情報をもとにAIが融資の事前審査を実施し、借入条件や借入可能金額を算出してレコメンドするものだ。

「これまで行員で算出・判断していた事業者の借入可能額を自動的に算出できるようになりました。行員の融資判断を支援し、融資業務にかかる事務負担を削減できるというNTTデータのソリューションは、当行にとって画期的なものでした」(冨高氏)

  • (図)操作画面

    借入可能金額のレコメンド画面

そしてAI審査システムによるオンライン融資業務完結を可能としているのが、NTTデータが提供する、「SEHub(Service Engagement Hub)」だ。これは、地域金融機関の業務を効率化する共同利用型サービスであり、銀行業務のワークフロー化やAPI連携を行う。同じくNTTデータの「BizXaaSMaP登記サービス(地番から登記簿を自動で取得し、地図に紐づけて管理するサービス)」等と連携することで、真正性の確認(本人確認・意思確認)もオンラインで実施可能としている。

新しい融資業務の形をともに検討

実は、かなり以前より西日本シティ銀行ではマスリテール向け融資審査のデジタル化を構想していた。しかしながら、同様のサービスを提供する金融機関は極めて少なく、「本当に人手を介さないことが可能なのか」、「そもそもマーケットがあるのか」といった懸念を抱えていたため、なかなか実行に移すことができずにいた。

そんななか中期経営計画達成のために本格的な対応が求められ、パートナーとして白羽の矢を立てたのがNTTデータだった。

冨高氏はこう振り返る。「当行のフロントの勘定系システムはNTTデータのものだったため、融資の4プロセス(申し込み、審査、契約、入金処理)との親和性は高いと考えていました。また、単純に審査のみを行えばいいわけではなく、審査結果が出た後で、スコアリング内容をどのようにお客さまに還元するかというUI/UXなどの面も重要でした。UI/UXなどの面も含めてプロジェクト全体を考慮し、事業変革のパートナーとして二人三脚で歩むことができる存在であると確信し、NTTデータと取り組むことを決めたのです」

どんなサービスを開発するかを決定するにあたっては、「融資業務のあるべき姿とは」という理想像から、西日本シティ銀行とNTTデータがタッグを組んで考えていったという。開発を支援した、NTTデータ第二金融システム事業本部 営業企画推進部 第二営業企画担当 課長代理、福井健人氏は次のように語る。

「そもそもお金を貸す・借りるという行為が”何のために必要なのか"や、”どういうプロセスで行われるか”というところから、ともに紐解いていきました。このように、あるべき姿や本質を突き詰めて考えていったからこそ、これまでは長くかかることが当然のように思われていた融資審査の期間短縮に着手することになったのです。冨高さんはじめ西日本シティ銀行のみなさんとは日々本気で意見を出し合い、議論が白熱することも多くありました」

  • (写真)NTTデータ 福井氏

    NTTデータ 第二金融システム事業本部 営業企画推進部 第二営業企画担当 課長代理 福井健人氏

これまでにないビジネスモデルを支える高精度なAIと顧客目線のUI

こうして2020年夏にトランザクションレンディングサービス開発に向けた検討が本格的に始まった。開発に着手する前には、AI活用が本当に有効なのかという審査の品質レベルに関する実証実験を半年に渡って実施した。本プロジェクトは不透明な領域への新たなチャレンジではあったが、結果が良好であったことも社内からの理解を得ることに貢献した。

「一般的な融資先の審査では、決算書や事業計画書はもちろんのこと、代表者の考えや現場での従業員の働きぶりなど、財務諸表では見えない多種多様な要素までも目で確認し判断します。そこをAIに置き換えるとなるとこれまでとは業務プロセスからまったく異なってくる。社内でも話し合いを重ね、どれだけリスクを許容できるかの合意形成に注力しました。NTTデータには業務面、技術面で知見とコンサルティング力を発揮いただきました」(冨高氏)

福井氏はこう振り返る。「トランザクションレンディングサービスは、AIが審査を行うため、融資実行までのスピードは格段にあがる一方、従来型の審査プロセスと比較するとリスクが増加するように見えるかもしれません。もちろん一定のリスクコントロールは必要ですが、スピードを優先することで発生する不確実性は商品の金利に反映させ、利益を残せる商品設計にすればいいのです。借りるお客さま側としても、通常よりも金利が高かったとしても、スピードという価値を得られることを理解していただければ、必ずニーズがあると提案し続けました」

2021年8月、こうしてトランザクションレンディングサービスの本格開発がスタート。そしてわずか10ヶ月後の2022年6月にシステムが完成した。

開発はアジャイル的に、そして非常にスピード感をもって進められたという。その成果は、サービスのUI/UXにも表れている。西日本シティ銀行は、顧客目線でのシステムの使いやすさを重要事項としてとらえていた。「経営者をはじめ、対象となるお客さまの年齢層はバラバラです。システム化に抵抗がある方も少なくありません。いかに直感的に使えるシステムにするかは、われわれも知恵を絞りました」(冨高氏)

福井氏は「早い段階からモック(試作品)を西日本シティ銀行様に見ていただきながら、具体的なUI/UXの議論ができるように工夫をしました」という。西日本シティ銀行の顧客体験を大事にする姿勢と、そこに寄り添うNTTデータの協業があってこそ、直感的に操作でき、融資可能額が一目でわかるという“攻め”のUIが誕生したといえるだろう。

お客さまからも行内からも評価の声が寄せられるように

トランザクションレンディングサービスの提供開始から約1年。お客さまからの評判も高い。

「お客さまからは、融資が必要な時に申し込んですぐに借りられる点が好評をいただいています。また、これまでは営業担当が足を運んで顧客を開拓しなければ、そもそも新しいお客さまとのつながりが持てませんでした。対して今回のサービスによる融資は、営業担当がこれまでアプローチできていなかったお客さまがメインターゲットとなり、新たな融資先獲得につながっています。NCBビジネスステーションを起点としてWeb上でリコメンドを行うことでお客さまとのデジタル接点強化も可能です」と冨高氏はコメントする。

またNTTデータに対して、冨高氏は次のように評価する。「このように融資のスピードが向上したことは、融資先の企業のメリットと合わせて当行にとっての新たな強みにもなりました。単なるシステムの開発ではなく、事業の方向性を大きく変える取り組みであり、金融業界に精通するNTTデータだからこそ可能だったと思います」

NTTデータ 第二金融システム事業本部 営業企画推進部 第二営業企画担当 課長 吉田綾氏はこう振り返る。「当社では、勘定系システムやネット経由での入出金システム、反社チェックシステムなど、さまざまなソリューション(アセット)を金融機関に提供しています。金融機関の業務を熟知している私たちだからこそ、パートナーとして事業のコンサルティング的なところから参加させていただき、各アセットを一気通貫で連携させた“新しい融資業務の形”をご提案できました」

  • (写真)NTTデータ 吉田氏

    NTTデータ 第二金融システム事業本部 営業企画推進部 第二営業企画担当 課長 吉田綾氏

NTTデータの“事業変革力”に引き続き期待

こうした成果を踏まえて、今後の更なる進化に向けて、冨高氏は次のように展望を示す。「審査モデルのスコアや貸出結果のデータはどんどん蓄積されています。それらを分析することで、いずれは『この層にはもっと金利を安くしても貸せるのではないか』であるとか、『貸出し金額をもっと上げてもいいのではないか』などといった検討、商品改善もしていきたいです。今回、NTTデータには当行のビジネス課題のところから介入していただき、その豊富な知見とノウハウを生かしたコンサルティングをしてもらいました。今後も密に連携しながら、システム開発のみならず事業変革までも支援してもらうことを引き続き期待しています。1つのプロジェクトで終わりではなく、そのプロジェクト終了後に生じてくる未来の課題についても寄り添って支援してもらう事業変革パートナーに、NTTデータにはぜひなっていただきたいですね」

これを受け福井氏は、今後の豊富を次のように語り、NTTデータがめざす方向性を示した。

「さまざまな金融機関とのつながりがあるNTTデータだからこそ、”ただシステムを作る”でも、”青写真を描くだけのコンサルティング”でもなく、各金融機関の目標をお客さまとともに実現することをめざしています。今後も西日本シティ銀行様をはじめとした各金融機関との取り組みを通じて、利用者の皆さま、ひいてはそれぞれの地域に対し、価値を届けられる存在となりたいですね」

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