アステラス製薬は4月20日、データマイニングシステム「DAIMON(Data Analysis and Integration for Multivariate mONitoring:ダイモン)」に関する記者説明会を開催した。同システムは、生産現場で生じる膨大なデータをリアルタイムに収集して解析可能であり、生産トラブルへの備えとして生産現場のリスク予測と未然防止を支援する。

同社の薬剤開発においては、当然のことながら開発段階で十分に製品と生産プロセスの理解を深めてから上市するのだが、生産段階では予期しないさまざまな変動に遭遇するため、生産段階でも生産プロセスの理解を深め続ける目的でデータの利活用を推進している。その取り組みの一つがDAIMONだ。

  • アステラス製薬のデータマイニングシステム「DAIMON」

同システムの主な機能は「一変量モニタリング」「因果・解析関係モニタリング」「多変量モニタリング」の3つ。Webアプリケーションとして利用可能であり、各担当者が自身のPC端末から自由にモニタリングを実施できるため、朝礼時などには定期的に情報交換を行っているようだ。

「一変量モニタリング」は、いわゆるSPC(Statistical Process Control:統計的プロセス管理)のイメージだ。DAIMONではpHや粘度、温度など1ロットあたり数1000のデータを取得しており、それぞれのデータについてトレンドをモニタリングし、閾値から外れた場合に自動アラートをメールで発するという。

  • 一変量モニタリングのイメージ

「因果・解析関係モニタリング」は研究開発段階で蓄積された既知の知見を、商用生産段階にも適用するモニタリング手法だ。これにより、薬剤の粒子径と硬度による溶出への影響など、あらかじめ得られているデータから逸脱しているロットを確認可能となる。

  • 因果・解析関係モニタリングのイメージ

「多変量モニタリング」は生産段階で得られるデータに基づくモニタリングだ。生産段階で得られるデータからビッグデータを構築し、生産ロットの変動を効率的かつ効果的に検出する信頼区間を設定し、この信頼区間から外れるロットを検出する。異常な挙動を示すロットのデータを確認し、影響を与えているパラメータを迅速に特定できるような特徴を有する。

  • 多変量モニタリングのイメージ

DAIMONを活用してトラブルの原因特定を実施した事例として、同社の製薬研究所でプロセス設計研究室に従事する則岡正氏は低分子医薬品の異常検出の例を紹介した。

  • アステラス製薬 製薬研究所 プロセス設計研究室 則岡正氏

薬品の製薬プロセスにおいては、原薬の定量値に応じて最終的な製品の定量値が目標量に対して100%となるよう仕込みを補正しているという。しかし原薬の定量値が異なっていたために、最終的な製品に含まれる成分の定量値が異常値を示した例が発生したとのことだ。この際に、一変量モニタリングのトレンド異常検出から原薬の定量値と製品の定量値の相関を調査し、原因の特定と対応を迅速に遂行できたそうだ。

  • DAIMONを活用した異常値検出の具体的事例

さらに同氏は、DAIMONを活用した生産プロセス改善の事例を挙げた。ロット間でばらつきが生じる作業として、特定の液体から2段階の作業を経て別の液体を製造する作業工程がある。ここで最終的に得られる液体の「パラメータZ」が適切でない場合には調整作業が生じるため、残業の発生要因になっていたという。

しかし同システムを用いて網羅的なデータ分析を行った結果、パラメータZは加工前の液体の「パラメータY」と高い相関関係を持つことが明らかになった。そこで、あらかじめ測定したパラメータYに応じて後の作業工程を予測できるようになり、生産プロセスが改善されたとのことだ。パラメータYおよびパラメータZの相関性はこれまで予想していなかったものであり、DAIMONによる網羅的な解析の賜物だとしている。

  • DAIMONを活用した生産プロセス改善の具体的事例

則岡氏はDAIMONについて「人の手がほとんどかからない状態で継続的に知識獲得サイクルを回すことができる。製薬工程を高度化し、患者への医薬品の安定供給を実現する唯一無二のシステム」と説明した。

同システムは既にバイオ医薬品への展開まで完了しており、今後はさらに製造プロセスが複雑な細胞製剤などへの応用を目指すとのことだ。

  • DAIMONは今後細胞製剤などへの展開も予定されている