前回は射表とジャイロ・コンピューティング・サイトの話までで終わってしまった。なかなか「軍用機とIT」らしい話題にたどり着かなくて申し訳ない。というわけで、今回はその続きである。

測距レーダー

前回に取り上げたジャイロ・コンピューティング・サイトは、目標までの距離を知るのに「事前に翼幅をセット」「敵機の翼幅に合わせて照準環のサイズを変える」という面倒な操作を必要とした。

前回にも書いたように、事前の選択を間違えて、目の前にいるのがメッサーシュミットBf109戦闘機なのに、ユンカースJu88爆撃機(Bf109よりだいぶでかい)の翼幅をセットしたまま交戦すれば、いくら必死になって照準環のサイズ合わせをやっても、正しい距離が出ないので計算結果も間違いになり、撃った弾は当たらない。

そこで登場したのが測距レーダー。前方向きに設置したレーダーで、捕捉した敵機までの距離を測ってやろうというわけだ。もちろん、連続的に追い続けるから、距離変化率も把握できる。

そのデータを射撃管制装置にインプットしてやれば、「事前に翼幅をセット」「敵機の翼幅に合わせて照準環のサイズを変える」なんていう方法よりも確実かつ精確に、目標までの距離を把握できる。その分だけ、命中弾を得られる可能性も高くなる。

初期のジェット戦闘機では、この測距レーダーを当初から、あるいは途中から装備したものがけっこうあった。まだ空対空兵装といえば機関砲が多用されていた時代だが、一方で、ジェット化によって速度は上がっている。それだけ命中弾を得るのは難しくなるから、それをなんとかするには測距レーダーがある方が好ましい。

艦砲の射撃

自分も相手も動いている中で撃ち合うのは、なにも飛行機に限らない。艦対艦射撃もそうだ。

ただしこちらは、距離を計測する機材がちゃんとあった。いわゆる測距儀(レンジファインダー)である。もちろん光学式だが、測距儀を使って敵艦を追い続けることで、距離を連続的に把握できる。方位は測距儀の向きから得られる。

「そんなものがどこに付いていたの?」と疑問に思ったら、呉市の「大和ミュージアム」に行って、そこに展示してある「大和」の模型を見るのがお薦めだ。艦橋上部から左右に棒のようなものが突き出して、その上にレーダーの網目状アンテナが載っている。

この、左右に突出しているのが測距儀で、基線長、つまり左右に配置した光学系の距離は15メートルもあった。基本的には、基線長が長いほど精度が高い。そして測距儀の光学系全体が旋回できるので、これを使って敵艦を追い、測距を行い続ければ、敵艦までの距離と角度は分かる。

そして自艦の針路や速度は自分のことだからちゃんと分かる。その他諸々のデータも含めて、計算に必要なデータを得たら、それを射撃盤という名の機械式計算機に算入する。これで、どこに狙いをつければよいかを計算できる。

射撃盤が出したデータに基づき、艦橋構造物の最上部にある方位盤を使って敵艦に狙いをつける。それを受けて個々の砲が旋回するとともに仰角をかけて、狙いをつける。そして射手が引き金を引くと、全部の砲塔から一斉に弾が出る… ハズである。

わざわざ方位盤を介するのは、複数の砲塔を集中制御するため。個々の砲が個別に狙いをつけることを砲側照準というが、それよりも、射撃盤と方位盤を組み合わせて集中制御する方が確実性が高いし、道具立てが整っている。そして敵艦を包み込むようにして射弾を送り込み、その中から一発でも多くの弾が当たればOKというわけ。

その計算をコンピュータ化できるようになったのは戦後の話で、第二次世界大戦中までは前述したように、射撃盤は歯車式計算機だ。計算ロジックを変えようとすれば射撃盤をまるごと作り直す必要があるし、機械だから使っているうちに摩耗してガタが出る。当然、それでは計算結果も怪しくなる。

機械式計算機より電子計算機

「世界初のコンピュータ」として知られるENIACが弾道計算用に開発されたことはよく知られているが、それは、弾道計算を精確・迅速にやりたいというニーズがそれだけあったということの証明でもある。

艦砲を引き合いに出したが、陸上の砲戦でもやはり、緻密で複雑な計算を必要とするのは同じこと。相手が動いていない代わりに、たとえばトーチカを狙い撃ちするような高精度の射撃が求められることもあるので、これはこれで難しい(トーチカは軍艦よりずっと小さい)。

扱うパラメータが多く、しかもそれが時々刻々と変化していく中で、多数のパラメータを取り込んで、砲を指向すべき方位と砲の仰角を算定し続ける作業が必要になる。しかも精確さに加えて耐久性も問題になる。そうなると、機械式計算機より電子計算機の方が有利なのは論を待たない。あとは、それを実現できるかどうかという話になる。

ちなみに、弾道計算用のENIACと並んで、もうひとつ「コンピュータの始祖」と呼ばれる電子式の計算機械が登場したのが暗号解読の分野だった。こちらは数学を駆使する、計算処理の権化みたいな業界だから、やはり手作業や機械式の計算機では大変で、電子式の計算機でもって、より迅速に処理をしたいというニーズがあったわけだ。

実際、イギリスで「コロサス」が出現する前は、機械式の鍵探索装置「ボンベ」が使われていたが、役に立つものの、故障の探求やメンテナンスはけっこう大変だったらしい。ちなみに、「ボンベ」の現物はアメリカ・ワシントンDCの郊外、フォート・ミードの米国家安全保障局(NSA : National Security Agency)本部に隣接して設けられている「国立暗号博物館」に行くと見ることができる。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。