海戦をテーマとする戦争映画などを観ていると、魚雷はお約束のように登場する種類の武器である。日本語では魚雷という言い方が定着しているが、本来は魚型水雷の略である。英語だと torpedo という。

魚型と呼ぶぐらいだから(?)魚雷は自前で推進装置を持っている。その推進装置にもいろいろ種類があるのだが、「水中戦とIT」というテーマからは外れてしまうので、今回は割愛させていただく。

「水中戦とIT」というテーマに相応しいのは、魚雷のお尻についている推進装置よりも、むしろ魚雷の先端部についているシーカー・ヘッドである。

初めに登場した魚雷は誘導装置を持たず、発射前に設定した深度を保ちながら真っ直ぐ走るだけのものだった。実はこれが難しくて、駛走(「しそう」と読む)の際に深すぎたり浅すぎたりといった話はたくさんあったのだが、それはともかく。

それが第二次世界大戦の途中から、音響誘導魚雷が登場した。前回に述べたように、水中で実用的に使える探知・捕捉手段は音響だけである。だから必然的に、魚雷が目標を探知してそちらに舵を切ろうとすると、音響によるセンサーが必要になる。

魚雷の雷速は30~60ノット(1ノット=1.852km/h)もあるので、パッシブ・モードでは流体力学的ノイズに邪魔されて、正確に聴知できるかどうか怪しい可能性もある。そのため、自ら音波を発信するアクティブ・モードが基本となる。ただし場合によってはパッシブ・モードを使うこともあるし、アクティブ・モードとパッシブ・モードを使い分けることもある。

潜水艦を探知する水上戦闘艦などのソナーがデジタル音響処理を取り入れているのと同様に、魚雷のシーカー・ヘッドに組み込まれたソナーもデジタル音響処理を活用して、できるだけ精確に目標を捕捉できるようにしようと工夫するであろうことは想像に難くない。

といっても、小さな魚雷の中に押し込めるわけだから、ソナー本体をあまり大きくできないし、処理や誘導に使用するコンピュータも大きくできない。そこで潜水艦から発射する魚雷の中には、有線誘導、つまり艦の魚雷発射管と結ぶ細い電線を延々と引っ張りながら駛走する魚雷もある。すると、魚雷のソナーが捕捉したデータを艦に送り返して、そちらでデータを処理して、進むべき針路を魚雷に指示する、なんていうことが可能になる。

魚雷の接近を探知したら…

一方、その魚雷を撃たれた側はどうするか。

昔みたいな直進だけの魚雷であれば、その進路上にいなければ、まず命中はしない。ところが音響誘導魚雷になると、魚雷のシーカー・ヘッドに内蔵したソナーが自艦を捕捉している限り、命中する可能性がついて回る。

といって、操艦で回避したり、速度を上げて引き離したりというのも難しい。魚雷を避けるように操艦しても、魚雷のシーカー・ヘッドに内蔵したソナーが自艦を捕捉している限り、魚雷は自艦の方に向かってやってくる。速度を上げたとしても、普通はどう見ても魚雷の方が速いから追いつかれてしまう。

そこで、魚雷のシーカー・ヘッドをだまくらかす(ソフトキル)、あるいは接近してくる魚雷そのものを物理的に破壊する(ハードキル)という考えに行き着く。

幸い、魚雷は高速で駛走しているものだから、音は出ている。それにシーカー・ヘッドをアクティブ・モードで動作させていれば、シーカー・ヘッドのソナーも探信用の音波を出している。そういった音を聴知すれば、魚雷が接近しているかどうか、接近しているとしたらどちらから来ているか、といったことの見当はつく。

ハードキルとは要するに、接近する魚雷を迎撃用の魚雷で破壊するということだ。昔の子供向けアニメでは「アンチ・ミサイル」というミサイル迎撃用のミサイルが頻出したが、考え方は同じである。迎撃用の小型魚雷やミサイルを用意して、接近する魚雷の方に向けて撃ち込む。後はシーカー・ヘッドで魚雷を捕捉して、そちらに向けて駛走・破壊する。

(余談だが、ミサイルとは要するに空飛ぶ物体で飛行機と同じようなものだから、現実には「ミサイル迎撃用に特化したミサイル」というものはあまりない。対空ミサイルがミサイルの要撃も兼用するのが普通である。例外は弾道ミサイルぐらいか)

ソフトキルこそITっぽい!?

ではソフトキルとは何か。これにも複数の考え方がある。

まず、魚雷のシーカー・ヘッドが内蔵するソナーを妨害する方法がある。分かりやすいところでは、大音響の贋音波を発してわあわあ騒ぎ立てて、本来魚雷が聴知したいと思っているシグナルを聞き取れなくしてしまう方法が考えられる。分かりやすいが、いささか力任せで運次第のところがある。

もうひとつは、ソナーに贋目標を与えて、明後日の方向に行ってしまえ、という方法である。この方法でもやはり、相手が騙されてくれないと仕事にならない。

たとえばアクティブ・ソナーを妨害するのであれば、まず魚雷のソナーが発信した音波を聴知・分析する。これは、周波数や変調方式などの特性を調べるために必要な作業だ。本物と同じ特性を持つ音波を発信しなければ、相手は騙されてくれない。

さらに、そうやって用意した贋反射波を、本物の反射波とは違ったタイミングで発信しなければならない。たとえば、本物の反射波より早いタイミングで返って行くようなタイミングで送信すれば、相手の魚雷はターゲットが実際より近くにいると判断する(かもしれない)。

ということは、魚雷のソナー音波を解析するだけでなく、贋反射波を発信するタイミングも計算してやらなければならないということである。どちらにしても人力で対応するには限度がある話なので、コンピュータが活躍することになる。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。