12月1日、「2023ユーキャン新語・流行語大賞」の表彰式が行われ、阪神タイガースの岡田監督の「アレ(A.R.E)」が大賞に輝いた。そのほかにも「ペッパーミル・パフォーマンス」や「蛙化現象」など、2023年に日本を沸かせた言葉がラインクインする中、「生成AI」という言葉も上位10位に入選した。2023年は、企業にとって生成AIと向き合う1年になったことだろう。

流行語大賞にランクインしているほど有名な言葉なので、言葉自体を聞いたことがないという人は少ないかもしれないが、改めてどのようなものか説明しようと思うと分からないという人もいるのではないだろうか。

生成AIとは、「Generative AI(ジェネレーティブAI)」とも呼ばれ、さまざまなコンテンツを生成できるAIのことを指す。従来のAIが決められた行為の自動化が目的であるのに対し、生成AIはデータのパターンや関係を学習し、新しいコンテンツを生成することを目的としているものだ。

今回はAI・AR(拡張現実)を駆使した世界最大級のBeauty/Fashion Tech SaaS(Software as a Service)を生み出すパーフェクトの日本法人代表取締役社長である磯崎順信氏に話を聞いた。AI×ファッションの世界に生成AIはどのように活用されていくのだろうか。

  • パーフェクトの日本法人代表取締役社長 磯崎順信氏

    パーフェクトの日本法人代表取締役社長 磯崎順信氏

4℃のアクセサリーをバーチャル試着

パーフェクトは、2015年にサイバーリンクからスピンオフする形で創業した台湾に本社を持つ企業で、AIおよびAR技術を活用したソリューションサービスを提供し、ビューティおよびアパレル業界でDX(デジタルトランスフォーメーション)を奨励している。

BtoC向けには「YouCamメイク」を筆頭に全5アプリをリリースし、合算10億ダウンロードを突破しており、BtoB向けにはAI/AR SaaSの提供を手がけ、両方の軸でサービスを展開している企業だ。

この旗艦アプリであるYouCamメイクは、最先端の顔認識技術により自然なメイク加工が楽しめる自撮り写真加工アプリで、肌診断・トレンドメイク・ヘアカラー・ブランドコスメ・美顔加工などを楽しめるものとなっている。

また、それ以外にも世界的なテック企業大手とパートナーシップを結ぶことによって、現実的なオムニチャネル展開を実現しているという。

「パーフェクトの事業の目的は、さまざまなタッチポイントで質の高いエンゲージメントを膨大に出すことによって、『あ、これ自分に合うかもしれない』という瞬間を作ることにあります。従来、店舗で物理的に手に取ってみる、カウンセリングを受けてみる、プロの意見を聞いてみる、といった行為を通じて、そのような瞬間は作られるのですが、デジタル上でこれに非常に近い体験を提供したいという想いで事業を展開しています」(磯崎氏、以下同氏)

  • パーフェクトの事業を語る磯崎社長

    パーフェクトの事業を語る磯崎社長

この想いを軸に開発されている同社のサービスは、世界80カ国600以上のブランドで導入された実績を持ち、「ECにおけるお気に入り登録率 2倍」「自社ECのCVR(コンバージョンレート) 最大300%アップ」などの導入実績を誇る。

2023年11月30日には、ジュエリーの2D画像をシステムにアップロードするだけで、ウェブサイト上でバーチャル試着できる3Dモデルを瞬時に生成する新機能を発表し、エフ・ディ・シィ・プロダクツグループが展開するジュエリーブランド「4℃」を日本国内初導入のパートナーに迎えたことが発表された。

パーフェクトのサービス導入により、4℃の公式サイトでは、イヤリング・ピアスを含め21点(随時追加予定)についてバーチャル試着をすることができ、スマートフォンおよびタブレット端末上で購入前に装着イメージが確認できるようになったという。また、アップロードした写真へのAR試着にも対応しており、恋人や友人など贈りたい相手の顔写真で装着イメージを確認しながら、ギフトを選ぶことも可能となっている。

美容×ARでショッピング体験に大きなインパクトを与える

このようにAIとARを活用したさまざまなサービス展開を見せるパーフェクトだが、磯崎氏は、学生時代はITを中心に学んでいたわけではないそうだ。大学生の頃にアメリカのカルフォルニアとアイダホに留学していた磯崎氏は、インターナショナルビジネスを中心に学んでいたという。

「アメリカでビジネスを学んでいる当時から、これからのビジネスの未来にテクノロジーは切っても切り離せないだろうなということは思っていました。そのため、日本で就職するために帰国してからもIT企業に入社しました」

その後、組み込み系のエンジニアやクラウド系の企業など、少しずつ業態の違う企業を渡り歩きながらパーフェクトに参画することになった磯崎氏だが、「最初は『AR』というジャンルに一過性の面白さしか感じませんでした」と当時を振り返る。しかし、美容×ARというサービスの話を聞いた際に、「これは顧客のショッピング体験に大きなインパクトを与えることができる」と感じ、参画を決めたという。

  • パーフェクト参画までの経緯を語る磯崎社長

    パーフェクト参画までの経緯を語る磯崎社長

また、磯崎氏の仕事に対するモチベーションは「エンドユーザーのわくわくが見えること」だそうで、BtoBtoCの事業に現在は注力しているという。特に最近は、大手企業だけでなく個人経営のサロンなどに、肌カウンセリングツールの「Skincare PRO」の導入も開始しているそうで、このスタートを2023年の大きな出来事の1つとして挙げていた。

2024年は業界全体で明るい1年に

サロン向け肌カウンセリングツールの提供開始のほかに、磯崎氏は2023年の大きな出来事としてあげたのが「生成AIの台頭」というキーワードだ。

「生成AIの台頭は、弊社にとっても、業界にとっても大きな出来事でした。本当に価値の高いユーザー体験サービスは、これから出てくる予定なので、結果はまだまだ先にはなるのですが、全社的に生成AIを活用するという動きに舵を取れたのは評価に値すると思っています」

磯崎氏の語る通り、さまざまな企業にインパクト与えた生成AIだが、「パーフェクトは同じような業態の企業と比べてもかなり早い段階で、集中型の開発はできていると思います」と自信を見せ、サービスや商品に関しては100点の出来だったと語った。

パーフェクトとしては、プロンプトによる画像生成、1枚の写真を元にさまざまなジャンルのイラスト風セルフィーを自動生成できる「AIセルフィー」、自撮り画像を元にいろいろなテーマに合わせたアバターの生成を行える「AIアバター」、1枚の写真を元にして自分が着た時の見え方を確認できる「AI Clothing」などの技術に取り組んだ2023年だったそうだ。さらに、2024年の春には、さまざまな髪質に対応し、ユーザーごとの顔に違和感のない形でヘアスタイルを適用させる「AI ヘアスタイル」も予定している。

生成AIについて、「大半の人が分かっていない状態で進んでしまっているのが怖い」としながらも、大きな利用価値は感じているそうで、時流に置いていかれずに新しいことをビジネスに組み込むには最新の技術がどうしても必要だ、と生成AIの活用に意欲を見せた。

最後にここまで話を伺ってきた磯崎氏に2024年をどんな1年間にしたいかという展望を伺った。

「一言で言うと『明るい年』にしたいです。2023年はコロナで大きく影響を受けた美容・ファッション業界が少し持ち直してきた1年だったので、2024年は完全復活したら良いなと思います。また、それに加えてパーフェクトとしても企業価値を高め、多くの人に知っていただける1年にしたいと思っています」