前回はグラスコックピットの基本についてまとめたが、もう登場してから30年ぐらいは経過しているデバイスだけに、現在では長足の進歩を遂げている。そこで今回は、「今時のグラスコックピット」の話と「戦闘機のグラスコックピット」の話を。

大画面化と液晶化

というと、まるでテレビ受像器の話みたいだが、違う。グラスコックピットの利点が認められて導入が進むにつれて、画面サイズの大型化が進んだのである。

画面の数を増やすよりも、1つの画面を大きくするほうが好ましい。なぜかと言えば、大きな画面を分割して使うことはできるが、小さな画面をいくつ集めても小さな画面の集合体であり、大きな画面と同じにはならないからだ。

ということで、ボーイング社が「国際航空宇宙展2016」に持ち込んだ、ボーイング787のコックピット・シミュレータがこれだ。787に限らず、他の旅客機も似たような配置になっている。

ボーイング787のコックピット・シミュレータ。計器盤や機能は実機と同じだが、モーション機能はない

ボーイング787の場合、12インチ×9インチ(304.8mm×228.6mm)のディスプレイが5面ある。

まず、正副操縦士の正面に横並びで2枚ずつのディスプレイがあり、外側はPFD(Primary Flight Display)にHSI(Horizontal Situation Display)の表示を加える一方で、内側はND(Navigation Display)とEICAS(Engine Indication and Crew Alerting System)の表示を行っているようだ。これぐらい画面が大きくなると、1画面につき1機能とは限らず、画面を分割して複数の機能をまとめて扱うこともできる。

では、センターコンソールのディスプレイは何かと言うと、おそらくFMS(Flight Management System)とEICASの機能を兼ねていると思われる。FMSとは、航法機能やオートパイロットといった飛行経路情報の管理をつかさどるデバイスで、経由する地点(ウェイポイント)あるいは経路を入力したり、選択したりする場面などで使用する。

FMSのために専用のCDU(Control Display Unit。小型のディスプレイとキーパッドで構成)を正副操縦士それぞれに設けるのが一般的なスタイルだが、グラスコックピット用のディスプレイに取り込む事例もあるわけだ。

その787も含めて、今はCRT(Cathode Ray Tube)ではなく、アクティブマトリックス液晶ディスプレイが使われている。こちらのほうが奥行きが少なくて済むし、電力消費も発熱も少ない。

液晶ディスプレイを巡るいろいろ

グラスコックピット用の液晶ディスプレイについては、4年前の「国際航空宇宙展2012」を訪れた際に、横河電機のブースでいろいろとお話を伺ったことがある。同社はエアバス製の旅客機に加えて、さまざまな自衛隊機もディスプレイ装置の納入実績があるそうだ。

航空機のコックピットで使用するディスプレイは、外光の影響で見にくくなったり、画面に周囲の風景が映り込んだりしては困る(屋外の直射日光下でノートPCやタブレットを使えば容易に理解できる話)。そのため、輝度が高く、反射が少ないディスプレイが必要になる。

また、夜間飛行時には周囲が真っ暗になるので、それに合わせて調光範囲を広くとれるようにしているそうだ。以下の写真を見ていただくとおわかりの通り、「これで映っているのか?」と疑問に思うぐらいまで輝度を落とすと、夜間にはちょうどいいのだそうである。

また、航空機で使うデバイスはすべて信頼性が第一だ。そこで、1つの画像生成装置で複数のディスプレイを担当する代わりに、個別のディスプレイごとに画像生成装置を組み込んで、冗長性を高めている。ちなみに最近では、バックライトに蛍光管ではなくLEDを使用しているという。

昼間は外光が差し込んできて視認性を落とすので、輝度を高めて対応する

夜間飛行時は、これぐらいまで輝度を落とすとちょうどいいそうだ

ちなみに、陸上自衛隊の10式戦車も横河電機製の15インチ液晶ディスプレイを装備しているそうだ。ただし、戦車は外光が差し込んでくる問題がないので、飛行機より条件は楽になるらしい。

軍用機のMFD

MFDとはMulti Function Display、日本語では「多機能ディスプレイ」という。

上で示した横河電機製ディスプレイの写真を見ると、画面の周囲を取り巻くベゼル部に押しボタンが並んでいる様子がわかる。これは軍用機のMFDでは一般的なスタイルで、画面の表示内容に応じて、ボタンの機能も変わる。

戦闘機のMFDは、レーダーをはじめとするセンサー機器からの情報を表示したり、航法関連情報を表示したりする使い方が主役だ。また、兵装の管制・設定に関する情報もMFDで扱う。どこの兵装ステーションにどんな兵装を搭載するかは任務ごとに変わるから、固定的な内容のスイッチ盤では柔軟な対応が難しい。

PFDの機能はなくてもいいのかと思われそうだが、実は飛行関連情報と照準に関する情報は別途、計器盤の上に設けたHUD(Head Up Display)に表示するので、MFDに出す必要はない。

F-22Aラプターの計器盤。MFDの配置やサイズに多少の違いはあるが、今時の戦闘機は大体こんなスタイル。中央の大きいMFDが戦術状況を表示するためのもので、これが主役。中央下部のMFDには兵装の情報を表示している Photo : USAF

軍用機も民航機と同様、当初は最も優先度が高い一部の機能だけをMFDにしたが、MFDの数が増えるとともにサイズも拡大して、入れ替わりに機械式計器が姿を消して現在に至っている。その極めつけが、大画面のタッチスクリーン式液晶ディスプレイを正面に据え付けたF-35というわけだ。

タッチスクリーン化すれば、ベゼル部に押しボタンを設ける必要がなくなるので、その分だけ画面を広くできる。また、ベゼル部以外のスイッチ類も、タッチスクリーンに取り込むことで、かなり整理できる。

下の写真を見ると、飛行関連情報を、外部の景色と一緒に奥のスクリーンに表示しているのが奇異に感じられるかもしれない。しかし、F-35はHUDではなくHMD(Helmet Mounted Display)を使うので、それに合わせてこうなっている。中央のシンボル表示は機体の姿勢を示し、左側には速度(対地速度やマッハ数も併記)、右側には高度の数字、上部には方位の数字が出ている。

F-35のコックピット・シミュレータ Photo : USAF