個人でオンラインショップを開設することはさほど難しくはありません。ですが、購入者との間で起きたトラブルに対応するのは大変だと思います。今回はそんなトラブルの一例を紹介します。

購入者から「注文数を間違えてしまったので、返品できませんか?」と言われたら、どう対応すればよいのでしょうか。この場合、購入者が申込み内容を確認できる画面を設けているかどうかで、返品に応じるべきか否か対応が異なってきます。オンラインショップを開設する際は、注意すべき点といえるでしょう。(編集部)


【Q】CDをネットで購入した顧客から、「枚数が違う」とクレームが……

私は、数年前から自分のブログを通じて自作曲のCDを販売しているアーティストです。申込み手続は、画面上の申込みフォームに、購入するCDや枚数を入力してもらうという仕組みをとっています。先日、あるCDについて11枚の購入申込みがあったので、申込みどおり購入者にCDを11枚発送しました。ところが、後日購入者から、「本当は1枚購入するつもりだったのに、入力ミスで11枚と入力してしまった。10枚については返品したい」との連絡がありました。この場合、返品に応じなければならないのでしょうか。


【A】申込み内容の確認画面がなければ、返品に応じるべきでしょう。

申込みの際、確認画面などで、購入者の申込み内容が確認できるような措置を講じていないのであれば、ご質問のケースのような入力ミスによる申込みは、民法第95条に定める「錯誤」となり、購入者の意思表示は無効となります。この場合は、返品に応じなければなりません。


錯誤とは

今回のケースのように、表示から推測される意思(11枚の申込み)と真意(購入者は本当は1枚購入するつもりだった点)が一致せず、購入者本人がそれに気づかないことを「錯誤」といいます。

民法では、錯誤による意思表示は、(ア)錯誤が意思表示の重要な部分に関する錯誤(要素の錯誤)、であり、かつ、(イ)錯誤が重大な過失(重過失)によるものでなければ、無効とされます(民法第95条)。今回のようなCDの購入枚数は、契約の重要部分ですので、枚数を間違えたことは「要素の錯誤」といえるでしょう。

重過失

「要素の錯誤」といえるとして、次に重過失の有無が問題となります。例えば、実際に店舗で手にとって商品を買う場合や、自ら申込み用紙に購入CDと枚数を記入して商品を買う場合には、1個買うつもりで11個買ってしまうという事態は、通常の注意をしていれば、まず起こらないのではないでしょうか。

このように、錯誤の内容が、通常の注意をすればまず起こらないといえるようなものであれば、「重過失あり」とされる可能性が高いといえるでしょう。

しかし、今回のケースのようなインターネット上の取引では、事業者側が設定した画面上の操作によって注文が行われるため、間違えてクリックしてしまったり、キーボードの入力ミスをしたりして、1個とすべきところを11個としてしまうことは珍しいことではありません。ではこの場合、店舗での取引と同様に、購入者は「重過失があるため錯誤を主張できない」ということになるのでしょうか。

「電子契約法」とは?

この問題が、2001年に施行された電子契約法(正式名称は「電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律」)により対処されることになりました。

この法律では、インターネットなどによる「電子消費者契約」については、(1)買うつもりがないのに間違えてクリックしてしまった場合(意図しない申込み)や、今回のケースのように、(2)注文個数を間違えた場合(意図と異なる内容の申込み)などには、重過失があったとしても、錯誤による無効の主張が認められるようになりました(電子契約法第3条)。

では、「電子消費者契約」といえるためには何が必要なのでしょうか。「電子消費者契約」(同法第2条第1項)といえるためには、電子メールやウェブなどの電子的な方法により締結された契約であることに加えて、以下の条件が必要となります(同法第2条第1項)。

  1. 消費者と事業者(個人事業者も含みます)の間で締結されたこと

  2. 消費者が電子計算機(内部にCPUを有している機器一般を指し、必ずしもパソコンに限られません)を用いて画面上の申込みフォームの入力により申込みが行われること

  3. 申込みが、事業者側が画面上に設定する手続に従って行われること

なお、3との関係で、事業者のウェブサイトの商品情報を参考にして、希望商品、個数などを記入した電子メールを消費者が自分で作成・送信して注文したような場合は、本法は適用されず、重過失があれば錯誤無効は主張できません。

今回のケースでは、相談者による自作曲のCD販売は事業といえますし、申込みも質問者のブログ上の申込みフォームによるとのことですから、「電子消費者契約」といえるでしょう。

「電子消費者契約」である場合、原則として、消費者は重過失があっても錯誤無効を主張できます。ただし、(a)消費者が申込みを行う前に、消費者の申込み内容などを確認する措置を事業者側が講じた場合、(b)消費者自らが確認措置が不要である旨の意思の表明をした場合、の2つの場合には、重過失があれば無効主張ができなくなります(同法第3条)。

上記(a)の「確認措置」とは、例えば、図1のように、自分が当該商品を購入するということを確認できる画面を表示することや、申込み前に申込み内容を確認・訂正する機会を与える画面を表示することなどが考えられます。

図1 「確認措置」と認められると思われる例(「電子商取引及び情報財取引等に関する準則」(経済産業省、平成20年8月)81頁より引用)

また、(b)については、消費者からの積極的な表明が必要となりますので、画面上に、単に「確認措置は不要であることに同意します」とだけ表示していたり、確認措置が不要であることの「同意」ボタンをクリックしないと購入できないような場合は、(b)に該当しません。

「確認措置」をしてない場合は…

ご質問のケースでは、上記(b)のような表明はされていないようですので、(a)の確認措置の有無が問題となります。具体的には、申込みの際、図1のような確認画面が表示されるような仕組みになっていれば、確認措置が講じられたといえるでしょう。

このような確認措置が講じられていなければ、ご質問のケースの注文は錯誤により無効となります(厳密にいえば、購入者は11個のうち1個は購入する意思があるようですから、注文枚数のうち10枚の注文について無効となります)。

逆に、このような確認措置が講じられていたにもかかわらず、11枚注文されたのであれば、購入者は、重過失が認められる限度で無効を主張できません

なお、今回ご紹介した確認措置を講じておかないと、特定商取引法第14条が禁止する「顧客の意に反して売買契約の申込みをさせようとする行為」に当たる恐れもありますので、注意が必要です。

(北澤一樹/英知法律事務所)

弁護士法人 英知法律事務所

情報ネットワーク、情報セキュリティ、内部統制など新しい分野の法律問題に関するエキスパートとして、会社法、損害賠償法など伝統的な法律分野との融合を目指し、企業法務に特化した業務を展開している弁護士法人。大阪の西天満と東京の神谷町に事務所を開設している。 同事務所のURLはこちら→ http://www.law.co.jp/