京都大学(京大)は2月15日、万引きがやめられない精神障害「窃盗症(クレプトマニア)」(通称:万引き依存症)の患者には、スーパーマーケットなどの物品を盗む状況と関連する画像やビデオなど、窃盗症を引き起こすと考えられる視覚的な手がかり刺激に対して、健常者には見られないような視線の動きと脳活動の反応が見られることを明らかにしたと発表した。

同成果は、京大大学院 情報学研究科の後藤幸織准教授、同・大学 理学研究科の浅岡由衣大学院生、MRCラボクリニックの元武俊医師らの共同研究チームによるもの。詳細は、作用機序や臨床応用を含む神経精神薬理学的薬剤に関する全般を扱う学術誌「International Journal of Neuropsychopharmacology」に掲載された。

窃盗症は、ものを盗みたいという衝動や欲求を制御できず、窃盗を繰り返してしまう精神障害の一種とされている。米国精神医学会の精神障害診断基準「DSM-5」では、「秩序破壊的・衝動制御・素行症群」に分類されている。万引きなどで逮捕される人の中には、窃盗症患者も少なくないという。窃盗症患者は、刑罰では窃盗をやめられないことから、再犯を防ぐためには適切な治療が重要と考えられているが、その科学的な研究がほとんど行われていないため、メカニズムが不明で、治療も限定的だという。

また、不利益な結果になると理解しながらも、特定の行動への衝動を抑えられず、何度も繰り返してしまう精神障害に「行為嗜癖(行動依存症)」がある。ギャンブル、インターネット、ゲームなどに対する依存は、覚せい剤やアルコールなどの物質を対象とする「物質使用障害(薬物依存症)」と同様のメカニズムが関わっていると考えられている。窃盗症も、物質使用障害(薬物依存症)と似た症状があることから、依存症の1つと考えられているが、その点に関しても知見が乏しいのが現状だという。

これまで、薬物依存症における強迫的な薬物追求は、薬物を摂取することによる快楽への渇望や、薬物がないことによる離脱への嫌悪といった感情的な問題で説明されてきた。しかし近年においては、薬物依存症は不適応な学習が成立してしまったために生じているものであると考えられるようになってきた。

たとえば、これまでの研究から、アルコール依存症では、アルコールの摂取と同時に、その時の周囲の環境を関連づけて学習してしまう結果、同様の環境(手がかり)の刺激が引き金になって、生体の反応の変化を伴う強い渇望が引き起こされることがわかってきたという。

そこで研究チームは今回、薬物依存症と同様に、窃盗症でも症状に関連する手がかり刺激に対して不適応学習がなされた結果、行動や脳活動の反応が変化しているかどうかを調べることにしたという。