網膜の変性疾患で盲目や視力を失った方の視力を回復するタンパク質ベースの人工網膜を開発している企業が存在する。米国のLambdaVisionだ。

彼らは、国際宇宙ステーション(ISS)の微小重力下で人工網膜製造の実証に挑戦している。なぜ、LambdaVisionは、人工網膜のために宇宙を目指しているのか。今回は、そんな話題について紹介したいと思う。

LambdaVisionの人工網膜とは?

LambdaVisionは、米国のバイオテクノロジーのスタートアップ。

網膜変性疾患に悩む多くの患者を救うべく、人工網膜の開発を手がけている。では、網膜変性疾患とはなんだろうか。

LambdaVisionが対象としている網膜変性疾患は、網膜色素変性症と加齢性黄斑変性症の2種類。専門的な医学用語なので、筆者も詳しいことは不明だが、網膜色素変性症は、英語表記で、Retinitis pigmentosa(RP)で、目の後ろを覆う光感受性組織である網膜の光受容細胞が破壊されたり喪失されたりすることにより、進行性の視力喪失を引き起こす疾患のこと。

実に米国では約10万人、世界では約150万人が罹患しているという。

そして、加齢性黄斑変性症とは、英語表記では、Age-related macular degeneration(AMD)であり、網膜の一部である黄斑が損傷し、網膜の中心部が劣化して視力が低下したときに発生する疾患。55歳以上の個人の不可逆的な視力喪失と法的な失明の主な原因であると言われており、世界中で3,000万人以上が罹患している。 この網膜色素変性症と加齢性黄斑変性症は、網膜の光受容細胞(桿体細胞と錐体細胞を含む)が喪失することによって起こる。

  • 断面図

    ヒトの網膜の断面図(出典:LambdaVision)

そのため、LambdaVisiomでは、上記の2つの疾患で喪失された網膜の光受容細胞を人工網膜で置き換えることを想定している。

人工網膜は、バクテリオロドプシン(Bacteriorhodopsin)という光活性タンパク質をベースとしている。バクテリオロドプシンとは、塩性の強い湿地に見られる微生物である「halobacteriumsalinarum」という微生物によって合成されるという。しかもこの微生物は、地球上最古の生物の1つというから驚く。

バクテリオロドプシンは、複数の層状の構造となっていて、目に光が入るとバクテリオロドプシンを活性化させて、バクテリオロドプシンは膜を横切って水素イオンを出し、網膜の双極細胞と神経節細胞を刺激することで、症状が改善されるのだ。

  • 人工網膜

    LambdaVisionの人工網膜(出典:LambdaVision)

LambdaVisionの人工網膜を宇宙へと運ぶ狙いとは?

LambdaVisionの人工網膜は、2021年12月21日、SpaceXのロケット「Falcon9」によってISSに向けて打ち上げられた。

では、LambdaVisionは、なぜ、人工網膜をISSへと打ち上げたのだろうか。

実は、人工網膜が機能するためには、バクテリオロドプシンの分子構造が各層内で正確に並んで製造される必要があるという。そして、微小重力環境下ではバクテリオロドプシンの製造を正確に、容易に製造できる可能性があるというのだ。この実証は、米国Space Tangoの研究開発を行うためのプラットフォーム「CubeLab」で実施されるという。

  • CubeLabs

    ISSへ輸送されたCubeLabs(出典:LambdaVision)

いかがだっただろうか。もし宇宙の微小重力環境下において、人工網膜がうまく製造できたら、宇宙が製造拠点となるかもしれない。

米国食品医薬品局FDAへの承認申請もこれからで、臨床試験を開始するために必要な前臨床データの収集も現在進行中とのことだ。

LambdaVisionの人工網膜が、網膜変性疾患に悩む多くの患者誰でも救うことができる起爆剤となってほしい、そう願ってやまない。