転換期を迎えた2016年、株主のシビアな要求で業界再編が加速

2016年のストレージ市場は、激変と言っても過言ではない、慌ただしい動きを見せた一年となった。Dell EMCの誕生を筆頭に、HPの分社化に続くソフトウェア事業の売却、オールフラッシュ製品の急成長など、例年なら一年を象徴するようなトピックスが複数挙げられる珍しい年だった。

ガートナー ジャパン リサーチ部門 バイス プレジデントの鈴木 雅喜氏

“変化の年”となった2016年のストレージ市場について、ガートナー ジャパン リサーチ部門バイス プレジデント、鈴木 雅喜氏は次のようにコメントする。

「これまで20年近くストレージ市場を見てきましたが、ここまで大きく、しかも一気に変わろうとしている時期はありませんでした。こうした変化はこの1、2年のうちに、ベンダー側はもちろん、製品を購入したユーザー側に対しても、さまざまな影響を及ぼすことになるでしょう」

なかでも大手ストレージベンダーの動きについて、同氏はこう見ている。

「まずDellのEMC買収に関しては、2017年にさまざまなシーンで影響が表れてくる可能性があります。またHPについては、ソフトウェア事業の売却という、ストレージと直接関係する出来事ではなかったものの、どのベンダーも『最新テクノロジーを組み合わせて顧客のビジネスをサポートする』という流れで製品/サービスの枠組を広げている中、逆に『選択と集中』の選択肢をとったので、心配するユーザー企業もいらっしゃいますね」

鈴木氏は、このような激しい動きの背景に、長い間ずっと伸び続けていたストレージ市場が反転し、縮小に向かいはじめていることがあるとする。

特に株式公開している外資系ベンダーの場合、たとえ利益を出していても、株主にこの先の成長が難しいと見られると抜本的な見直しが要求されるため、買収や分割という大きな動きにつながりやすい。その結果が近年の業界再編となったわけだ。

「大きなベンダー統合の動きに関しては2016年までで一段落したのではないでしょうか」と鈴木氏。2017年はその成否が表れはじめ、ユーザー企業も影響を受け始めることが予想される。

日系ベンダーも苦境、トレンド対応で出遅れ

では、日系ベンダーであれば安泰であるかといえば、そういうわけでもなさそうだ。

その理由の1つは、先に挙げたようにオールフラッシュ製品が一気に市場で広がる勢いを見せているにもかかわらず、多くの日系ベンダーはその流れに乗り遅れてしまっているからである。

さらに、大きなうねりを起こしはじめているSDS(Software-Defined Storage)やストレージのクラウドとの連携といった技術分野に関しても、日系ベンダーは一歩出遅れている感がある。

では、先進技術を売りにする新興ベンダーはどうか。

新興ベンダーはまだ投資フェーズにある企業が多く、堅調に売上を伸ばしていても、利益を出すまでには至らないケースがほとんど。これはストレージベンダーに限らず、新興ベンダー全般に言えることではあるが、大手ベンダーを相手に競合して、これから先、大きな利益を出せるほどの市場シェアを獲得できるのか、また日本ではどうかといった点に懐疑的な目を向けるユーザーもいる。また投資家の目も厳しい。必ずしも安泰とは言いきれないのである。

鈴木氏は言う。「これほどまでにどのベンダーも、もがく状況はかつて記憶にありません。しかも、例えば企業統合の相乗効果を出すのみではなく、オールフラッシュにもSDSにも統合システムにもクラウドにも対応しなければなりません。やるべきことは増える一方で、すべてのベンダーが挑戦を続けるべき局面に立たされていると言えるでしょう」

製品選びのリスクが拡大、2017年は「戦略製品」の採用を

では、ストレージ市場がかつてない激変の時を迎える2017年、ユーザー企業はどのように市場を見ていけばいいのだろうか。この点について鈴木氏は次のようにアドバイスする。

「まずは、ベンダーやその製品に対する思い込みを一度払拭することが大事です。このベンダーであれば安心、この製品であれば大丈夫、といったこれまでの常識は、残念ながら通用しなくなりはじめています。ユーザー企業の担当者と話していても、想定していたのと違っただとか、信頼していた導入製品に障害が発生したとかいった声をよく聞くようになりました」

リソースの限られるベンダーは、その会社の「戦略製品」に優先的に投資する傾向にある。それ以外の製品は、品質やサポートが一段階劣る傾向が強まることは避けられない。そのため2017年は、なるべくベンダーが戦略上重視している製品を選ぶようにすべきというのが鈴木氏の見解である。そしていずれの製品にせよ、最も目を向けるべきはソフトウェアの品質だという。

「どんなに優れたアーキテクチャや機能を有していたとしても、バグがあったのでは台無しです。もしもの場合を想定して、バグが見つかった際のサポート体制にまで目を向ける必要があるでしょう。外資系製品の場合は日本のパートナーの力を重視すべきです」(鈴木氏)