前回、F-35ライトニングII用のエンジンを引き合いに出し、軍の装備調達における競争の創出について説明した。口先で「競争させろ」というのは簡単だが、実際に競争させるには、複数のメーカーが参入してくれないと成り立たない。「では、どうやって競争させるのか?」というのが今回のお題だ。

自国内に複数のメーカーがあれば理想的だが

かつては、それぞれの分野ごとに自国内に複数のメーカーがあり、当局が一声かければ、開発・製造におけるコンペティションが成立した。ところが、ウェポン・システムの高度化・高価格化が進んだことで、求められる企業体力の水準が上がり、複数のメーカーを維持できる国が減ってきた。

ヨーロッパの場合、大抵の分野で「1ヵ国につきメーカー1社」というところまで業界の再編と整理統合が進んでいる。なかにはイギリスのように、「どの分野でも出てくるのはBAEシステムズ社ばかり」なんて国まである。

自国だけで膨大な需要がある米国ですら、メーカーが1~2社に集約されてしまった分野が大半を占める。よしんば複数のメーカーがあったとしても、結局はそれらで仕事を分け合う形になっており、「違うのは誰が主契約社になるかという点だけで、実質的には護送船団方式」、なんてことも少なくない。

しかも、新規開発にかかる時間、その後の調達・運用期間のいずれも長期化していることから、競争で負けたのをきっかけに兵器開発から手を引いたり、同業他社に吸収されてしまったりということも起きる。

こうした事情があるため、現実問題として、継続的に複数のメーカーを維持するのは不可能に近い。しかも昨今では、財政事情が厳しくなり、国防支出の引き締め傾向が強まっている問題も加わっている。

海外のメーカー同士で競争させる

自国に防衛産業がない、あるいは発展途上という国では、必然的に他国からの輸入に頼ることになる。その場合、(政治的に問題のない範囲で)複数の国・複数のメーカーに声を掛けて競争させる形になるので、現時点で競争らしい競争が機能しているのは、このケースぐらいかも知れない。

しかも、市場のパイが限られている昨今では応札する側も必死だから、価格・性能・品質だけでなく、オフセットや技術移転など、さまざまなメリットを用意して受注確保に血道をあげることになる。ただ、なまじ自国に防衛産業を確立してしまった国では、自国で開発・製造するのが困難な案件でもなければ、この手は使いづらい。

自国のメーカーと海外のメーカーで競争させる

そこで考えられるのが、自国のメーカーと海外のメーカーを競争させる手だ。折から、欧州防衛庁(EDA:European Defence Agency)は加盟各国に対して、「自国の企業ばかりでなく、他国の企業も交えて競争させるように」という指針を示している。同じEDA加盟国同士で「相互乗り入れ」させて競争を創出しようというわけだ。

といっても、口で言うほど簡単な話ではない。感情や政治的配慮の部分で、自国の企業を優遇したいとは、誰しも考えるところ。もしも、競合する自国企業を袖にして外国メーカーからの輸入を決めれば、「産業基盤の維持や雇用の確保はどうなるんだ」といって政治問題となるのは確実だ。また、国の存立に関わる分野の問題だから、それを外国のメーカーと製品に依存してしまっていいのか、という議論もある。

EDAもその点には配慮しており、「国家にとって重要な特定の戦略的分野については、競争規定の対象外にする」としている。しかし、こういう例外措置を作れば、それを濫用される可能性が出てくるし、濫用を阻止するためにEDAや欧州委員会(EC : European Commission)が口出しせざるを得なくなる。

実際、ギリシャが潜水艦用のバッテリを調達した時、チェコがスペインのEADS-CASA社からC-295輸送機を調達した時に、「競争させなかったのは問題だ」としてお叱りを受けた。無論、当事者は「自国にとって戦略的に重要だから」と弁解するわけだが、それが受け入れられるかどうかは、また別の問題。

国営企業と民間企業の競争

変わったところでは、国営企業と民間企業の競争がある。こうした形の競合が存在する国としては、フランス、インド、イスラエルなどがある。例えば、防衛関連企業を国営でスタートさせたところに後から民間企業が参入すると、この形ができる。

ただし先発の利というか、どうしても先行する国営企業のほうが人材・設備・資本・実績などの面で有利な立場を占めてしまうことが多い。すると、意図的に国営企業と民間企業を競合させようとしても、民間企業が不利になる。運輸・通信などの分野でも往々にして見られる構図だ。

当然、後から参入する民間企業は対等な競争の実現を求めるし、競争原理を活用したい国防省もそれに乗ることがある。それに対し、後からライバルが増える形になる国営企業は「後発の民間企業に強制的にパイを分け与えるなんて怪しからん」と言い出す。

こうなるとインドのように、国営企業の労働組合が「民間企業に仕事を渡すな」といってストライキを打とうとする事態も起きるわけだ。