米テキサス州オースチンで毎年春に、South by Southwest (SXSW)という10日間に及ぶ双方向メディア・映画・音楽の大規模イベントが開催される。今年は3月12日から21日だった。世界中から2,000組を超えるミュージシャンが集まり、数多くの新作映画が上映される。フェスティバルであり、またミュージシャンや映画関係者、スタートアップ経営者などが様々なトピックについて議論するカンファレンスでもある。ここ数年、ネット産業からの注目も高まっている。というのも期間中にウエブ・スタートアップがSXSWという箱庭の中で、SXSW参加者を対象に開発中のサービスやテクノロジをテストするからだ。3年前、TwitterがSXSW参加者をリアルタイムに結びつけてブレイクのきっかけをつかんだ。

そのSXSWで今年注目されたのが、FoursquareやGowallaなどの位置情報ベースのSNSだ。中でもSXSWを経てFoursquareが頭ひとつ抜け出した感がある。

通いつめてメイヤーになればランチ無料!?

Foursquareでユーザーは、iPhone、Android携帯など位置情報を取得できるモバイル端末で専用アプリを使って訪れた場所を記録 (チェックイン) する。ただそれだけだ。

リアルライフでどこかに行く、何かをやり続けたら、バーチャルなバッジがもらえるFoursquare

チェックインすると自分のアカウントにポイントが加算され、チェックインやポイントに応じて様々な「バッジ」をもらえる。例えば10カ所の異なる場所にチェックインしたら「アドベンチャー」バッジ、週に3回カラオケに行ったら「カラオケ」バッジという感じだ。Foursquareに何種類のバッジがあるかは公開されていない。どこかを訪れたり、何かをし続けていたら突然バッジが現れる。それが宝探しのようで面白い。また、特定の場所の常連になると「メイヤー (市長)」の称号が与えられる。バッジと違ってメイヤーは常連でなくなったら他人に移ってしまうので、スポーツジムのメイヤーになったりしたら維持するのが大変である……。

Foursquareには、もう一つTipsというチェックインした場所でメモを残しておく機能がある。レストランでおすすめのメニューや逆に失敗したメニュー、他にも「ここでサイフを盗まれた!」など、これら経験者たちからの情報は特に初めて訪れた場所で参考になる。

Foursquareは昨年3月に設立され、日本国内でも少しずつユーザーが増えている。新しいサービスではないが、役立つようになってきたのは今年に入って利用者が急増し始めてからだ。Tipsが充実し、最近ではバッジ収集やメイヤー就任を目標にチェックインするというよりも、Tipsを確認するためにチェックインするような感じになっている。

Foursquareが公開しているAPI利用の伸び。今年に入ってから急増!

またユーザー増とともに、バッジやメイヤーシップを集客に利用するビジネスが増えているのもFoursquareが面白くなっている理由の1つだ。メイヤーにハンバーガー/フライドポテトを無料提供するハンバーガーショップ、メイヤーにトロ2貫をサービスするすし屋など。他にも、メイン州のある墓地が100回のチェックインで無料ツアーを提供したり、マイアミのある弁護士が地域の刑務所5カ所でチェックインした人に限って初回相談を無料にするなど様々だ。

自分の店のFoursquareメイヤーに無料コーヒーを提供するカフェ

モバイルデバイスで検索してますか?

「検索はデスクトップでの出来事であり、モバイルデバイスで検索は伸びていない。モバイルデバイスでユーザーは検索していないのだ」

8日(米国時間)に米Apple本社で行われたiPhone OS 4のプレビューイベントで、モバイル広告プラットフォーム「iAd」を発表したときのSteve Jobs CEOの言葉である。会場は一瞬シーンとなり、ちょっと遅れて笑いが起こった。これだけわれわれの生活にWeb検索が浸透しているのに、いきなり「検索使わないでしょ」と言われても、そりゃ返事に困ってしまう。

ただ、この後にJobs氏は「モバイルユーザーは、より多くの時間をアプリに費やしている」と続けた。それなら納得である。たしかに多機能携帯でブラウザを開いて検索を使う頻度は減っている。たとえば食事する場所を探すとき、ローカル検索ではなくレストラン/ショップ・レビュー・サービスYelpのアプリを使う。そのほうが効率的にレビューやコメント、料理の写真なども確認できる。列車のスケジュールも以前はCaltrainのモバイルサイトにアクセスしていたが、今はCaltrainアプリだ。

今日Foursquareで検索して立ち寄った郵便局でチェックインしたら、「春休み期間中は郵便用とパスポート用の2つの列があり、入り口では分からずに多くの人がパスポート用に並んでしまいます」というTIPが出てきた。本当に目の前でパスポート用の列が入り口からはみ出していて、多くの人が特に確認せずにその列に並んでいた。最近こんなアプリに思わず感謝したくなるような体験が増えているから、モバイルデバイス利用において検索が、その役割をアプリに奪われているというJobs氏の指摘には大いにうなずける。

もちろんモバイルアプリならなんでも便利というわけではなく、優れたサービスとモバイルデバイスの機能を十分に引き出したアプリが増えているから便利なのだ。そうした点からiPhone OS 4を見ると、気になる機能が盛りだくさんである。例えば、マルチタスク機能のバックグラウンドロケーション・サービスと、ゲーム用のソーシャルネットワークGame Centerを上手く活用すればFoursquareのようなゲーム性があり、またユーザーとローカルビジネスを結びつけるアプリを今よりも少ない労力で開発できそうだ。Appleは、これまでもWi-Fiベースの位置情報サービスSkyhookを早い段階でサポートするなど、プラットフォームレベルでの開発者に対するサービス支援に積極的だったが、iPhone OS 4でさらに大きな前進が見られそうだ。