東京大学(東大)、アストロバイオロジーセンター(ABC)、科学技術振興機構の3者は11月30日、宇宙と地上の両望遠鏡の連携観測により、かみのけ座の方向に太陽系から約100光年先にある、太陽の約8割の質量と半径を持つ星「HD 110067」の周りで、6つ子の「トランジット惑星」を発見したことを共同で発表した。

  • 発見された6つの惑星の位置を一定の時間間隔でつないだ線が作る幾何学模様

    発見された6つの惑星の位置を一定の時間間隔でつないだ線が作る幾何学模様。(c)Thibaut Roger/NCCR PlanetS、CC BY-NC-SA 4.0(出所:東大Webサイト)

同成果は、東大大学院 総合文化研究科 広域科学専攻の成田憲保教授(同・研究科 附属先進科学研究機構 教授/ABC 客員教授 兼任)、同・福井暁彦特任助教らを含む、多色同時撮像カメラ「MuSCAT」シリーズを開発した研究チームによるもの。詳細は、英科学誌「Nature」に掲載された。

HD 110067は、米国航空宇宙局(NASA)のトランジット惑星探索衛星「TESS」によって、2020年3~4月および2022年2~3月に約27日ずつ明るさの変化がモニタリングされ、約9.11日(1つ目の惑星)と約13.67日(2つ目の惑星)の周期でトランジットによる減光が確認された。しかし、観測データには他にもトランジットらしき減光がいくつもあり、同恒星のトランジット惑星の総数や各周期などが不明だった。そこで研究チームは今回、その謎解きに取り組んだという。

惑星ごとにトランジットの形(減光の深さと継続時間)は固有であり、TESSのデータには2種類の同じ形のトランジットのペアが存在することが、2020年と2022年にそれぞれ1回ずつ観測されていた。しかしそれらは連続観測ではないため、必ずしも周期が2年とは限らず、その2回のトランジットの時間間隔を自然数で割ったものが真の周期の候補となるとのこと。それらの候補のトランジットの時間帯に、欧州宇宙機関(ESA)の宇宙望遠鏡「CHEOPS」が観測を行った結果、2種類のうち1つのトランジットは約20.52日(3つ目の惑星)の周期であることが確認されたとする。

同一天体を公転する複数の天体の周期比が簡単な整数比になることを「尽数関係」というが、確認済みの3惑星の周期は、隣り合う同士の比がそれぞれ2:3だった。このように尽数関係の惑星が3組あることを惑星形成の観点から考えると、同惑星系では形成時に複数の惑星がお互いに尽数関係を持つ「平均運動共鳴」の軌道に捕捉され、原始惑星系円盤内でその関係を保ちながら現在の軌道まで移動してきたと考えられるという。このことから研究チームは、残りのトランジット惑星も尽数関係を持つ可能性が高く、観測された2回のトランジットの時間間隔を自然数で割った値が3つ目の惑星と尽数関係にあると推測し、4つ目の惑星の周期を約30.79日と見出した。

しかしながら、2022年のデータにのみ捉えられたそれぞれ異なる形のトランジットがまだ2つ残っていた。研究チームは、1回のトランジットのみのために真の周期は不明であるものの、5つ目の惑星は4つ目に対し、6つ目は5つ目に対して尽数関係にあると仮定。それぞれの周期比が1:2、2:3、3:4、4:5、5:6の5通りと、2つのトランジットがそれぞれ5つ目と6つ目のどちらか不明なので2通りの場合分けを想定し、50通りのシナリオが考察された。そして天体力学的な考察などをもとに、5つ目は4つ目に対して3:4となる約41.06日、6つ目は5つ目に対して3:4となる約54.77日である可能性が高いと推測し、以下の2つの方法でその仮説の検証を行ったという。

1つ目は、2022年5月23~24日(協定世界時)にかけて行われた複数の地上望遠鏡による5つ目の惑星のトランジットの追観測キャンペーンだ。同キャンペーンにはMuSCATチームも参加し、スペイン・テネリフェ島にある「MuSCAT2」でトランジットの開始、アメリカ・マウイ島にある「MuSCAT3」でトランジットの終了を精度良く捉えることに成功したとする。

  • スペイン・テネリフェ島テイデ観測所の1.52m・カルロスサンチェス望遠鏡に搭載されたMuSCAT2

    スペイン・テネリフェ島テイデ観測所の1.52m・カルロスサンチェス望遠鏡に搭載されたMuSCAT2。(c)MuSCATチーム(出所:東大Webサイト)

  • アメリカ・マウイ島ハレアカラ観測所の2m・フォークス北望遠鏡に搭載されたMuSCAT3

    アメリカ・マウイ島ハレアカラ観測所の2m・フォークス北望遠鏡に搭載されたMuSCAT3。(c)MuSCATチーム(出所:東大Webサイト)

このトランジットは減光の深さが0.1%程度しかなく、その継続時間は5時間以上、予報の誤差も大きいという難度の高い観測だったが、研究チームによれば、地上最高レベルの測光精度を4色で同時に達成でき、時差の離れた望遠鏡に搭載されているMuSCAT2とMuSCAT3の連携が大きな威力を発揮したという。その結果、5つ目は予測通りの約41.06日であることが確認された。

  • 5つ目の惑星のトランジット追観測キャンペーンのデータ

    5つ目の惑星のトランジット追観測キャンペーンのデータ。横軸はユリウス日から245万7000を引いた値(単位は日)。縦軸はHD 110067の相対的な明るさの時間変化で、単位のpptは0.1%。グラフは、各望遠鏡のデータが1pptずつ縦にずらしてプロットされている。最上部の4つが4色同時観測したMuSCAT2とMuSCAT3のデータ。これらのデータに対して、トランジットが起きていないモデルと起きているモデルをWAIC(渡辺・赤池情報量基準)を使って比較することで、トランジットが起きていると判断された。掲載論文のExtended Data Fig.4を改変して引用されたもの(出所:東大Webサイト)

2つ目は、月や地球からの散乱光が観測視野に混入してしまったために解析対象外とされていた2020年のTESSのデータの解析である。5つ目と6つ目のトランジットがその中にあると推測され、解析の結果、実際に予想された時刻にトランジットが確認された。

今回の研究により、HD 110067はすべての隣り合う惑星の公転周期が尽数関係を持つ6つ子の惑星系であることが判明した。なお、7つ目以降の存在は未確認だが、今後も探索が続けられるという。また、6つの惑星は地球の1.9~2.9倍ほどの半径を持ち、岩石惑星ではなく、水素大気を持つ小さな海王星(海王星の半径は地球の約4倍)のような惑星であることが考えられるとしている。

さらに、HD 110067のように3つ以上の惑星が尽数関係を持つ惑星系は、惑星が原始惑星系円盤内でどのように形成され、移動していくのかを理論的に深く考察する手がかりを与えてくれるとする。

加えて、5つ以上のトランジット惑星が発見されている星の中で、HD 110067は最も明るいとのことで、明るい星のトランジット惑星は大気の観測に適しており、しかも複数あるので大気の比較も行えるという。以上から、今回の6つ子惑星は今後、惑星大気観測の絶好のターゲットとなり、尽数関係にある惑星が原始惑星系円盤内でどのように大気を獲得したか、そして恒星からの光が惑星大気の散逸や化学進化にどのような影響を与えたか、といった研究が進むことが期待されるとしている。