九州大学の研究グループは、明暗周期をひんぱんにずらしてマウスの時差ぼけ状態を長期的に誘導する「慢性的時差ぼけ条件」において、メスの体内時計がオスよりも乱れやすいことを発見したと12月9日に発表。生活が不規則になりがちなシフトワーカーや、夜ふかし習慣のある人などの健康管理において、体内時計の乱れの性差に基づいた適切な対処法の開発が期待されるとしている。
また、オスでは同じ条件で過剰な体重増加や耐糖能異常が生じる一方で、メスでは体重減少が見られるなど、性別により代謝異常の現れ方が大きく異なることも発見。
さらに、精巣を摘出したオスでは、メスのように体内時計が時差ぼけに対して乱れやすくなり、テストステロンを投与すると強靭性が回復したことから、テストステロンがオス特有の慢性的時差ぼけ反応の鍵であることが解明されたという。
この研究成果は、英国の雑誌「Biology of Sex Differences」に掲載されている。
ヒトの体には、約24時間周期で刻まれる体内時計が備わっており、睡眠・覚醒状態や生理活動などの日内変動が制御されている。不規則な明暗環境で体内時計が乱れると、肥満や糖尿病などの疾病リスクが高まることが知られているが、ヒトでは食生活や運動習慣、遺伝的要因などが多様であるため、明暗環境が体内時計に及ぼす影響を明らかにするためには、飼育環境や遺伝的背景を統一した動物実験が必要となる。
これまでの動物実験では、体内時計の乱れやすさや、肥満・糖尿病の原因となる代謝異常との関連を探るために、主にオスの動物のみが用いられており、メスの動物を用いた研究はほとんどなかったという。このため、性別による体内時計の乱れやすさの違いとその原因は不明だった。
同大学大学院農学研究院の安尾しのぶ教授は、「一般的に『時差ぼけで太る』ことが知られているが、シフトワーカーの肥満・糖尿病リスクの性差に関する統一的な見解はない」としたうえで、今回の研究について「雌雄のマウスを用いて慢性的時差ぼけ条件の影響を調査すると、メスの体重は一般的な認識とは逆に、対照群に比べて減少することが分かった。人間社会では、これらの生物学的な影響に加えて、食生活やストレスとの関連が重なって複雑な影響が生じていると予想される。体内時計の乱れの性差に基づいて、食事・栄養・運動・薬剤などを通した適切な対処方法を開発する必要がある」と指摘している。