日本ヒューレット・パッカード 小出伸一社長

日本ヒューレット・パッカードが、2009年8月に、EDSジャパンを統合してからちょうど1年を経過した。果たしてその統合成果はどの程度発揮されたのだろうか。

振り返れば、この統合は、米国においては大きなインパクトをもって進められたものだ。この統合によって、HPのグローバルの社員数は17万2,000人から、31万2,000人へとほぼ倍増。サービス事業の売上高は1兆6,600億円から、3兆8,700億円へと倍増以上となり、サービス事業の売上高構成比は16%から30%にまで一気に拡大した。ITサービス市場における世界シェアは7%の規模となり、IBMの10%に次いで、世界第2位の規模になったからだ。

当初は、「EDS, an HP company」としていた組織を、「HP Enterprise Services」に組織名称を変更。日産自動車の米国現地子会社である北米日産会社と、運用コストを削減しながら新製品開発およびビジネス拡大を実現するための技術およびサービスを複数年の契約したのも、EDSとの統合効果によるものが大きい。

日本でも、EDS担当をES担当へ、EDS営業統括本部をエンタープライズサービス営業統括本部へ、EDS事業戦略本部をエンタープライズサービス事業戦略本部などへそれぞれ名称変更し、名実ともに体制を統合。すでに、SAP製品を中心としたアプリケーション環境のアウトソーシングサービス「SAPアプリケーションマネジメントサービス」の強化を発表し、高品質なタスクの実行を保証するメソドロジー「EDS Designed for Run」など、EDSが長年培ってきたノウハウを活用したアプリケーションマネジメントサービスの提供を開始するなどの動きがみられている。

「従来持っていた優れたハードウェア、ソフトウェア、ITインフラの構築サービスに、EDSが持つサービスポートフォリオが加わることで、これまで以上にお客様のビジネスの成功に貢献できるソリューションを提供する体制が整った」と、日本ヒューレット・パッカードの小出伸一社長は語る。

もともと日本での統合成果はあまりないのではと見られていた。というのも、日本法人であったEDSジャパンから数百人規模の社員が移籍したものの、日本では決して多くの実績を持っていたわけではなったからだ。

しかし、すでに日本でも大規模アウトソーシングの実績などが出ているという。日本においては、2009年5月から開始したAMod(Applications Modernization Services)により、新たなサービスを提供。小出社長も、「日本でもコンスタントに実績が出はじめている」とする。

さらに、小出社長はこうも語る。

「私が根本的に思っているのは、EDSジャパンを統合したという考え方ではなく、グローバルのEDSを統合したというもの。EDSには、メインフレームからオープン環境への移行ソリューションや、航空会社などの大規模アウトソーシングの実績、マルチベンダ環境での運用ノウハウなど、ヒューレット・パッカードが持たない数多くの実績とノウハウが蓄積されている。たとえば、メインフレームが多い日本というユニークな市場において、EDSのソリューションをどう生かすか。こうした点で、EDSの得意な分野を、日本の市場に生かすことができる」

今後は、EDSがグローバルに持つケイパビリティ、メソドロジーを日本の顧客にどう活用してもらえるかを考えていくと小出社長は語る。

一方で、ヒューレット・パッカードは、今年7月にスリーコムの統合を完了した。これにより、HPが持つProCurveの製品群に、スリーコム(H3C)製品が加わることになり、データセンター向けネットワークソリューションから、スイッチや運用管理ソフトまでをカバーできるようになる。

「ProCurveの製品ポートフォリオでは、歯抜けだった部分をスリーコム製品が加わることでバーできる」(小出社長)として、シスコシステムズと同規模の製品ポートフォリオの実現が、今後の成長につながると自信をみせる。シスコシステムズの日本法人社長には、小出社長と同じ日本IBM出身の平井康文氏が就任すると発表されたばかり。ネットワーク分野における両社長の腕比べも注目されるところだ。

これまでヒューレット・パッカードは、コンパックやDECとの統合を経て、EDSやスリーコムを統合。さらに数多くの企業を統合してきた経緯がある。小出社長は、「ヒューレット・パッカードの社員が持つDNAは、『アダプティブ』。変化を吸収し、さまざまな文化を持つ社員が混在できる環境がある」とする。これだけの規模になっても統合を苦にしない、極めて珍しい会社である。