【進化する映画館】東映グループが進める参加型エンターテイメント戦略

映画館が進化している─。いまや映画館は映画鑑賞のためだけの場ではない。ライブコンサートやイベントの遠隔会場となっているのだ。映画館を使ったライブビューイングと呼ばれる上映は観客、主催元、映画館、三者にとってメリットが大きい新しいエンターテイメントである。映画館の上映スケジュールで目にしたことはあるけども体験したことはない、という人がまだ大半ではないだろうか。20年前から映画館のデジタル化をいち早く進めてきた東映グループに、その実態について探ると─。

映画を観るだけではない場所へ

「今回もまたチケットが取れなかった」─とSNSで落ち込みをつぶやく人々。そんな抽選予約のチケット争奪戦に敗れた〝推し活〟(熱烈なファン活動)に熱心な人々が次に向かう先は、映画館でリアルタイム配信をするライブビューイング。

 いま映画館は映画を上映する場所としてだけではなく、人が集まり何かを共有する場所に変化している。その何かは、音楽ライブ、歌舞伎、舞台、スポーツ、ゲームイベントと様々である。アイドルグループ・嵐のコンサートや滝沢歌舞伎、ラブライブ(アニメのイベント)などが特に人気の上映だ。

 歴史を振り返れば、映画以外の作品を映画館で流すODS(Other Digital Stuff)上映が始まったのは2004年、「劇団☆新感線」の舞台を収録し映画版に編集されたものを東映グループ会社のティ・ジョイが全国の映画館で配信したのが始まり。

「2000年の創業時に社長・岡田裕介(のち東映社長・会長・故人)が、これからはデジタルの時代だということで、われわれはデジタル化の推進をどこよりも先にやってきた。当時映画館でのデジタル機を活用できるのは弊社だけだった」と話すのはティ・ジョイ執行役員の大河内太加至氏。

 2011年に創業した競合他社のライブビューイングジャパンが光回線を通じた配信を行う一方、ティ・ジョイは衛星配信が強みで海外上映も可能。そのため海外での上映反応をテストしたい場合は、同社に依頼が来ることが多い。

 ライブビューイングのビジネスモデルは、映画上映とは全く異なる。まずはコンサート会場のチケットがどれくらいの時間で完売するかが一つの指標となり、権利元が映画館で上映するかどうかを決める。それを受けて映画館側がどの都市の映画館でやるかを決める仕組み。チケットはコンビニなどで予約を受け付け、実施が決まったら顧客の予約が購入に切り替わるシステムとなっている。客数の把握ができる点が映画と大きく異なる点で、利益を見越した上で上映ができる。

 また、本会場に入れなかった人たちが参加手段の情報を主体的に取りに行くため、映画館側はプロモーションが不要で広告費がかからないという。ファンたちはフォローをしているHPや役者のX(旧ツイッター)などのSNS投稿でライブビューイング実施の情報を得て、その噂がファンの間で一気に広まり予約が埋まるという流れ。

 チケット価格は本会場の半分以下(4000~5000円程度)で、観客にとっては交通費などを含めた経済的なメリットに加え、会場では見ることのできないライブ開始前の舞台裏中継があったり、ライブ中にアーティストからライブビューイング会場への投げかけも行われる。これに加え声出しも可能なため、ライブの臨場感を感じることができ観客の満足度は高い。

 映画館にとっては、映画約2本分の枠をライブビューイングに充てることで、新たな収益確保が可能となる。座席が埋まる人数によっては映画上映より利益率が高い場合もある。

 コロナ禍で映画館が封鎖された際は同社も創業以来の赤字となったが、現在コロナ前の9割程度まで回復。認知度も徐々に上がってきており、23年のライブビューイング一本当たりの収益単価は約6000万円弱まで上がっている。イベントの本会場に行けない人を救済でき、主催元と映画館はプラスの収益を上げることができる誰もが得をする仕組みのため、今後も市場伸長が期待される。

観る映画から参加する映画へ

 ライブ等のイベント以外にも、通常の映画上映後に映画イベントのライブビューイングを行うライブビューイング付き上映会というものもある。

 今年2月上旬、アニメ『映画プリキュアオールスターズF』の上映イベントが丸の内TOEI(東京都中央区)で4日間に渡って行われた。このうち3日間のイベントをライブビューイングで全国劇場に配信。全国各地のファンを繋ぎ、歴代キャラクターによるダンスや主題歌が披露されるライブイベントで、観客は配られたミラクルライト(光るグッズ)で盛り上がった。

 ライブビューイングを含めた同映画の興行収入は、歴代シリーズ最高興収の15億円となり大成功を収めた。

 このプリキュアというコンテンツは、女児向けアニメの中ではセーラームーンやおジャ魔女ドレミなどの人気シリーズを遥かに超える20年のロングヒットコンテンツである。長年人気の理由を「毎年スタッフが入れ替わり、新しい時代に合った考え方を取り入れながらも守るべき型は破らない。子供から大人までいくつになって観ても楽しめる内容」と東映・映画営業部営業企画室長の若月健太郎氏は分析する。いわゆる勧善懲悪のストーリーで戦いが描かれるため、最近は男女の高校生カップルで観る光景も多く観客世代も上がってきているという。

 またこのプリキュアは〝応援上映〟と呼ばれる観客参加型映画の走りである。映画の中で観客への呼びかけがあり、それに観客が声を出したり、ミラクルライトを振って応えるというシーンが盛り込まれている。映画上映中は静かにしなければいけないという今までの常識が壊されている。

 これまで映画は受動的なものであったが、こういった顧客参加型映画や、上映とセットでイベントを実施し、ライブビューイングで〝人々をつなぐ〟という新たな付加価値が生まれている。

 参加型エンターテイメントの多様化が進むと同時に、映画館という場所自体も、鑑賞以外の新たな場として大きな可能性を秘め、進化を続けている。