2023年2月24日、コロンビア大学は、長期記憶を定着させる際に重要な役割を果たす脳の役割について、新たな発見があったと発表した。では、この長期記憶の定着で起こっている脳の働きの新しい発見とはどのようなものだろうか。今回は、こんな話題について紹介したいと思う。

  • 長期記憶を定着させる際の脳の働きについて、新たな発見が得られたという。そのメカニズムの解明は、医療分野などへさまざまなメリットを与えうるとのことだ

    長期記憶を定着させる際の脳の働きについて、新たな発見が得られたという。そのメカニズムの解明は、医療分野などへさまざまなメリットを与えうるとのことだ

長期記憶が定着するときに脳内で起こっていること

ある記憶について、同一もしくは類似の経験をすることによって、その記憶が再度活性化され、脳神経が新たに強く接続されることで、記憶がより定着することはご存知だろうか。受験勉強などで「復習が大事」と言われるのは、こういった理由からだ。

今述べたのは記憶の定着についてだが、新たな記憶を作るには、脳の電気的活動である脳波の振動が寄与していることが知られている。

そこでコロンビア大学のJennifer Gelinas博士は、新規記憶とその定着に伴って起こる脳の振動の相互作用を解明するため、ラットと迷路を使った実験を実施。ラットが記憶している報酬としての水と、まったく新しい未知のものに遭遇したときの、ラットの脳波の振動を測定した。

その結果、長期記憶の固定には2つの脳領域(海馬と頭頂葉皮質)間の脳波振動の調整が重要な役割を果たしていて、初期記憶の作成に関与する脳振動とは異なるということを発見したのだという。

  • 海馬と頭頂葉皮質の間で行われる脳振動の調整のイメージ

    海馬と頭頂葉皮質の間で行われる脳振動の調整のイメージ(出典:コロンビア大学)

もう少し具体的にいうと、長期記憶の定着・強化には、海馬の高周波リップルと頭頂葉皮質の高周波リップルとの間で調整された相互作用が必要だったとのこと。そして新しい記憶の作成には、海馬の高周波リップルと頭頂葉皮質の低周波振動が必要だということがわかったのだという。

実験で測定したラットの脳波振動は、新しいものを記憶し学習している場合と、すでに知っている古い記憶を強化しようとしている場合とで、自明ともいえる違いが見られたとしている。

なお、この研究成果は科学誌『PNAS』にも掲載されている。

いかがだっただろうか。この研究成果のメリットとして、長期記憶の定着メカニズムをより詳細に理解することができれば、認知症などの治療としての長期記憶の保持や、PTSD(心的外傷後ストレス障害)の療法としての不要な記憶の抑制など、新しい治療法に役立てられる可能性があることだ。とても興味深い。