三井倉庫は全社員へのiPhone支給を契機に2010年10月初旬よりGoogle Appsの正式稼働をスタートさせた。それまで同社は長らくグループウェアとして「Lotus Notes 7.0」を利用してきたが、慣れ親しんだシステムを切り換えてまでリプレースに踏み切った理由は、一体どのようなものだったのだろうか。

きっかけはiPhoneとのリアルタイム同期

1909年の創業以来、物流を通じて社会に貢献できる「最適物流創造企業」として事業活動を続けてきた三井倉庫。国内外で陸海空一貫した高品質・高付加価値の物流サービスを提供するほか、物流ノウハウを生かした情報サービス、3PL(3rd party logistics)事業者としてSCM支援や治験薬物流なども手がけている。

約1世紀の長きにわたり物流を支えてきた同社が、情報システムのリプレースを考えたきっかけはiPhoneの全社導入だった。2010年3月に社内でiPhoneを導入する話が持ち上がったのだが、当時使用していたLotus Notes 7.0は連携機能を備えているものの、コンテンツをiPhone用に変換する第三者のサービスではメールやカレンダーをリアルタイムに同期できないという問題が出てきたのだ。

同社がiPhoneを全社員に支給する目的は、あくまでも「社員にiPhoneを支給することで、いつでもどこでもコミュニケーションがとれる体制を構築したい」という部分にあった。しかし、当時の環境では、この目的を十分に満たすことは難しい。Notesのバージョンアップをすればリアルタイム同期が可能だが、どうしてもライセンスなど運用コスト面の負担が大きくなってしまう。

経営管理部門 LIT推進部長の小田中修氏は「こうした事情もあり、社内ではiPhone連携機能を持つクラウド型のサービスへ移行しようという意見が出るようになりました。アプリケーション関連がNotesから外れていたのも、移行を考えるうえで幸いな点でしたね」と、情報システムの改革に至った背景を語ってくれた。

各種ツールによりスムーズな移行を実現

Notesからのリプレースの候補として挙がった製品は、パブリッククラウドで展開する日系企業のサービス、海外企業のグローバルサービス、そして今回導入したGoogle Appsの3種類だった。

小田中氏は「機能やコスト、実績などを比較した結果、満場一致でGoogle Appsに決定しました。Googleが提供しているツールのおかげでメールやカレンダーの移行は特にトラブルなく進みましたし、掲示板はGoogleサイト、スプレッドシートのスクリプト、プライベートガジェットといったGoogleの各機能を組み合わせて対応しました」と語る。

セキュリティについては事前にGoogleからの説明を受けており、経営者層も「特に心配なし」と判断したそうだ。

同社では2010年7月初旬にアカウントを購入し、移行の予備段階として9月よりメールをGoogle Appsの環境へ転送。そして10月初旬より正式稼働を開始した。購入したアカウント数はグループ企業も含めて2,000弱。導入の事前準備として数ページ単位の簡単なマニュアルを作成したのみで、特に講習や勉強会を実施しなくても混乱は起こらなかったという。

今後は海外やグループ会社との情報共有も

こうして、経営者・現場レベルの双方でGoogle Appsへのスムーズな移行を実現した三井倉庫。反響として一番多かった点について、LIT推進部 情報システム課 宮崎将氏は「それまでのシステムでは、サーバ負荷の都合上、メールの添付ファイルに約2MBの容量制限をかけていました。Google Appsへ移行することでこの制限がなくなり、社員からは効率的にメールの送受信が行えるようになったと好評です」と語る。画像データなど大容量のファイルを扱う際、これは大きな改善ポイントと言えるだろう。

現場の社員たちだけでなく、情報管理部門もGoogle Apps導入の恩恵を受けている。「Google Appsのおかげで、万が一のトラブルでメールが停止するというリスクから解放されたほか、会社全体として見れば、運用業務の大幅な効率化につながっています」と、小田中氏は管理面でのメリットについて語る。

Google Appsを導入するきっかけとなったiPhoneに関しては、「6月までに全社員に行き渡る予定です。将来的には固定電話の廃止も視野に入れて取り組んでいます」と小田中氏。さらに、「せっかくのクラウドサービスなので、積極的に海外駐在員やグループ会社との情報共有を進めていきたいですね」と、Google Apps活用に関する今後の期待と展望を語ってくれた。

こうして三井倉庫では、Google AppsとiPhoneの連携により円滑なコミュニケーションがとれる体制を実現した。現代のビジネスはITのスピードが業績を大きく左右するようになってきている。リアルタイムな情報共有に課題を抱えている企業にとって、Google Appsの導入は有意義な選択肢となるだろう。