秋田県立新屋高等学校(以下、新屋高校)では2023年、当時1年生の全生徒が「Python 3 エンジニア認定基礎試験」(以下、Python基礎試験)を受験した。普通高校に入学したばかりの1年生にとって、おそらく同試験は難しかったであろう。

新屋高校はどのような狙いでPythonを活用したプログラミング教育を実施しており、同試験受験によって、どのような成果を得たのだろうか。同校の情報科主任の加賀谷悟氏、1年部主任/探究・キャリア委員会チーフの 阿部大輔氏に話を聞いた。

  • 左から、秋田県立新屋高等学校 1年部主任 探究・キャリア委員会チーフ 阿部大輔氏、情報科主任 加賀谷悟氏

IT人材を育成する「デジタル探究コース」設置

新屋高校は、カリキュラム・ポリシーとして、「新屋高校SSCプロジェクト(SDGs×STEAM×キャリア教育)」を中心とした、探究的な学習活動に重点を置いている。

また、秋田県はデジタル人材育成のための事業として「デジタル教育未来へ RUNプロジェクト」を進めており、その一環として、令和4年度に普通高校においてデジタル人材を育成する「デジタル探究コース」を新設した。

新屋高校には令和5年度にデジタル探究コースが設置された。同コースでは、Googleから、情報リテラシー教育やコンピュータサイエンスに関する学習やエンジニアとのオンラインセッションといった支援を受けられる。

ちなみに、令和5年度にデジタル探究コースが設けられた秋田県内の普通高校は46校中10校だという。その影響もあってか、数年前まで新屋高校の受験希望者数は定員割れだったところ、今年度は県で2、3番目の受験希望者数を記録したそうだ。中学生においてもITを学びたいという熱が高まっているのだろう。

加賀谷氏は「当校では、探究キャリア委員会を中心に、情報に関する教育を学校全体で進めています」と語る。

  • 秋田県立新屋高等学校で情報科を担当している加賀谷氏

2022年から高等学校ではプログラミングを学ぶ「情報Ⅰ」が必修科目となっているが、新屋高校は特にプログラミングをはじめとしたITを学ぶ素地が整っていると言えそうだ。

インターネット上のコンテンツを活用して学習

新屋高校では、1年生で「情報Ⅰ」を履修する。加賀谷氏によると、情報Ⅰでは、IT利用に関するモラル、ネットワーク、プログラミング、ビッグデータの扱い方を学ぶとのこと。ビジネスマンのITの基礎研修と同等の内容と言っても過言ではない。

プログラミング言語はPythonを採用しているが、秋田県内の高校はほぼPythonだという。学生にとってプログラミングはわからないことだらけだが、案外楽しんでおり、内容が難しくなってくると反応が分かれるとのことだ。

今回、情報Ⅰの授業の一環として、1年生全員がPythonエンジニア育成推進協会が実施している「Python基礎試験」を受験した。同試験は、Pythonエンジニアとしての基礎力が身についているかどうかを問うもの。合格すると、Pythonの基本文法やデータ構造、制御構造ツールが問われ、Pythonエンジニアとしての基本スキルを備えていることを証明できる。

阿部氏は、1年生全員が「Python基礎試験」を受験した背景、目的について、次のように説明した。

「県のデジタル探究コースに指定されたことは大きいです。というのも、デジタル探究コースでは県の助成をもらいながら試験に臨めるからです。また、試験を受験する生徒を限定すると、モチベーションが上がらないので、全員で受験することにしました」

  • 自身も「Python基礎試験」を受験して合格したという阿部氏

Python基礎試験の受験勉強においては、インターネットで公開されている動画配信や模擬試験を活用したほか、モノグサが提供している教育アプリ「Monoxer」を活用したとのこと。IT関連の書籍は比較的高価だが、工夫をすれば、コストをかけなくてもやる気さえあればいくらでも学ぶことは可能だ。

Pythonを学べばキャリアにつながる

加賀谷氏と阿部氏に、高校生がPythonを学ぶ意義について聞いてみた。

加賀谷氏は「高校生といえども、Pythonができたほうがいいでしょう。なぜなら、Pythonを学ぶことで、コンピュータでモノを作っていくという考え方を学ぶことができ、キャリアにつながると思います」と話す。

阿部氏は「Pythonはさまざまな分野で注目を集めているので、Pythonの技術を習得していると仕事につながり、就職できる場が広がります。少しかじってみると Pythonには論理的思考力が必要であることがわかります。Pythonはデータサイエンスのみならず、他の分野にも応用できます」と語る。

また、Pythonエンジニア育成推進協会の代表理事を務める吉政忠志氏は、「新人研修のプログラミング言語はPythonが最も多いので、高校生の時点で学んでいれば、すでに一歩先をいっていることになります。また、Pythonを学ぶことで、日常生活ではあまり行わないようなロジカルシンキングに関するノウハウを得られると思います。なお、私は他のIT関連の認定試験を運営していますが、一学年のすべての生徒さんが受験するというのは初めて聞きました」と語っていた。

ちなみに、Pythonエンジニア育成推進協会では、Pythonを自習できる環境が必要であることから、動画教材の提供を検討開始しているそうだ。

  • Pythonエンジニア育成推進協会 代表理事 吉政忠志氏

Pythonで社会課題の解決に取り組む生徒も

実のところ、昨年は154名の生徒が「Python基礎試験」に臨んだが、残念ながら合格者は出なかった。しかし、一部の生徒は「次は、受かりたい」と、再度受験する意欲を見せているとのこと。

阿部氏は、「全員受験をしたことで、意外な生徒がデジタル探究コースを選ぶなど、生徒の個性が見えました」と、「Python基礎試験」受験を振り返る。

また、コワーキングスペースを作っている企業と共に、センサーを開発してコワーキングスペースの混雑状況を可視化することに取り組んでいる生徒もいるという。

「プログラミングによって、地域の課題や社会の課題の解決に取り組めるという点はおもしろいと思います。あくまでもプログラミングをツールとして、問題を解決することに活用できるようになれるといいですね」と、阿部氏は話す。

加賀谷氏は「新1年生に対し、今回の経験を生かしてよい指導ができると思います。進級した2年生は情報Ⅰの授業がなくなりますが、じぶんのやりたいことを探して、総合的な探究授業で高度なプログラミングに挑戦してもらいたいです」と語る。

新屋高校のPython教育は始まったばかりだが、この一年で得たものは大きかったといえる。Pythonによってあらたなパワー得ることで、学生の皆さんには自身の夢の実現に向けて、羽ばたいてもらいたい。