ゴールデンサークルってご存じですか?これは、Why → How → Whatの順番で物事を説明していくと、効果的に伝えることができるという考え方です。"Why"(なぜ)という結論から始めることで意図を明確に伝えやすい、または、差別化のポイントを打ち出しやすいという特徴があります。しかし、日本人の多くはWhat → How → Whyの順番で、"なぜ"を後ろにもってくることが圧倒的に多いです。"なぜ"がメッセージにないことも多いです。それはWhy?

企業サイトのメッセージにもゴールデンサークルが

ゴールデンサークルの要素を見てみます。Whyは目的や理由を明確化します。Howはその目的をどのように実現するか、その理由は何かです。Whatは具体的にどのような機能やサービスで実現できるのか、何の活動をするかです。

このような日本と欧米のアプローチの違いが顕著に表れているのが、IT企業のWebサイトです。欧米企業の多くのWebサイトはWhyがあふれており、「なぜその企業なのか」「なぜその製品か」「なぜ今導入すべきなのか」を訴求しています。Whyの嵐です。

一方、日本企業のWebサイトを見ると、「~を提供します」や「~を実現します」といったWhatが中心のコミュニケーションになっています。これでは差別化のポイントが伝わらないので、激しい競争に巻き込まれてしまう可能性があります。これは、プレゼンテーションやカタログの作り方にも同じことが言え、日本人のプレゼンテーションはWhatを頑張って説明する退屈なものが多いです。面白いことに、グローバル企業の日本人社員も多くがWhatで説明します。ですから、これは日本で教育を受けた人の特徴かと思います。

別の問題として、What → How → Whyで説明すると、結論が最後に来ます。そのような順番のメッセージは印象に残らないですし、世の中には最後まで読むほど時間に余裕のある人は少ないので、せっかくの想いが伝わらないのです。忙しい人向けには、結論から入り、その理由を説明する必要があるということです。

どうして、日本人は"Wyh"から始めるのが苦手なのか?

書籍『戦略的ビジネス文書術』(中央経済社 著者:野上英文)を読むと、その原因の一つが分かります。書籍の中で、日本の国語教育は原稿用紙のマス目を埋めることがゴールになっていると、述べられています。マス目が埋まれば、「よくできました」となります。

また、筆者の考えでは、文書を書く教育のベースが起承転結になっていることも原因かと思います。起承転結は小説を書くにはよいのでしょうが、日本人はビジネスに必要な結論が最初に来るような文章を書く教育を受けていないのです。そして、そもそも説明する技術の教育も受けていません(今は分かりませんが)。

欧米では、結論を最初に持ってくる教育が徹底されています。筆者はグローバルの企業で長年働いてきましたが、「話す」「書く」のすべてでまずは結論、そして、その理由を説明することが徹底されているように感じます。

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"Why"から始めるトレーニング

でも、この問題は意識してメッセージを作れば、簡単に解決できます。筆者がお勧めなのは、例えば文書であれば、Microsoft Wordなどで「Why」「How」「What」に対して空白の枠を準備して、そこを埋めていくことです。

HowとWhatは箇条書きからスタートして、必要に応じてつなげていきます。Whyは1文ないし2文で表現することをお勧めします。それくらいの簡潔さが、伝えるためには丁度よいのです。コピーライティングの能力があればさらによいですね。結論は、読まれるというよりも目から入ってくるくらいのつもりで作ってみてください。プレゼンテーションも同様にWhy、How、Whatの順番を意識してアジェンダを作り、その後に詳細に作業をしていけばよいのです。

かくいう筆者も、以前はWhat人間でした。しかし、英会話の勉強をしているときに、技術論文を英語で発表する方法を知って、目覚めました。英語の論文も発表も結論から入りますからね。それに、ゴールデンサークルで考えると、伝えたいことを構造化しやすく、メッセージを構成しやすいのです。それなりの努力もあり、今では筆者もWhy人間です。

ゴールデンサークルで競合との有意性を打ち出す

Whyを追求するもう1つの重要な理由は、ここまで何度も述べているように。企業・製品・サービスの差別化にも関わるからです。メッセージによっては、Why = 差別化ポイントになるのです。この差別化を作ることも、結構日本人の不得意とするところだと感じます。差別化は英語では「differentiation」といい、ラテン語の「differentia(多様性、違い)」(difference を参照)から派生した中世ラテン語の「differentiare」の過去分詞である「differentiatus」に由来するとのことです。

ビジネスでの差別化とは、競合他社との違いです。要するに、他社にはない優位性です。差別化を作るためには、競合をSWOTなどで分析して、どこで優位に立てるかの戦略を決めて、実装していく必要があります。機能やサービスといった目に見えるものから、組織やプロセスといった外には見えないものまで、差別化はさまざまな領域で作ることができます。そして、それがブランド構築にもつながります。

Whyのメッセージは、ある意味、この差別化を伝えるものでもあります。さらに言いますと、外に差別化を伝えるためには、何かの証明が必要です。証明とは、お客様の声や外部の調査結果などです。それがないと、単なる言いっぱなしになってしまい伝わりません。

みなさんも、ゴールデンサークルを意識して文書やプレゼンテーションを作ってみてください。きっと、今まで以上に想いが伝わりますよ。そして、皆さまのキャリア上の差別化にもなるかもです。