セカンドライフ以来の盛り上がり

話題沸騰中の「Twitter」。新聞・雑誌が特集を組み、関連書籍が続々登場し、4月からは上野樹里と瑛太がW主演の連続ドラマでも、主要人物たちがTwitterを通して出会います。

Twitterとはブログのようなソーシャルメディアで、1回140文字という制限が気楽な投稿を誘い、「フォロー」で注目する人のツイート(投稿、つぶやき)を追いかけ、「フォロワー」が自分のツイートを追いかけてくれています。「フォロー」と 「フォロワー」は面識を問わず、ツイートへのリプライ(返信)やリツイート(引用や転載)も誰に対してもでき、ここから広がる縁もあります。

クライアントから寄せられる「Twitterに取り組むべきか」という質問に、私は「やりたければどうぞ」と回答しています。質問には焦りの感情が滲んでいるので、落ち着かせる意味もこめて突き放しています。というのも、ネットでは昨年来盛り上がっていますが、私の非IT業界周辺調査での知名度は限りなくゼロですし、何よりTwitterは難しく、例の「0.2」を誘発しかねないからです。

今回は「Twitter0.2」が生まれないようにという願いを込めての特別編です。

Twitterへの投稿が仕事になる人々

ソフトバンクの孫正義さんは、Twitterで寄せられたサービスの提案に迅速にこたえるなど、ビジネスとしてTwitterを活用しています。また、楽天の三木谷浩史さんも政府の成長戦略策定会議で某大臣(と書くと「私は某という名前ではない」と屁理屈を言いそうな人)が居眠りをしていたとツイートしたことが話題になっています。

両者はともに、Twitterの利用を全社員にも呼びかけています。ソフトバンクは2万人、楽天は6千人の社員を抱える巨大企業であり、拡大した企業には部署間の対立による「セクショナリズム」という弊害が生まれます。

Twitterを経由して社長の考えをリアルタイムで末端社員にまで伝える「究極のトップダウン」により、セクショナリズムを破壊する狙いがあるのではないでしょうか? オーナー型経営とトップダウンの相性は抜群です。

ここで、「Twitterは仕事の役に立つじゃないか」と考えるのは0.2への近道です。両社はともにIT関連企業で、社員がネットに常時接続できる職場環境だから効果が期待できるのです。また、Twitterと相性がよいとされる携帯電話「iPhone」は、国内では孫さんの率いるソフトバンクが代理販売しており、Twitterの盛り上がりにより利益の増加が期待できます。

ふたを開けてみればセレブの追っかけが大半という事実

Twitterは社外への情報発信にも使えます。孫正義さんは16万人(3月10日現在、以下同じ)、三木谷さんは6万人のフォロワーがおり、Twitterを一種のメディア(媒体)として利用することも可能です。ただし、これも彼らが著名人であることを忘れてはなりません。

Twitterの中では一般人も著名人も基本的には同じ立場であり、フォローはどちらもクリック1回で完了です。さて、面識のない隣町のAさんと、タレントのBさんのどちらをフォローしたいと思うでしょうか? ファン心理とのぞき見趣味のどちらが理由かはわかりませんが、"お騒がせセレブ"として有名なパリス・ヒルトンのフォロワーは155万人。Twitterは別名「セレブの追っかけ」と呼ばれます。

一般人でも多くのフォロワーを集めることはできます。しかし、そのためにはオンラインとオフラインの双方でこまめな活動が必要です。活動とは、絶え間なくツイートやリツイートを繰り返し、オフ会に足繁く通い、著名人のツイートを四六時中チェックして絡むことです。しかし、この不況下に「Twitterに張り付く社長」には0.2の影が忍び寄ります。

必要な情報を取捨選択できるインテリジェンスが必須

ある全国新聞の記者は「原稿がまとまらない」と数秒単位でツイートを繰り返し、フォロワーから寄せられる励ましに感謝のツイートを返します。「誰かとつながる」のはTwitterの最大の魅力ですが、同時につながりが安易な現実逃避を実現します。この記者の場合、部屋の片付けをしながらおもちゃ箱をひっくり返しているようなもので、Twitterが作業効率を低下させていることに気がついていない0.2です。

情報収集ツールとしての利用にも注意が必要です。Twitterでジャーナリストや政治家をフォローすると、報道されない「事実」がツイートされますが、その根拠は140文字という制限のためか示されることは稀です。それらは思い込みや事実誤認の可能性もあります。

時には巨大掲示板「2ちゃんねる」で見られるような記述もあり、それらから自分に必要な情報を取捨選択する能力がTwitterを利用するうえで不可欠であることが、私が「Twitterを難しい」とする理由の1つです。

著名人だからと彼らのツイートを盲信すれば、0.2はもう目の前です。ちなみに、私見による情報の偏りを「ソーシャルフィルター」と呼びます。

難しい理由はほかにもあります。Twitterは「多層並列コミュニケーション」の世界であるため、同時発生、同時進行するツイートすべてに対応することは困難なことから、「返信を求めず、返信しなくてもよい」というカルチャーがあります。これに、日本人としては違和感を覚えることでしょう。また使いこなすには過剰なまでの"自意識の装着"も必須です。

私は冒頭の相談者にこう続けます。

「難しいことを覚悟の上のチャレンジなら、止めはしませんよ」

Twitterを面白いと思うには標準以上のネットリテラシー が必要です。このことはほぼすべての「オススメ本」で数行程度だけ触れられています。

エンタープライズ1.0への箴言


「Twitterはシンプルゆえに難しいツール」

宮脇 睦(みやわき あつし)
プログラマーを振り出しにさまざまな社会経験を積んだ後、有限会社アズモードを設立。営業の現場を知る強みを生かし、Webとリアルビジネスの融合を目指した「営業戦略付きホームページ」を提供している。コラムニストとして精力的に活動し、「Web担当者Forum(インプレスビジネスメディア)」、「通販支援ブログ(スクロール360)」でも連載しているほか、漫画原作も手がける。著書に『Web2.0が殺すもの』『楽天市場がなくなる日』(ともに洋泉社)がある。

筆者ブログ「マスコミでは言えないこと<イザ!支社>」、ツイッターのアカウントは

@miyawakiatsushi