老いてますます盛んなり!

就業規則に定年が定められていても役員である経営者には、通常、定年はありません。したがって、65歳でも70歳でも、現役でばりばり働いている中小企業経営者の方は多数いらっしゃいます。そういう経営者の方にお会いすると

人は年齢を重ねるから老いるのではない。希望を失ったとき老いるのだ
--サミュエル・ウルマン

という言葉と共に、少子高齢化恐れるに足らず、とつくづく思ってしまいます。豊富な経験や知識に根ざした判断力や決断力、泰然とした姿勢に触れるたび、憧れや尊敬の気持ちを抱かざるを得ません。

私のクライアントに、65歳を機に経営していた人事コンサルティング会社を退職し、「ボケ防止に」と、現在は個人でコンサルタントとして活躍している方がいます。ゴルフとジャズをこよなく愛し、まず月初めに遊びの予定を入れた後に仕事の予定を入れる、という形で退職後の生活を楽しんでいました。ところが70歳近くになった今、当時の取引先からの強い勧めにより、もう一度会社を興すことを計画しています。その創造的な意欲には感服するばかりです。

その一方で、事業にはほとんど意欲がなく、ただ会社に在籍するだけの経営者の方もいらっしゃいます。たとえば、競争原理があまり働かない、許認可業などの安定した業界にそのような経営者をよく見かけます。幸運?なことに、黙っていても数字が積み上がっていく会社なのです。

あなたは意欲のある経営者といえますか?

事業に対して意欲をなくしてしまった経営者が経営する会社はどのようになるでしょうか?

外見的な印象を申し上げますと、社屋は全体的に古めかしい感じがします。お世辞にも綺麗でお洒落とはいえません。むき出しになった鉄骨が錆びていたりします。事務所にお邪魔すると暗めで重めの雰囲気です。ちょっとカビ臭かったりします(ゴメンナサイ!)。受付に行けば、「誰が来たのかしら、まったく!」といった表情で、笑顔の挨拶などありません。応接間に通されるとソファが綻びていたりします。そして例外なく、とびっきり不味いお茶(ゴメンナサイ!!)が出てきます。社長のみならず、従業員もおしなべてやる気がない会社です。

そういう会社と有力な取引先が契約を結びたいと思うでしょうか? そういう会社に有能な社員が応募してくるでしょうか? そういう会社が「強い」会社になれるでしょうか?

ご自分の会社をそうしないためには、常に自分自身に問い続けてください。事業に意欲があるかないかは、たったひとつの質問で判断することができます。「会社を、どうしたいのか」-- この質問に即答できない社長は、そろそろ引退を考えたほうがよいかもしれません。仕事から離れて余生を楽しみたいと考えたとき、そもそも事業というものに意欲を失ってしまったとき、社長は引退すべきです。

常に変革を求められる時代にあって、「どうしたいか」「どうすべきか」という意志をもたない経営者の下では、その会社で働く従業員は気の毒です。

引退までにしなければならないこと

では、引退する日を決めるために経営者がしなければならないことには何があるのでしょうか。以下、3つの課題が挙げられると思います。

  1. 後継者問題
    引退するわけですから、まず後継者を決めなければなりません。社内に適任者がいればよいのですが、いない場合は社外の後継者も検討します。後継者の決めることがどうしてもできない場合は、会社を売却することを考えます。他社との合併、または子会社や関連会社として参加することを検討していきます。
  2. 株価問題
    後継者に会社を承継してもらうと決めた場合、中小企業では通常、自分がもっている株を後継者に移譲しなければなりません。後継者に任せたいと経営者が考える会社は高収益企業が多いですから、税務上の株価はかなり高くなっています。この場合、後継者が買える価格まで、株価を引き下げる必要があります。ただし、他社との合併などの場合は、できるだけ高く売りたいのが普通ですから、もちろん株価を引き下げる必要はありません。
  3. 自らの経済的な問題
    引退すると決めたからには、今の役員報酬がなくなる(後継者による経営が軌道に乗るまで、会長や顧問として残ることもありますが)ことになりますから、「蓄え」が必要になります。いくら必要かを算出し、その金額が、年金や退職金、株式の売却益などで賄えるか検討することになります。

1と3はどの経営者でも引退するかなり前から、何となくは考えている課題だと思いますが、問題は2です。具体的に2の問題を解決するためには、最低でも3年はかかると考え、専門家と一緒に準備をしていくことをお勧めいたします。

ダメな会社を見分けるのは意外と簡単。社屋がボロい、女性に華がない(肘当てや指サックをしたまま接客!)、そして出されたお茶が不味い。こういう会社は経営者も"終わり感"が漂っている

(イラスト ひのみえ)